一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

10 油断は大敵、人だろうが魔物だろうが見かけ通りとは限らない。

「フンッ! ハッ! セイッ! トォリャッ!」


 準決勝が始まる前に、今舞台上では演武や試し割り等、様々な事が行われている。 勝ち上がった人物だけではなく、負けた人物まで参加しているとなると、俺達も何かやらされそうな予感がする。 そんな話は一切聞いていないというのに。


 俺と隊長はその演武等を見ていたのだが、大会運営のノアさんが俺達を呼びに来ていた。 まあたぶんこれに参加しろと言うのだろう。


「バールさん、アツシさん。 マリーヌ様の命で、今から模擬戦闘を行ってもらいますから、どうぞ舞台にお上がりください。 ちなみに拒否権はございませんのでご了承を。」


 ほらやっぱり。 マリーヌ様も主催国だからと、やりたい放題やってくれる。


「模擬戦闘? また俺達同士が戦えって事か? それでも良いが、今更勝敗が変わったら面倒じゃないのか?」


「いえ、そうじゃありません。 戦う相手は此方で用意してありますので、お二人で頑張って倒してください。 あ、因みにフレーレ様とエル様は呼んでおりませんので、お二人での戦闘となります。 彼方は対戦数が此方よりも多いですからね。」


 俺と隊長とのタッグ戦を行うのか。 しかし相手は誰だろう? まだ戦ってはいない人物だと思うのだけど。


「ノアさん、俺達の相手の情報って教えてもらえませんか? ちょっと対策を立てたいんですけど。」


「すみませんバールさん。 此方の都合でまだ教える事はできません。 まあでもかなり強いと思いますけどね。 その戦闘に限り、武器の制限と、腕の重りを外すらしいですから、期待していてください。」


 そんな強敵と戦いたくないんだけどなぁ。 どうせ文句を言っても聞いてはくれないだろうから、俺達は大人しく舞台の上に向かって行った。


 舞台の上には大きな檻が置かれている。 布で中は見えなくされているが、どうやら相手は人間じゃないらしい。 俺達を魔物と戦わせようと言うのだろう。


 俺達が舞台上に上がると、舞台上の周りが大きな柵で覆われた。 全て完了したのか、檻を覆っていた大きな布が引っ張られて外された。 その瞬間ガンと言う音と共に、檻がバラバラに崩れ、中からその魔物が出現した。


 魔物の姿は、獅子をベースに、頭にヤギの角が付いた魔物だ。 他に特徴も無く、そう強い部類ではなさそうだ。 だが何か隠された能力があるかもしれない、油断さえしなければ勝てるとは思う。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 俺達を見つけるとその場で威嚇するように吠えた。 今までは随分大人しかったから眠っていたのだろう。 今は無理やり起こされて機嫌が悪いらしい。


「おし、お前が敵を抑えろ。 俺がその間に倒してやる。」


「了解。 んじゃ行きますか。」


 俺達を威嚇し、警戒しているこの獅子に向かって、真っ直ぐに突っ込んだ。 獅子は避ける素振りも見せず、頭の角を使って強撃を仕掛けた。


 俺の盾へと、激しい衝撃がやって来る。


「ぬぐッ!」


 だが耐えきれない程では無い。 グッと堪えて、この獅子の進行を抑えた。


「いよーし、よくやった! んじゃ早速止めを刺してやろう!」


 隊長が動き出し、その刃が敵に触れる瞬間、俺達は一瞬にして敵の攻撃を浴びてしまった。 隊長の剣撃は弾かれ、接触している俺は真面にくらってしまった。 これは電撃の類か? 死ぬ様なレベルではないが、体の痺れはかなり不味い! 


「ぬああああ・・・し、痺れる。」


「畜生、いッてぇなコラ! 電撃なんて出すんじゃねぇよ!」


 隊長はまだ動ける様だが、俺は腕に、というか全身に力が入らない。 そんな俺に向かって獅子は反撃を始めた。 俺の頭を狙いその鋭い爪を振り上げた。


 ガシイィィッ!  盾が何とか間に合ったのだが、受け止めきれずに持っていた盾が吹き飛ばされた。 もう次の攻撃は防げそうもない! 二撃目の攻撃が俺の体へと真面にぶつかった。


 流石にこれ程の力で殴られると、俺にもそれなりにダメージがあった。 隊長も見れるだけじゃなくて助けに入って欲しいものだ。


「ぐあぁッ!」


「良し、もう動けるぜ! 待たせたなバール。 いってやるぞこの野郎!」


 痺れから復活した隊長は、この獅子へともう一度攻撃を仕掛けた。 電撃を放出する獅子には近づけないと判断し、持っていた剣を投げつけた。 その剣は獅子の体に突き刺さるが、まだ倒せるレベルには至っていない。


「何時まで突っ立ってるんだバール! そろそろ根性みせろや!」


「もう少し待ってください。 まだ体に痺れが残っています。」


 俺は落とした盾を拾い、まだ痺れの残った体で体当たりを決行した。 盾は獅子の頭にぶつかり、また同じ様に電撃が放たれた。


「むあああああああ!」


「おい、そのまま押さえとけよバール。 電撃が収まったら一気に決めてやる!」


 役割的に仕方がないとはいえ、隊長だけ楽して、俺ばかりが負担掛かる。 ちょっとズルいと思う。 獅子の電撃が収まり、隊長が一気に距離を詰めた。


 刺さっていた剣を蹴って押し込むと、柄を握って一気にそれを引き抜いた。 獅子の体から血が飛び散り、一気にその力を失っていく。 最後の抵抗として電撃を放っているが、それも直ぐに収まり、力なく崩れ落ちていった。


 会場から歓声が上がっている。 それに答えて隊長が手を上げて歓声にこたえている。


「勝ったぞバール! さあ声援にこたえてやれ!」


「あ~、隊長が俺の分もこたえてやってください、また痺れて動けませんから・・・・・。」






 大きな歓声が上がる中、俺は舞台上で寝転がり、痺れが取れるのをジッと待っていた。



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