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秀典

6 因縁っぽい闘い。

「え~、今回のトーナメント戦では、各国の要人の皆様がいらっしゃいますので、あまり見苦しい闘いはされませんように。 それと、今回のルールは各国に伝えられていると思いますが、もう一度ご説明させていただきます・・・・・。」


 壇上ではブリガンテの偉い人が、このトーナメントの説明をしていた。 ルールとしては、俺が聞いたものとほぼ同じで、一つ追加されたものとしては、卑怯な手を使うなとの事だった。  重りがもっと増えるとかだったら厄介だったが、その位なら追加されたとしても問題は無いだろう。


 それから、まず帝国の選手が紹介された。 名前と選手の武勲等が会場に伝えられていく。 俺は聞き流していたが、隊長とエルは他国の選手の名前が呼ばれた時には、何故か反応していた。 知り合いでも居たのかもしれない。


 無駄に長い開会式に、俺が頭をボーっとさせて、そろそろ脳が溶けそうになって来そうな頃。 やっとの事で開会式が終わり、選手の抽選に入った。


 選手達がくじ引きで番号を決めて行く中、俺達だけには何故か番号が手渡された。 俺が一番で隊長が二番だ。 簡単に言うと、俺と隊長が戦えという事らしい。 そしてその番号の裏には、手抜きとか降参したら罰を与えますと、マリーヌ様からの伝言が書いてあった。


「「・・・・・。」」


 そして俺達は背中を押され、問答無用で戦いの舞台へと上げられてしまった。 ちなみに隊長はアツシの姿になっている。 アツシとして呼ばれたから仕方がないのだが。


「隊長、俺達戦うらしいですよ?」


「そんなん見りゃ分かるだろうが! しかしよりによって相手がお前かよ。 まあちっとばかり揉んでやるから覚悟しておけよ。」


「いや~、でもほら、武器も木剣ですし、空とか飛べないですし、今から重り付けられるし、それで俺に勝てますか?」


「なめんな! その程度で俺が弱くなると思ってるのか? 油断してると怪我するぜ?」


「はぁ、じゃあ頑張ってください。」


 俺達にはそれぞれの武器が渡され、左手には重りが装着された。 そして、試合開始の合図が鳴った。


 俺は隊長の出方を待ちつつ、少しずつ間合いを詰めていく。 隊長は動かない。 ・・・・・もしかしたら動けないのかもしれない。 全身に三十キロの鎧を付けるのと、片腕に三十キロでは相当違うからなぁ。 やっぱりちょっと離れてみよう。 俺は前に出るのは止めて、後ろにちょっと下がった。


 それから一分が経ち、客席からはブーイングが上がって来ている。 でも別に手を抜いてる訳でもないし、文句を言われる筋合いは無い。 でもそろそろマリーヌ様達が怒り出すので、隊長には動いて欲しい所だ。


「テメェ、俺の体力でも奪おうって考えじゃねぇだろうな? とっとと掛かって来いや!」


「来たいんなら隊長から来れば良いじゃないですか。 それとも威勢が良いだけで、重くて全く動けないんですか?」


「はぁ? んな分けねェだろうがよ! 良いぜ、行ってやるよ。 俺から行ってやるよ。 そんかし後悔するなよな! オラアアアアアアア!」


 隊長は真っ直ぐ此方に突っ込んで来ている。 あんな重りを付けているのに、そこそこ速い。 俺は武器を構えながら、ヒョイっと横に跳んだ。 隊長は無駄な重りの所為で、そのまま真っ直ぐ突き進んで行ってる。 あの重りの所為で中々方向転換が出来ないらしい。


 舞台のギリギリになってようやく方向を変える事に成功して、再び向かって来ている。 俺はもう一度ヒョイっと避けた。 何というか、闘牛士にでもなった気分だ。


 普段怒られているし、このまま隊長で遊んでいるのも良いかもしれない。 そう思ったのだが、結局後で怒られるから止めておこう。 俺は避けたと同時に、隊長の後頭部に、剣の腹を殴りつけた。


「いッッてぇなコラ! もうテメェ許さん!」


 おや? 結構強く殴ったつもりだけど、中々頑丈だ。 手加減した積もりは無かったけど、もうちょっと強く殴れば良かった。


「隊長、今ので倒れて降参するところでしょう。 そうすれば無駄に痛い思いをしなくて済んだんですよ? もう飽きたんでとっとと負けてください。」


「アホかぁ! テメェなんぞに負けてられるかよ! 今度はテメェを這いつくばらせてやるよ!」


 そんなに俺に負けたくないのだろうか? と言っても、いきがった所で、隊長の攻撃パターンは大体読めている。 スピードが出せないのなら、剣の実力のみでねじ伏せに来るだろう。


 隊長は俺との間合いを詰めて、自由に使える右腕のみで剣を振り出した。 ガンガンと俺の鎧や盾にその剣がぶつけられている。 片腕のみであってもその攻撃は凄まじく、俺は反撃の機会を窺いながら防御に徹していた。


 攻撃は最大の防御と言われるが、ここまでの速さがあれば、鉄壁と言っても良いかもしれない。 そうだとしても俺にとっては意味の無い攻撃だ。 木剣程度では、俺の体にダメージを与える事は出来ない。


 それは隊長にも分かっている筈なんだが。 俺が反撃に転じるのを待っているのか? カウンターで防御の薄い所に一撃を。 ・・・・・いや、百撃でも入れるつもりだろう。


 狙いが分かれば対処のしようもある。 俺は隊長の攻撃を一気に弾き、反撃へと転じた。 だが攻撃は空を切り。 隊長は俺の首元を狙い、一気に距離を詰めてきている。 そして予想通り、木剣による連撃を放って来た。


「うぉらあああああああああああああああああああ!」


 息をも付かせぬ攻撃の嵐が、壱弐参肆伍いちにいさんしいごと俺の首元に突き刺さって行く。 だが予想していた俺にはそれが耐えられた。 十発を入れられる前に、隊長の持っている木剣に、持っている盾で殴りつけた。


 バキッと隊長の剣が半分に折れ、空中へと飛んで行く。 武器が無くなった隊長には、もう戦う手段がないだろう。 だって木剣しか使っちゃいけないし。


 隊長が負けを認めるより先に、主審により俺の勝ちがコールされた。


「バール選手の勝利です!」


 客席から盛大な歓声が上がっている。 そこそこ盛り上がったようだ。


「こんにゃろう、実践だったら俺が勝ってたわ!」


「えぇ? だったら最初に後頭部殴った俺の勝ちじゃないんですか? 真剣だったらあれで終わってたでしょう。」


「うるせぇ! しかし俺に勝ったからには、このまま優勝しないとただじゃおかんからな。 気合入れて勝ち残れや!」


「えええええ・・・・・。 なるべく頑張ります。」






 しまった、隊長に勝ったら、他の人とも戦わなきゃならないじゃないか。 俺は少し後悔しながら、この先を戦う意思を固めようとして諦めた。



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