一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

29 災難は忘れた頃に突然やって来る。(勇者アーモン 愛の試練編 END)

 七日後。 アーモンが牢から釈放されてきていた。 一応俺も口を利いてやった。 この国から居なくなって貰う為に。


「ありがとう御座いますべノムさん。 何だかよく分かりませんが、これでライリスさんを探しに行けます。 さあもう一度トイレを見に行かないと!」


 また掴まりに行くのか此奴は。 もういっそずっと掴まってて貰った方が・・・・・。 いや待て、また記憶喪失だからと直ぐ出て来るかもしれない。 そうなれば俺の安心は失われる。 本当は関わるのも嫌だが、もう少しだけ付き合ってやろう。


「アホか、そんな所行ったらまた掴まるだけだろうが! もうちっと考えて行動しやがれ! 調べるにしても誰か女に頼むとか、色々あるだろうが!」


「そういえばそうですね。 慌てていてうっかりしていました。 でも俺に知り合いなんて・・・・・。 そうだ、レインさんに頼んでみよう。 優しい彼女なら俺の頼みを聞いてくれるかもしれない!」


 確かに、レインが居れば連携も取りやすくなる。 もう一度手伝ってもらうとしよう。


「良い考えだぜ。 じゃあレインの店に早く行くぞ。 俺に付いて来い。」


「はい!」


 俺達はレインを仲間に引き入れる為、働いているパン屋へと向かった。 この時間パン屋は賑わっているらしい。 結構な人数の客が居て、レインはそれに対応している。


 にこやかに笑顔を振りまいているレインだが、俺達の顔を見つけると、露骨に嫌な顔をしていた。


「ようレイン。 実はちょっと頼みたい事が有るんだ。 ちょっと俺の頼みを聞いてくれないか?」


「あ、いらっしゃいレオさん。 今日は如何されますか? 良ければ新作が有るんですけど、ちょっと試してみませんか?」


「ではそれを頂こうか。」


 完全に俺の事を無視してレオという男に対応している。 店の事もあるし、まあ仕方無いか。 もう少し人が居なくなるまで待つとしようか。


 テキパキと対応していくレインは、順調に客を捌いて、客が少しずつ居なくなる。 そして誰も居なくなった時に、俺はもう一度レインに話しかけた。


「おいレイン。 頼みがあるんだが、ちょっと時間を作れないか?」


「あ、べノムさんこんにちは。 いい天気ですね。 さようなら。」


「おいちょっと待て! まさか全部俺に押し付ける気じゃねぇだろうな? 良いのかそんな事をして、俺はお前と此奴の関係を、徹底的に暴露するぞ? それで良いのかコラ?」


「え? 俺との関係ですって? まさかレインさん、ライリスさんに遠慮しているけど、俺の事を好きなんですか?!」


「そんな事は絶対にあり得ません! 私が好きな人は貴方ではありません! 天地がひっくり返ってもそれは無いです! べノムさんがその気なら、私だって言える事はあるんですよ! アーモンさん、ライリスさんの正体は実は・・・・・。」


「おま! それを言うんじゃねええええええええええ!」


 言ってはならない事を言うレインに対し、俺は必死になってレインの口をふさいだ。 モゴモゴと暴れているが、流石に女の力に負ける俺ではない。


「ライリスさんの正体というのは一体? それ程隠すと言う事は・・・・・。 まさかライリスさんは、何処かの国のお姫様なんでは?! 恋人同士の俺達は、この国に駆け落ちして来たって言う事ですか?! なる程、だから従者が連れ戻しに来たんですね? 事情は分かりました。 で、その国は何処なんですか?!」


「「えっ?」」


「えっ? 違うんですか?」


 この馬鹿に振り回されるのはもううんざりだ。 此奴もそれで納得してるんだから、もうそれで行くとしよう。


「お前やっと思い出したのか。 お前の言う通り、それで全部間違ってないぜ! さあお前の愛する姫様を取り返しに行くんだ。 俺はお前を応援しているぞ! 俺の予測ではもうラグナード辺りに行ってると思うぜ。 今頃はラグナードに向かっているんじゃないか。 今直ぐ行くのなら、俺がマリア―ドまで送って行ってやろう。 良し行くんだな? じゃあ行こう今直ぐに!」


「私も応援しています! ライリスさんを絶対連れて帰って来てくださいね! 私、力一杯応援していますから! じゃあ行ってらっしゃいアーモンさん!」


「えっ? 俺まだ行くとは言ってませんけど・・・・・。」


「心配するな。お前の荷物もちゃんと送ってやる。 だから安心して行って来い。 きっと色々な苦難がお前を待ち受けているだろうが、俺はお前がやり遂げると信じているぞ! きっとライリスの国は北の果てにあると俺は思う。 じゃあ行くぞアーモン。 さあ出発だぜ!」 


「行ってらっしゃ~い。」


「ちょ、まっ・・・・・。」


 俺はアーモンの鎧を掴んで空へと飛び立った。 俺はそのまま飛び続け、マリア―ドの少し手前。 そろそろ良いかと地上に降りたった時。 俺の手には鎧しか握られていなかった。 途中まではちゃんと確認してたんだが、もしかしたら何処かへ落としたのかもしれない。


「あの高さから落ちては生きて居ねぇだろう。 仕方ねぇな、これは不幸な事故なんだ。 きっちり成仏して生まれ変わっても俺達の近くには寄って来ないでくれ。 最後はあっけないものだったな・・・・・。」






 俺は微妙な後味の悪さを抱えながら、故郷の王国へと帰って行った。 王国へと帰った俺は、親友でも友達でもない、知り合いにもしたくない男の墓を作った。 せめて安らかに眠ってくれと願いを込めて。 ・・・・・アーモンの死を知った様に、その日からあの四人の襲撃は無くなっていた。 




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 時は遡りべノムがマリア―ド付近に降りた頃、ラグナードの城の中。 王と占い師が定期に行われる儀式を行っていた。 


「こ、これはああああああ! 王よ、天からの予言が下りましたぞ! 神のお告げ曰く、その者忘れた頃にやって来て、ある一定の人物の心を惑わすと出ております。 王よ、これはとても重要な予言かもしれませんぞ!」


「その神のお告げとやら、ちゃんと特定出来たらまた教えておくれ。 じゃあワシ妻との約束があるから、頑張って調べといておくれ。」


「お任せくだされ。 この私の占いで、見事調べ出してみせましょうぞ。」


 そんなお告げが出た人物が、明らかにヤバそうな森の中に存在していた。 凹んだ窪みの中にその男が埋まっていた。 魔物が犇めくその森の中だが、空から落ちて来た男に警戒しているのか、何も近寄っては来なかった。


「う、お、俺は全て思い出したぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ライリスさんには悪いけど、俺はアンリさんレインさんに会いたいんだ!、待っていてください、俺が直ぐに会いに行きますから!」






 三か月後。 アーモンとその仲間の変人十人がべノムの元へとやって来ていた。 まだまだべノムの災難は続いて行く。




                 END



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