一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

26 魔物の様な人間が四人。

 次の日、私が考えた作戦が開始された。 今現在アーモンさんんともう一人、別の国から来た美女のライリスさんという設定の、べノムさんが二人でデートする事になっている。 声でバレるかもしれないので、喋れないということにしてある。


「えっとレインさん、この人が本当に俺の彼女なんですか? それ本当ですよね? 今度こそ間違いないですよね?」


 アーモンは私を警戒しているらしい。 べノムさんと付き合ってたのは、冗談と言う事で処理したので、私の事はあまり信用していないらしい。 それは全然かまわない。 むしろ全然大歓迎だ。 だけど今回だけは信用して貰わなければならない。


「はい、間違いありません。 この間のはただの冗談だったんですよ。 このライリスさんこそ、正真正銘貴方の彼女です! ほら、手を繋いでも嫌がっていないのがその証拠です! さあ存分にデートなさってください!」


 私は二人の手を無理やり繋ぎ、二人の背中をドンと押した。 ライリスさんの逆側の手が力いっぱい握られ、怒りによってプルプルしている。 この場は頑張ってもらうしかないだろう。


 頑張れべノムさん、私は陰ながら応援しています!


 私の作戦内容は、真の彼女であるライリス(べノム)さんが、アーモンさんを求めてこの国にやって来た。 この国でデートを重ねる内に、アーモンも心が惹かれて行く。 そして最高潮に達した時、彼女は自分の国に帰ってしまうのだ。 そしてそれを追うアーモンは、彼女の国のラグナードへと帰って行く。 でもライリスは海の向こうの国へと旅立ち、そこで不慮の死を迎える。 落ち込むアーモンだけど、自分の国で新な恋を見つけるのだった。


 ・・・・・というのが私の考えたシナリオだ。 全て上手く行くとは思っていないけど、帰ってもらう所までは、是非とも行って欲しい所だ。


「じゃあ行って来ますねレインさん。 本当にありがとうございます。 このお礼は何時か必ず。」


「そんな、私はお礼なんて要りません。 だから二人で幸せになってくださいね。 それが私の望みですから。 じゃあ行ってらっしゃい。」


 仲良く手を繋いでいる風に見える二人を見送り、私は二人の様子を見守る為に、その跡を付けた。 デートは順調に進行していた。 一緒に食事をしたり、楽し気に会話していたり、そんな演技を見事にこなすべノムさん。 私は彼に称賛を送りたい。 私の為にありがとうと。


「あ、ライリスさん、あそこに可愛らしい小物が売っていますよ。 少し見に行きませんか?」


 ライリスは頷いて、それについて行ってる。 アーモンがヌイグルミを選び、それをプレゼントするらしい。 ちなみにそのお金は、デートの為にと私がプレゼントしたものだが、この作戦が上手く行ってくれれば、微々たる物だ。


 そんな楽し気な雰囲気が、おかしな人物の乱入により、一瞬で終わりを告げた。 女だと思う二人組だが、両手両足の四本歩行で、奇妙な叫び声を上げている。 魔物に見えなくもないが、ギリギリ人間だと思われる。


「オニイチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!」


「アアアアアアアアアアアアアアモオオオオオオオオオオオオオオンンン!」


 お兄ちゃん? アーモン? 聴き様によっては、あの男の知り合いに聞こえる。 まさかとは思うけど、あの男の知り合いなら有り得ない事じゃない。 私はその成り行きを見守る事にした。


 その二人が、ライリス(べノム)さんだけを標的にして、いきなり武器を持って襲い掛かった。


「ぬおおおおおおおおおお、何だテメェ等! 魔物・・・じゃねぇな人間か? クソッ、いきなり襲い掛かって来やがって。 上等だ、やったろうじゃねぇか!」


「あれ、ライリスさん声が?」


 不意の事態に思わず声をだしたライリスさん。 アーモンに声が出せる事をバレてしまった。


「・・・・・オホホホホ、何か襲われたショックで声が出てしまいました。 奇跡が起きたみたいですわ。 オホホホホ。 うわっと!」


「え? そうなんですか? それは凄いですね! きっと神様が見てくれていたんでしょう! でも何だか聞いた事がある声の様な?」


「オオオオオニイイイイイイイイイイイイチャアアアアアアアアアアンンン!」


「アアアアアアアアアアアアアモオオオオオオオオオオオンンン!」


「ッ! き、気のせい・・・・・気のせいですわ! おまッ、こんにゃろ、話している途中だろうが!」


 そんな魔物の様な二人の攻撃を軽く凌ぎ、ライリスさんはまだまだ余裕がありそうだったが、此処で更に二人の人物が戦闘に加わった。 一人は男、もう一人が女。 男は王国の兵士の鎧を着ている。


 私もどこかで見た事が有る気がする。 そしてもう一人はブリガンテの衣装を着ている。 この国までやって来たのかも?


「オトコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


「クミアッテエエエエエエエエエエエエエエエエエエ! カラミアッテエエエエエエエエエエエ!」


 一体何があったらこうなるのか。 私には全く分からないけど、この四人と関わり合うのは止めた方が良さそうだ。 私はもうライリスさんに全て任せて、この場を去って家に帰った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 べノムは、良く分からない四人との戦いを繰り広げていた。 最初の二人はそれ程大した事が無かったのだが、後から来た二人の男女は中々の使い手だった。 それでも俺は踏ん張り躱し、この四人をどうするのかと悩んでいた。


 この四人はアーモンの知り合いなのだと思う。 アーモンはまだ反応していないけど、この四人が傷つく姿を見れば、ショックで記憶が戻ったりするかもしれない。 それだけは何とか避けなければならない。 こんな格好までした俺の苦労が無駄になってしまうからだ。


「あの、大丈夫なんでしょうかライリスさん。 俺も一緒に戦います!」


「必要ありませんわ。 このぐらい私一人でも十分ですから。 おほほほほ・・・。 アーモンさんはこの場で待っていてください。 直ぐに戻って来ますからね。 おほほー。」


 俺は四人を引き付ける為に、路地へと走り出した。 四人は俺の後ろをピッタリと付いて来ている。 アーモンが来る前に、このおかしな奴等を片付ける!


 追って来た四人に対し、本気を出して殲滅を開始した。 その間四秒
、タダ突進するだけの馬鹿など俺の敵にはならず、瞬時の内に相手が山積みにされた。 俺は屋上にまで四人を運ぶと、アーモンがこの道へとやって来た。


「えっとライリスさん、今何か浮いていた気がしたんですけど。 俺の気のせいでしょうか?」


「はい、気のせいです! 気にしないで行きましょう!」






 俺は楽しそうな振りをしてデートを続けるのだが、あの四人が何度も復活して、襲い掛かって来た。 もうこれは作戦を変えるしか方法が無いかもしれない。



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