一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

21 対戦。

「てやああああああああああああああああ!」


「おりゃあああああああああああああああ!」


 私の蹴りとブリューネの蹴りが交差する。 ビリリと足の脛に衝撃が伝わって来る。 衝撃で足が戻され、私は地面を蹴って前に出た。 相手に切り札を使われる前に、一気に倒す!


 拳を握り、腕を回してハンマーの様に打ち降ろす。 大振りの一撃など軽く躱されてしまうけど、反撃しようとする彼女の腹に、無理やり引き戻された拳がぶち当たる。 ッ!! 違う。 掌を盾として、その衝撃は受け流され、大したダメージにはなっていない。


 チャンスと見て、動きを止められた私の頭へと、相手の掌が掴みかかる。 髪を掴まれては不味い! 開いている手を使って、その掌を撃ち落とした。


 私は少し屈みこみ、脛を狙った蹴りを放つ。 ブリューネはバク転してそれを躱し、今度は一気に距離を詰めた。 全体重を乗せた拳が迫って来ている。 体勢が悪い。 躱し切れないと思った私は、その拳をくらう事を覚悟し、体の回転を速めて頭への蹴りを放った。


 バチィイイイイイン!


「グハァ・・・!」「ガハァッ・・・!」


 相打ちだが、私の蹴りは浅く入った。 ガッと足を踏みしめ、相手との打ち合いが始まった。 顔面、胸に腹。 私の速射を真面に受けるが、相手の拳も同じように飛んできている。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「ああああああああああああああああああああああ!」


 ガッ ゴンッ バチィ! シュバッ ヒュンッ ドンッ!


 舞台上には私達の血飛沫が舞っている。 私は激しい打ち合いの最中、ジッと待っていた。 ブリューネの右の拳が、放たれるのをジッと。


 永久とも思える、一分の打ち合いの後。 その瞬間がやっと来た! 真っ直ぐ伸びる拳を頬に掠らせ、私は一気に踏み込んだ。 曲げた肘は相手の鳩尾みぞおちへ。 針の様に突き刺さした。


「ゕッ・・・・・!」


 カウンターで入ったそれは、相当な衝撃だ。 一瞬動きが止まった彼女に、強烈なローキックを当て、体勢を崩した。 頭の鷹さが下がり、殴るのに丁度良い高さだ。


「止めだあああああああああああ!」


「!!」


 ブリューネの蟀谷こめかみ辺りに、必殺の拳が炸裂すると、彼女は後方へと吹き飛んで行った。 派手に吹き飛ぶ彼女だが、そこまで派手に飛ぶ殴り方をした覚えはない。 まさか打撃をいなされた?! 彼女は空中で体勢を立て直すと、舞台上に何事もなかった様に着地した。


「ふう・・・・・。 やはり、アレを使うしかないわね。 アレを使えば、貴女には勝ち目はありません。 今回も私の勝ちですわね。 おッほッほ! さあ覚悟なさいな!」


 私が何度も負けていたのは、彼女が使う、この切り札の為だ。 彼女は二つ名の通りに、その体に炎を纏う。 私の攻撃が当たろうが防がれようが、その炎は私の体にダメージを与える。 相手の攻撃にも熱が加わり、一度は服まで燃やされた事もあった。 拳を使う私には、本当に最悪の相手だ。


 私はそれを使わせまいと、相手の集中を削ぐ為に攻撃を続けた。 しかし避けながらでも彼女の集中が途切れる事は無かった。 避けながら、マジックワードを唱え始めた。


「はあああああああああああ! 深淵の炎よ、我が両腕に顕現せよ! グローリーフレイム!」


 彼女の両腕から炎が噴き出る。 私からはかなりの熱を感じるのだが、その炎が彼女を焼く事はない。 接近戦は不利とみて、私は後方へと下がるのだが、それを許さず、彼女は私との距離を詰めて来ている。


「アツッ!」


 熱気は私の肌を焼き、多量の汗を滴らせる。 目にでも入れば、視界を奪われてしまう。 私にできる逆転の手は、アーモンさんに教えられた魔法しか残っていなかった。


「もう降参なさったら? 貴女はこの私と十分に戦いました! 引き立て役として、もうとっとと負けてしまいなさい!!」


「誰が降参するか! 私は今日こそ貴女に勝つ!」


 今私が使えるものは、石を飛ばすものともう一つある。 これは魔法を理解した私が、アーモンさんに頼んで教えてもらったもう一つの魔法だ。 それで戦うのは初めてだが、もうやってやる!


「大いなる大地よ。 ・・・・・・砂の鎧を我が腕に! サンドッ・クリエーター!」


 砂の粒が集まり、私の右腕へと集まっている。 指先から肩にまで、砂で覆われ、それが一定以上になると、腕から砂が沸き続けて、零れ落ちていってる。 重さは多少感じるが、動くのにまるで邪魔にならない。 いける!


「なッ、貴女も魔法を?!」


 驚いている彼女へ、私は再び接近戦を挑んだ。


「行くぞブリューネエエエエエエエエ!」


「ッ・・・・・片腕だけで防げると思っているの? 無駄な事は止めておきなさい!」


 放たれる炎の拳を、私の砂の拳が迎え撃った。 二つの拳がぶつかり合い、私の拳が競り勝った。 固められた砂の拳にぶつけたのだから当然だろう。 私の方は衝撃も無いし熱くもない。 これならまだ戦える!


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「いやああああああああああああああ!!」


 バキッ ゴッ バンッ ドッ バカンッ!


 右腕だけの私と、両腕を使えるブリューネ。 何方が有利かと言えば、私の方が圧倒的に不利だ。 問題は片腕だけしか使えない事ではない。 絶えず流れ続ける砂は、私の魔力を流れさせているのと同じ事だ。 これを使える時間は、もうそれほど長くないだろう。 最後の一撃に出る為に、私はこの魔法の、真の力を解放した。


「生まれし砂よ、我が呼びかけに答えて、再び集まれ!! うおおおおおおおおおおおお!!」


 地面に落ちた砂が、私の拳へと集まって行く。 それは大きな拳となり、私の体重が倍以上になる。 重い。 体中が悲鳴を上げている。 それでも私は、重い右拳を使い、ブリューネに向かって殴りつけた。 固められた砂の塊が、ブリューネの体にぶつかった。 いきなり現れたそれに、彼女は対処出来なかった。


「あぐあッ。」


 彼女が吹き飛び、舞台上で横たわっている。 ・・・・・今までこれを使わなかったのは、重すぎて一撃使えるかどうかだったからだ。 もう魔力も無くなり、砂粒が私の腕から全て落ち切った。


「はッ、はッ、はッ・・・・・。」


 右腕が上がらない。 力を使い過ぎた。 でもこれで私の勝ちだ。 私は動かない右手の代わりに左手を突き上げて、勝利のコールを待った。 そんな私の顎へ、彼女の拳がぶつけられた。 私は膝から崩れ落ちて、地面へと転がった・・・・・。 もう動けない。 腕が上がらない、立ち上がれない。


「この私の、勝利だああああああああああああああああ!!」




 私は彼女の勝利を床で見つめると、暗い闇の中に、自分の意識を持って行かれた。



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