一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 運命の選択は、神のみぞ知る。

 俺がその場所へ到着した時、レインさんと、そしてアンリさんが、アンリさんが居るだってえええええ!!


 きっと俺の為に、変わってくれたんだろう。 きっとそうに違いない。 見ただけでは何方がアンリさんか分からないが、声さえ聞けば何方がアンリさんなのか、ハッキリする。 しかしそれを聞く前に、二人を言い間違えたら、俺の愛情が疑われてしまうだろう。 それは避けなければならない。


 二人は同じ顔で、俺を見つめている。 双子よりもそっくりに、ホクロの位置まで同じだった。


 どっちだ? どっちがアンリさんなんだ? 何も言ってくれないのは、俺を試しているのだろうか。


「こ、こんにちはお二人共、今日はいい天気ですね。 ははは・・・・・。」


 へたれた俺は、無難な挨拶をしてみたが、二人は何も答えてはくれない。 やはり当てろと言ってるのだろうか? どれだけ見ても判断が出来ない。 服装や髪型まで同じとなると、最早俺は、この二人の何方か一方に、賭けるしかなかった。 俺は、左側にいる女性をアンリさんだと思い、二分の一の賭けに出た。


「えっと、アンリさんですよね?」


 やはり何も言ってはくれない。 二人は同じ顔で、俺に微笑んでいる。 これは合っていたのか? それとも間違って・・・・・。 駄目だ、分からない。 しかし、考えようによっては、両手に花・・・・・いやいや、駄目だ駄目だ、俺が愛しているのは、あくまでもアンリさんだけだ。 レインさんにまで手を出すなんて、俺には出来ない。


 しかし、この間は味方になってくれると言っていたのに、全くフォローしてくれている気がしない。 この状態で、俺にどうしろと言うんだろう。 俺が悩んでいると、その二人が別々の方向へと別れて行った。


 これは、俺に何方かを追えと言ってるのだろう。 俺はさっき選んだ左の女性を追う事にした。 駆けて行くその人の手を掴み、声を掛けた。


「待ってくださいアンリさん。 ・・・アンリさん・・・ですよね?」


 彼女は振り向いて、俺に微笑みかけた。


「ぶ~~、ハズレですよ変態さん。 私がべノムさんに見えましたか? 私達を見分ける事も出来ないのに、簡単に愛とか言わないでください!! 私の体で何をする積もりだったんですか、この変態め!! 絶ッッ対に、許しませんからね!!」


 彼女は同じ姿をしている事を知らなかったのだろう。 だからこそ許せなかったのだろう。 


「いえあの、黙っていたのは謝ります。 しかし彼女は、レインさんと同じ姿をしていますが、全く別の人間です。 どうか俺と彼女の事を許してもらえませんか?」


「そんな事で許せる訳が無いでしょう!! あれは本当に私なんですよ? べノムさんを私の姿にさせて、どんな事をする積もりなんですか!! 変態、馬鹿!! 良い人だと思ったのに、馬鹿、死ね変態!!」 


 随分と起こっている。 どうも許して貰えそうにない。 しかし、こんな時だというのに、彼女から罵倒されている俺は、アンリさんと似た愛情が、生まれて来ている気がした。 まさか俺は、レインさんまで好きになったというんだろうか? 俺にはもう、この想いを止める事が出来なくなっていた。


「レインさん、俺は貴方の事が好きになってしまいました。 どうか俺と、幸せな家庭を築いて行きませんか!!」


「今まで何を聞いていたんですか?! もしかして気でも狂ったんですか?! 貴方がこんなに馬鹿な人とは思いませんでした、貴方の様なド変態は、二度と近づかないでください!!」


 こんなに変態と言われると、本当に変態になった気がする。 レインさんに罵倒される度に、どんどん彼女に心を惹かれてしまう。 アンリさんの時もそうだった、何時も罵倒される度に、心が満たされて行っていた。 もしかして俺は、本当に変態なんだろうか? 自分では真面だと思っていたのだが。 本当にそうなのかを調べる為にも、もう一度罵倒してもらう必要がある。


「レインさん、もう一度、もう一度だけ罵倒してくれませんか? 頼みます、もう一度だ毛で良いですから!!」


「いやああああああああああああああ!! こっちへ来ないでド変態いいいいいいいいいいい!!」


「ま、待ってくださいレインさん!! 本当に一回だけで良いんですって・・・・・。」


 俺の言葉を聞き、レインさんが逃げて行った。 俺は本当に試して見たかっただけなんだが、失敗してしまった。 怖がらせるつもりは無かったんだが。


 これ以上無理に追っても、もっと逃げられるだけだ。 今は時間を置いた方が良いだろう。 レインさんを追うのを諦め、俺は家に帰った。


 俺はこれからの事を考えた。 図らずも二人の女性を愛する事になった俺だが、俺は男として、何方か一方を選ばなければならない。 アンリさんとレインさん、何方も素敵な女性だ。 この二人から選ぶとなれば、かなりの迷いが生じるだろう。


 まずはアンリさん。 いい所というと、一番先に思いつくのは、あの勢いの良い罵り方だろうか。 姿はレインさんと同じだが、あのハスキーな声は中々良い。 仕草や、怒った声も凄く良いと思う。


 誘っても付いて来ない様な、奥ゆかしい所も魅力的だ。 しかし彼女には、少しばかりの問題がある。 実は性別が男だと言う事。 勿論、変身さえしてくれれば、俺としては何の問題も無い。 そしてもう一つ、彼女が結婚しているという事実だろう。


 彼女には、美しい妻と、俺は会った事がないが、可愛らしい子供まで居る。 当然俺は気にもしないが、彼女の妻のロッテさんに、悲しい思いをさせるのは不本意だ。 だからこそ俺は、一週間に一回で良いと考えている!! しかし、ロッテさんがそれに納得しないのであれば、まあ一月に一回でも我慢しよう。 きっとそれで納得してくれる筈だ。


 そしてもう一人は、パン屋の看板娘のレインさんだ。 彼女の罵倒はまだ未完成だが、それは時間を掛けて行けば、上達して行くだろう。 それに彼女は本物の女性だ。 彼女を選べば、何れ家庭を持つことも出来る。






 何方にするかと、結局三日間悩み続け、最終的に俺は、ダイスを使って運命を決める事にした。 奇数ならアンリさん。 そして、偶数ならレインさん。 運命のダイスを投げ、そのダイスの目をハッキリと確認した。



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