一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 朱殷(しゅあん)の髪と攫われた赤子 24

 動き出した男達だが、一人で十分とばかりに、男の一人が二人の前に出て、剣を振り下ろした。


「うおりゃあああああああああああああ!」


 ギィヤイイイイイイイイイイイン!


 剣を持ち、襲い掛かって来る一人の男に対して、私はナイフを持ってそれを受け止めた。 まだ私の姿が見えない男は、何が起こっているのか分からず、もう一度大きく剣を振り上げ、力いっぱい振り下ろして来た。 何も考えず、ただ同じ事を繰り返すとは、脳の中まで筋肉で出来ているんじゃないだろうか?


 私はその剣が振り下ろされる前に、相手の顎を殴りつけ、剣を落とした相手に対して、私は相手の蟀谷こめかみに、踵蹴りをぶち当てた。 相手が吹き飛び、残りの三人が動き出した。


「何をしている、さっさと殺せ!」


 ドラインの声に頷き、警戒しながら三人が近づいて来る。 流石に何か居る事ぐらいは気付いただろう。


「おいお前達、何時まで惚けている。 さっさと逃げないと死ぬぞ!」


「い、行きましょうブラウン、こんな所に居たら危険だわ。 さあ急いで!」


「うあ・・・・・」


 まだ整理出来ていないのか、ブラウンは動けないでいるが、相手はそれを待ってくれない。 相手は三人、ナイフでは無理だと判断した私は、愛用のクロスボウを取り出し、敵への牽制を仕掛けた。


「ぐおッ」


「くそぅ、何処から撃っていやがる?!」


「なんだこれは、まさか王国の手の者か?!」


 連射された矢は、一人の腕へと命中し、他の二人には大したダメージを受けていない。 咄嗟に放ったにしては、上出来だ。


 まずこの動かない男が邪魔だ、私はブラウンを蹴り飛ばし、部屋の外へと無理やり追い出した。 ハッと気が付いたブラウンを、ゼラルーシが無理やり手を引き、逃げて行く。


「テーブルを盾にしろ! 何か飛び道具を持っているぞ!」


 敵の動きはと言うと、私が飛び道具を使うと見て、近くに有ったテーブルを盾にして、此方に向かって来ている。 幾ら姿が見えないと言っても、魔法が何時までも続く分けでは無い。


 この部屋に留まるのは不利だ。 今までは、相手の不意を突いたから上手く行っただけだ。 人数的にも不利と見た私は、この部屋から飛び出した。


 私が部屋から飛び出ると、扉の枠に、ガンっとテーブルが当たった。 籠城されてしまった、此処から矢を撃ちこむ事は出来るが、あまり得策とは言えない。


 あの部屋の中に、手を入れる事はやりたくはない。 試しにテーブルを蹴り付けるが、ビクともしない。 男が三人掛かりで押さえつけているから当然か。


 私は矢を不定期に放ちながら、その場から後退して行った。 あの親子も、もう屋敷から逃げ出した頃か? 私は慌てず魔法を掛け直すと、この屋敷から脱出し、待っていた仲間達と合流した。


「お帰りシャイン。 お父さんは待っていたよおおおおおお!」


「そのやり取りはもう良い! 此処が敵のアジトだ、突入して殲滅するぞ!」


「やっと私の出番の様ね。 いいわ、天使の力を見せてあげる!」


「運動には良さそうだね。 んじゃシャインちゃん、無事帰れたらキスをプリーズ」


「じゃあ俺も手を貸すよ。 いい所を見せなきゃね」


「何を言っている? お前はレティ―の面倒を看てくれ。 レティを一人残して行く訳にも行かないからな。 じゃあ頼んだぞ」


「あ、ああ、そうだよね。 一人残して行けないものね・・・・・」


 ラフィールには子供の番をさせて、他の全員と一緒に、もう一度屋敷へ突入した。 屋敷のエントランスには、もう厳戒態勢がとられ、屋敷の中は私達の進入を阻む、敵の戦力で固められていた。 殆どがゴロツキ風で、立派な鎧を着ている者は四人だけだ。


 どうやら、蹴り倒した男も復活しているらしい。 ズラリと並ぶ敵の規模は、ザっと見ても四、五十人近くだろう。 二階からは、飛び道具を構えている者まで居る。 そんな数を前にしても、私達は怯まなかった。


「それじゃ、此処は俺から行かせてもらおう。 さて、俺の防御を突破出来るかな?」


 まずバールおじさんが、右腕に盾を持ち、敵の軍団に突っ込んだ。 敵の攻撃は、おじさんの鎧・・・いや皮膚と言った方が良いか?


 敵の攻撃の雨にも、少量のダメージしか受けていない。 普段は馬鹿だが、戦いとなると頼もしい。 片腕の槍は、確実に一人ずつ倒して行ってる。


「ああああああ、エロ親父に先を越されたじゃないの! 最初は私が行きたかったのに!」


 次に飛び出したのはクスピエだった。 おじさんが狙われた一瞬の隙を付き、クスピエは二階に居た敵を狙った。 私もそれをフォローする様に、二階の敵へと矢を放った。


「悪人よ、我が光の前に屈服しなさい! 謝るのなら、命だけは助けてあげるわ! 命以外は保証しないけどね!」


  壁へ天井へと跳ね跳ぶ彼女を、飛び道具では狙いきれない。 短いリーチを補完する様に、長い槍をしならせ相手の体を斬り貫く。


「インビジブル!」


 親父はというと、何時も通り姿を消して、敵の只中に紛れ込んで行く。 もはや暗殺者の様に、敵の数を一人、また一人と始末していっている。 だが、私達が姿を消す事を知っていた敵は、此処で動きを見せた。


「レインボーシャワー!」


 敵の中の誰かが、その魔法を使った。 エントランスの上空に、水の玉が現れ、屋敷の中に雨が降った。 重力を無視するかの様に、下だけでなく、横へ上へと雨が降った。


 その雨に触れるだけでも、透明化の力は、失われてしまう。 親父の体に当たった雨は、透明となり、そこで消えてしまっているからだ。


 敵から見れば位置が丸わかりだ。 しかしその効果はそれだけでは無かった。 雨の降れた部分が、虹色に輝いている。 消えている剣の形までもが、はっきりと認識出来る。 これでは魔法を使う意味が無い。






 親父は敵に囲まれているが、親父は簡単に死ぬ様な男ではない。 私はそれを無視して、仲間のフォローを全力で行った。



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