一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 その男は傲慢だった。

 俺達七人は、それなりに楽しんでいた。 人数は多いものの、レインさんと一緒ならと、表面上は仲良くしている。 そんな中、レインさんは俺ともう一人に向かって、別行動をしろと言って来た。


「アーモンさん、ちょっとスパンクさんと一緒に、買い出しに行って来て貰ってもいいでしょうか? 路上に大勢で歩いていたら、きっと迷惑になりそうですから。」


 正直言って、買い物に付き合っているのに、わざわざ別行動する意味が分からなかった。 それでもレインさんの頼みならばと、俺は引き受けることにした。 スパンクさんも行く気らしい。


「えっ? ああはい、そうかもしれませんね。 じゃあ行って来ますね、ははは・・・・・。」


「ああ、任せてくれたまえレインさん。 私に掛かればそんな事ぐらい、お安い御用ですよ。」 


「わぁ、ありがとうございます。 あ、これ買い物のメモです。 ちょっと多いですけど、二人でじっくり買って来てくださいね。」


「お任せください。 この程度、私に掛かれば赤子の手を捻る様な物ですが、彼も活躍したいみたいなので、二人で行って来ますよ。 それではレインさん、また後で。」


「では、行って来ます。」


「お二人共、気を付けて行って来てくださいね。 あまり急がなくて良いですから。 では行ってらっしゃい。」


 そして俺は、スパンクさんと一緒に、別行動を取る事になった。 レインさんに渡されたメモによると、七人分の食事と、小さな小物とか、何か色々と書かれている。 そして何故か中央広場が集合になっていた。 此処からだと、四十分は歩いて掛かる距離だ。 何故わざわざそんな遠い所へ? 謎は深まるばかりだろうか・・・・・。


「えっと、スパンクさん、ですよね? 仲良く行きましょうか。 ははは・・・・・。」


「仲良くぅ? 何故私が貴様と仲良くせねばならんのだ。 さっきはレインさんの手前、任せろと言ったが、私はお前の様な者と、行動を共にする積もりは無い!! しかしレインさんの為だ、馬車を呼んでやるから、お前は買い物を済ませて、馬車に積み込むんだ。 勿論私は馬車で待って居よう。」


 俺に買い物を押し付ける気か。 馬車を出してくれるのは有難いが、きっとこの男は、最後には俺を置いて行くだろう。 そんな臭いがプンプンしている。


「お断りします。 歩きたくないと言うなら、どうぞご勝手に。 俺は荷物を持って、一人で向かいますから。 後で合流した時に、レインさんは何て言うんでしょうね?」


「貴様、まさかこの私を、脅す気じゃないだろうな? ふん、金を望んでいるのか? まあ良い、その代わり、しっかり働いて貰うからな。」 


「誰が金を要求しましたか。 貴方も降りて手伝えと言ってるんですよ!! レインさんに、不誠実だと思われても良いんですか?!」


「レインさんに、不誠実と思われたくはない。 分かった、ならば馬車には乗せてやろう。 その代わり、荷物はお前が運ぶんだ。 私は金を出す、お前は荷物を運ぶ、それでフィフティーだろう。」 


 やはりさっきは、馬車に乗せる気が無かったか。 これ以上言い争っても、時間が無くなるだけだ。 俺はそれで妥協した。 この男と、一緒に買い物するのも嫌だったから。


 メモに書かれた物を積み込んで行くと、どうにも二人でも持てそうな量じゃなかった。 何故こんな物を二人で買わせるのだろうか。 もしかして、スパンクさんが、馬車を呼ぶのを分かっていたのだろうか?


 全ての荷物を積み込むと、俺達は馬車で、中央広場に来ていた。 荷物を下ろすのに少々時間が掛かったが、約束の時間より早く着く事が出来た。 まだ他の皆は、来ていないらしい。 隣にいるスパンクさんは、明らかに不機嫌になっている。 元から不機嫌だった気もするが・・・・・。


「一つ訪ねるが、お前もレインさんを狙っているから、この場に居るのだよな? 少し考えてみてはくれないか? 私には金もあるし、家柄もある。 彼女は私と結ばれた方が、きっと幸せになれるだろう。 お前は諦めて帰ったらどうだ? まあ後の事は、私に任せておけ。」


 俺はレインさんを狙っている訳ではないし、この男がどんな男なのかも良く知らない。 本当に金を持っているのかも、家柄の事も知りはしない。 勿論、彼女がそれでも選ぶのなら、それは彼女の選択だ。 俺は温かく見守ろう。 ただ、彼女の友人として、この男には渡したくはない。 俺はその提案を断った。


「お断りします。 レインさんは、貴女には渡しません。 では逆に聞きますが、貴方より上の位の人物が、彼女を渡せと言ったら、貴方は渡すのですか? その程度の思いしかないのなら、貴方が帰ってください!!」


「ふん、言うではないか。 確かにそうだ、例え王であったとしても、私はレインさんを渡しはしない。 ・・・そうだ私は愛しているからな。」


「そうですか、俺も好きですよ。 まあゆうじ・・・・・。」


 友人としてですが。 そう言おうとした時、ゴトンっと何かが落ちる音がした。 見ると、レインさんと残りのメンバーが、手に持った荷物を落としていた。


「まさかお二人が、もうそんな関係になっているとは、思いませんでした。 アーモンさんって、その、凄いテクニックをお持ちなんですね?」


「「はぁ?」」


 彼女は一体何を言ってるのだろうか。 俺には全く理解出来ない。


「その・・・・・愛してるって。 好きだとも言ってましたよね? お二人共お幸せに。 私は応援していますから!!」


 彼女は何を勘違いしているのか。 何故俺がこんな人と、幸せにならないといけないのか。 まずそのおかしな勘違いを、解かなければならないだろう。


「あ、あり得ません!! この私はレインさん一筋です。 こんな得体のしれない男を私が好きになる訳が無いでしょう!!」


「あ、あのですね。 さっきのは誤解です。 俺は別に、この人と付き合う気なんてありませんからね。 というか、何故俺が男と付き合わないとならないのですか。 レインさんは、俺をそういう風に見てたんですか?」


「ええ? でもべノムさんから聞いていますよ? アーモンさんが、男の人しか愛せないって。 実はべノムさんから頼まれてたんですよ。 アーモンさんのがしつこいから、彼氏? を見つけて欲しいって言われて。 だから私、今回アーモンさんの恋人を見つけようと、頑張ったんですよ?」






 その彼女の告白に、集められた男達は、ズザッと俺から距離を取った。



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