一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

29 ドラインとの面会。

 俺達は意を決して、再びドライン・レーゼシュルトを訪ねた。 今度は、服装までも完璧だ。 これで俺達も、それなりの人物に見えるはずだ。 俺が呼び鈴を鳴らすと、またも、あのメイドが現れた。 四十を超えたぐらいのそのメイドは、俺達の顔を見ると、キッパリと言い放った。


「お帰りください。」


「「「え?」」」


「聞こえませんでしたでしょうか? それではもう一度。 どうぞ、お引き取りください。ドライン様はは、今多忙ですので。」


「いや、待ってくれ。 俺はドラインの知り合いなんだ。 舞踏会でも何度か会った事もある。 そんな俺を追い返すのか?! 少しだけ話しをするだけだから、ちょっとだけ、ちょっとだけで良いんだ。」


「ぼ、僕は、小さい頃に遊んだ事もあるんだよぉ、ドライン君とは、友達なんだ。」


「皆様そう仰いますわ。 ご融資して欲しいと、毎日の様に、大量にいらっしゃいます。 それに、私が知らない人物が、ドライン様の友人であるはずが御座いません。 お客様のお帰りです、お付き添いしてあげなさい。」


「「「ハッ。」」」」


 またも大柄の男達が、俺達を掴み上げる。 このままでは、また追い返されてしまうだろう。 これで駄目なら、もう切り札を切るしかない。 少々危険が伴うが、もうやるしかない。


「で、では、一つだけお伝えください!!  フェリス・アングライシスの事を話したいと。 彼女は、私達の後輩で、仕事の同僚でしたと!!」


「フェリスさんの事ですって?」


 メイドの表情が、少しだけ和らいだ。 彼女も、フェリス君の事を知っているのだろう。 だったらもう少し、押すしかないな。 俺は、男達に担がれたまま、最後の賭けに出た。


「帝国新聞って、名前ぐらい知ってますよね? フェリス君は、そこで私達と、働いていたのです。 ドライン殿が、彼女と友人だたのは知っていましたから、出来ればお話をと思っていたのですが、とても残念です。 では帰りましょうか、二人共。」


「このまま帰って良いのか?」


「友人にまで見捨てられるなんて、可哀想なフェリス。」


「さあ、追い出すなら、追い出してください!!」


 三人共肩に担がれているので、このまま外に捨てられたら終わりだ。 だが男達は、先ほどの命令を忠実に行っている。 一歩一歩外に向かって歩き出す。 俺が失敗だったと思った時に、メイドの女が男達を制止した。


「お待ちください。 そのお客様方を、客室にお通しください。 ドライン様には、言伝をお伝えいたしますが、それで会われないのならば、諦めてお帰りください。」


「はい、それで構いません。」


 俺達は地面に降ろされ、客室に案内された。 金を持ってるだけあって、かなり豪勢な作りをしている。 誰が描いたのかは知らないが、壮大な絵画が描かれている。 立派な壺や、出されたお茶のカップまでも高そうだ。 飲んでる途中で、落としたらと思うと、手を付けられない。 まあ庶民の俺とは違い、他の二人は、お茶請けまでも、食べあさっているが。


「ふう・・・久しぶりに美味い茶だったぜ。」


「お菓子も美味しいよ? 食べないのカールソン?」


「そうですね、じゃあ一枚だけ。 ・・・・・う、美味い!! 」


 その一枚を食べたが故に、トロンと壮絶な取り合いになるのだが、それはまあ、関係ない話だ。 その争いも終わり、暫く経った頃に、あのメイドと共に、一人の男がやって来た。


 思ったよりも小さい。 フェリス君と同じぐらいだとは思っていたが、十四か、十五か、その位に見えた。 青い髪で、身長は百六十位か。 かなり凛々しい顔立ちをしている。


「君達か? フェリスの事を聞きたいと言うのは。 それで、何を聞きたいんだい?」


 話し方も柔らかく、敵意は無さそうに見える。 この人物が敵と繋がっている? それとも親だけが? 話は慎重に進めなければならない。


「出来れば、人払いをお願いしたいのですが。 駄目でしょうか?」


「分かった。 少し下がっていてくれないか、ゼラルーシ。」


「御意に。」


 ドラインについて来ていた、メイドのゼラルーシが、命令で、部屋の外へと下がって行った。


「それでは、話してもらえますよね?」


「そうですね。 まず、グレイ・アングライシスという人物。 まあフェリス君の、父親の事なんですけど。 貴方は今もその人物と、交流がありますか?」


「その質問に、何の意図があるのか知りませんが、私は付き合っておりません。 この答で、信じられますか?」


 例え少年だとしても、信じられない。 俺にとってこの少年は、噂ぐらいでしか知らない人物だ。 何を言われたところで、信用出来る訳が無い。 しかし、今踏み込まなければ、この先には進む事は出来ないだろう。


「この事は誰にも、例え両親や、さっき居たメイドの人にも、誰にも言っては行けませんよ? 実は、フェリス君は、生きています。」


「えっ、何だって?」


「ですから、今もピンピンして生きています。 もう一度言いますが、絶対に誰にも言ってはなりませんよ? 彼女の身にも、危険が及ぶかもしれませんから。」


「・・・・・いや、生きているのなら嬉しいけど。 彼女は魔物に食い殺されたと聞いているぞ。 相当な人数もそれも見ているし、何故生きているんだ?」


「はい、実はですね・・・・・。」


 俺は、フェリス君の事を全て伝えた。 実を言うと、彼女が危険な目に遭う可能性は、ほぼ無い。 組織のボスは、彼女の父親で、犯人の大半は死んでいると思われる。


 オーガと言う男が、もう一度ボスの娘を襲うとは、考えにくい。 どの道王国に行くのには、相当な覚悟と勇気が要るし、辿り着けたとしても、王国の加護にある彼女には、簡単に手を出せないはずだ。


「知らせてもらえて嬉しいよ。 しかし、わざわざ俺に知らせに来るとは、何か別の狙いがあるんだろ? やはり融資が欲しいのか? 例えフェリスの事が有ったとしても、簡単に渡す事は出来ないぞ。」


「いえ、私達が欲しい物は、お金ではありません。 貴方のもう一人のお友達である、オーガ・ブックレッドの情報です。 私は、彼がフェリス君を襲った犯人だと思っています。 他の殺人にも関わった可能性もです。」


「俺に友を売れと言うのか? 悪いがこと・・・・・。」


「フェリス君を殺そうとした人物を、まだ友と呼ぶと? フェリス君は貴方にとって、護るべき価値も無かったと?」  


「違う。 フェリスの事は好きだ。 今でも大好きだ。 しかし、オーガの奴が、そんな事をするとは思えないんだ。」


「では一つ、私が掴んでいる情報と、最悪の予想を、お教えしましょう。 私の予想では、このレーゼシュルトの家は、ある犯罪組織に加担している。 そして、その組織のボスとは、グレイ・アングライシスです。 ちなみに、グレイ・アングライシス本人からは、自分がボスだと聞かされています。」


「無礼者が!! 家の親がそんなものに関わているはずがないだろう!! この家を馬鹿にしているのか?!」


「アルファ・トライアンスと、グレイ・アングライシスが、犯罪組織を立ち上げたのは、事実です。 少し前の、新聞を読みませんでしたか? さっきも言いましたが、これは確認が取れています。 フェリス君からも聞かされた話です。


 彼等は、自分達の待遇を嫉み、その組織を作ったのです、お金なんて持っている筈がないでしょう。 頼ったのは友人である、この家の主でしか、考えられないのですよ。 良いですか? 彼等の目的は、王国への復讐なんです。 最悪、もう一度戦争が起こる事になるんですよ!!」


「帰ってくれ、そんな話は聞きたくなかった。」


「言っておきますが、両親に尋ねようとしても駄目ですからね。 貴方まで組織の仲間にされるか、それとも口封じされるかです。 もし調べるなら、コッソリとしてください。 あと、私達と連絡を取りたいのなら、帝国新聞の二階か、近くにある喫茶店にでもいらしてくださいね。 それでは、失礼いたします。 ほら、二人共行きますよ。」


「お、おう。」「待ってよぉ。」


「・・・・・。」






 俺達はこの屋敷を出ると、何時もの喫茶店に向かった。



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