一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

15 暴かれた闇の断片。

 遺書と言えるこの日記を動かすのは不味いな。 俺は日記をこの場に置いた。 こんな証拠が出たのなら、アリスにも知らせるべきだろう。 変に隠して怪しまれたくないし。 俺は部屋を調べている、残りの三人を呼ぶ事にした。 三人は仕掛けに驚いていたが、記者の好奇心が勝り、躊躇いなく階段を降りて行った。 三人はそれぞれに日記を読むと、地下の部屋から出て父親の部屋へと戻った。 


「警官に知らせる前に、私達で少し話し合いましょうか。 あの日記に書かれた事が真実ならば、相手は巨大組織なのでしょう。 此方の対応を間違っては、私達の命も危ういかもしれませんからね。」


「ふむ、トライアンスと言えば、名家の一つだな。 今は没落して、帝国への影響力を失っているが、その名の元に集まる貴族は多いと思うぞ。 最悪は半数が相手と思っても良いかもしれないぐらいにな。」


「えええ、そんなにですか? 私としてはもう少し規模が小さいと思っていたんですけど。」


「トライアンス家は貴族の中でも古参で、借りのある連中も多いからな。 より上位の貴族連中が其方につけば、その部下連中も寝返る率は高いと思うぞ。 それに、この事件が公になってるからな、断れば死と思う人間も多いんじゃないか?」


「一応聞きますけど、貴方達にも話が来ていませんよね?」


「俺達には関係の無い話だな。 トライアンス家との繋がりが零とは言えないが、そんな話が来るとしても俺達にじゃない、俺達の父親に行くだろうな。 まっ、それが来てるとしても、俺達には知らせもしないさ。」


「僕の方にもそんな話は来ていないよぉ。 貴族と言っても、最近成ったばかりのポッと出だったからねぇ、殆ど名前も知られてないんじゃないかなぁ。」


「トロンの所はそうっすね。 貴族認定されたのは五年程前って事っすからね。 私もあの屋敷では使用人をしてたっすけど、御両親もおやさしくて、酷い事をするとは思えないっすよ。」


 このアリスという女は、トロンの屋敷で働いていたのか? 今はそれも止めて、記者になっているのなら、敵の組織とは関係ないのかもしれないな。


「ひとまず安心しました、じゃあこのまま警官に知らせるべきでしょうか?」


「そんな組織を相手にするとなると、俺達だけじゃ不安だな。 しかも警官に知らせるにしろ、その中にも元貴族って奴は居るんだろ? 普通に知らせただけじゃもみ消される可能性もある。 ふう、これは俺達が扱う事件としては大きすぎるぜ。」


「う~ん、そうっすね・・・・・例えば帝国の新聞社が一斉に、この日記の文章を公開したらどうっすか? それなら警察も無視出来なくなるっす。 どうっすか? 結構良い考えだと思うっすよ。」 


「他社に情報のリークですか。 でも得体のしれない情報は、普通使わないと思いますよ? こちら側からだと明かしたとしても、それが正しいのか精査してからになるでしょうね。」


「じゃあねぇ、別の社の記者に、あの日記を発見させてしまえば良いんじゃないのぉ?」


「いいアイデアですが、となると他社との合同捜査ですかね。 上に掛け合ってみますが、それを受け入れてくれるでしょうかねぇ。 基本新聞なんて、自社のスクープ狙いですから。」


「それなら、警察側からその一日提供させるのはどうっすか? 私は警察に顔が利くっすからねぇ、その人もあんまり偉くはないけど、掛け合ってはくれると思うっすよ。」


「なる程、その日だけ調査可能なら、他の社も来るしかないですね。 ならそれでお願いしますアリスさん。」


「了解っす、私に任せてください!!」


 アリスの提案は上手く行った。 警官の伝手を上手く使い、一日とまでは行かなかったが、二時間の調査が許可された。 ただし、警官が数名同行する事と、バラバラに動き回らない事が条件だったが。 俺達にとってはそれで十分だった。 あと、あの猫は我が家に連れて帰った。 この屋敷の中に居た警官にも許可を取ったが、問題は無いらしい。 むしろ引き取り手をどうしようかと、悩まなくて済んだらしい。


 そして合同調査の当日。 各社の精鋭達が集まって、他社を如何蹴落とそうかと思案を巡らせている。 各社二人までの制限がなされ、参加しているのは俺とトロンだけだ。 他に知り合いと言えば、アリスさんが参加している。 警察に呼びかけたのは彼女だから当然だろう。


 まずは一階。 フェリス君の母親が殺されていた部屋から始まり、関係なさそうな部屋は、五分もしない内にサッサと飛ばされ、二階のフェリス君の部屋、母親の部屋と続き、父親の部屋を見終えた。 残りの部屋も軽く流され、あの天秤の様な飾りがある場所。 俺はそこで行動を起こした。


「あの飾り、何だか凄くきになりますね。 トロン、もしかしたら何かあるんじゃないですか? ちょっと触ってみてくださいよ。」


「はぁ、じゃあちょっと失礼して、よいしょっと。」


 殆どが興味無さそうにペンを走らせていたが、ガコッという音と共に、全員が振り向いた。


「おお、やりましたねトロン。 本当に隠し部屋を発見しましたよ!!」


「凄いねぇ、本当にあるとは思わなかったよぉ。」


 知ってる人間からすれば、もの凄く怪しかっただろうけど、他の記者はそんな事を気にしてもいない。 開いた通路を、警察の制止も振り切って、我先にと進んで行った。 一応誰かが細工をする可能性もあったが、あの状態では不可能だろう。


 翌日各社の一面に、スクープの文字が飾られ、あの日記の全文を乗せるとこさえもあった。 我が新聞社も、貴族の闇と題して大々的に取り上げた。 これにより、警察機関は動かざるを得なくなり、全国民は帝国の闇を知る事になった。






 そしてその日から、トライアンスの家は記者で溢れかえるのだが。 彼が自白するのはまだ先の話だった。



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