一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

10 朱殷(しゅあん)の髪と攫われた赤子 17

 ブラッグの部屋。 その中には、二人の男が話し合っている。 一人はこの屋敷にやって来ていた男、ブランゼルドと言っただろうか。 そしてもう一人、あの男がブラッグだろう。 何方も酷い悪人面だ。 顔で選ぶのはどうかとも思うが、私だったらこの男を選ぶ事は無いだろう。


 この部屋を抜けなければ、目的の寝室の奥には、行く事が出来ない。 私は二人の話を聞きながら、そのタイミングを待った。 この話で、罪の告白でもしてくれれば楽なのだが。


「・・・・・でだ、あの話はどうなっているんだブラッグ、俺はあれを心待ちにしているんだぞ」


「慌てるなブランゼルド、あれの完成には、まだ材料が足りないのだ。 だが安心するが良い。 後二日、いや後一日もあれば、アレが届くはずだ、それがあれば、あれを完成する事が出来る。 ようやくだ、ようやく完成する事が出来るのだ。 ふはははははははは!」


「ふざけるな、後二日も待てるものか! あれが無ければ俺は、俺はぁ・・・・・。 あれが完成しないのならば、他のブツを見せろ。 俺はあれが無ければ、スッキリ出来ないんだ!」


「ふふふ、仕方のない奴だ。 ならついて来るが良い、お前の求める者を与えてやろう」


 二人の男が立ち上がり、奥の部屋へと入って行く。 私もそれに続き、寝室の扉を潜った。 この二人、とてつもなく怪しい話をしていたが、こんな開け放たれた扉の部屋で、そんな話をしているとは思えない。 もしかしたら、私が勘違いしているだけかもしれないな?


 私が寝室に入ると、その光景に絶句してしまった。 思ったよりも・・・・・思った以上にファンシーな部屋になっている。 可愛らしいデザインをした、ヌイグルミの数々。 この男達からは、全く想像もつかない。 人は見かけによらないものだ。


 ブラッグは、懐から鍵を取り出し、もう一つ奥の扉を開いた。 中には、山積みにされたヌイグルミの山があり、ブランゼルドがそのヌイグルミを選んでいる。 ・・・・・この部屋はどうも違う様だ。 


「俺はこれにするぞ。 このヌイグルミがあればスッキリ眠れる。 ありがとよブラッグ」


「今作っている分はどうする、それで良いのなら別の奴にやっちまうぞ?」


「駄目だ! それは俺の為に作られた物だ! キッチリそれも貰って行くぞ!」


「ふふふ、そうか、だったら二日後を楽しみにしているがいい」


 この男が怪しいと思った私が馬鹿みたいだ。 だがまあ、一応可能性が無いわけじゃないのだろうか? 兎に角、一度あの用具室に戻るとするか。 私はブラッグ達の元を離れ、イクシアンに案内された倉庫へと戻った。


 用具室の中は誰も居ない。 イクシアンは、まだ戻って来てはいない様だ。 残りはエントランスにある、地下に通じているという扉と、外にある倉庫なのだが、何方も期待出来ない気がしてきた。


 あの女を、ただ待つのも何だし、魔法を掛け直したら、じっくりエントランスを見て見るとしようか。


 エントランスには、大勢のメイド達が、忙しそうに走り回っている。 イクシアンもどうやら掃除をしているらしい。 これはチャンスだ、蓋を開けて、掃除している振りでもしてくれれば、あの蓋の中に降りられるかもしれない。 私はイクシアンに近づき、他のメイドにバレない様に、小さな声で話しかけた。


「イクシアン、私だ。 あの蓋を掃除する振りをして開けてくれないか? その隙に私が入ってみる」


「・・・・・分かりました、一度試してみます」 


 イクシアンが、蓋のある場所へ近づいて行く。 他のメイドの動きを見て、イクシアンが、その蓋を開けて掃除し始めた。 私はその隙に、蓋の中へと入って行った。


 下へと続くタラップを降りると、開いていた蓋がパタリと閉まった。 蓋が閉められた中は随分と暗い。 私は下に降りると、持っていた松明に火を付けて、この穴の中を見渡してみるた。


 この方向は、たぶん外の倉庫の方へと伸びている。 これがあの場所へと繋がっているのなら、面倒が無くて良さそうだ。


 その道を歩いて行くと、外の倉庫がある辺りで、道が途切れている。 その場所には上に続くタラップがあり、私はそれを上って行った。


 その先にあった物は、私の予想とは随分違うものだった。 ブラッグの寝室の奥にあったファンシーな物とは違い、この場所には二十人近くの、大勢の子供が座り込んでいた。


 身なりは綺麗にしてあるが、こんな場所に押し込まれているという事は、奴隷として買われたか、それとも何処かから攫って来たのか。 何にしろ、イクシアンに報告するべき事だろう。 タダのヌイグルミ好きかと思っていたが、とんでもない外道なのかもしれないな。


 帝国には、戦争の前までは奴隷制度があった。 しかし今は廃止されている筈だ。 だが廃止はされているが、闇ではそれが残っているのかもしれない。 


 座り込んでいる、一人の女の子に話しかけ、何故この場所に居るのか質問してみた。


「君は何故こんな場所に居るんだ? 誰かに売られて来たのか?」


「・・・・・誰? もしかして天使さん? 私は死んじゃうの?」


「私は、君達を助けに来た。 もし助かりたいのなら、この場所に来た事情を話してくれないか?」


「あのね・・・・・」


 その子からの話を聞くと、攫われただけではなく、買われたり、ありとあらゆる事をして、子供を集めているらしい。 夜中になると、ブラッグがやって来て、服を着替えさせたり、可愛がられているらしい。 性的な事はされていない様だが、それでも、これは人として扱われていない。 ただの物の様に、人形の様に扱われているだけだ。 そして、大きく成長した時、この子供達は捨てられてしまうそうだ。


 酷い話だ。 綺麗な物を着ていても、この場には自由などという物は無い。 ただじっと暗い倉庫の中で、ブラッグを待ち続けるだけの日々。 私だったら耐えられない。


「聞こえるだろう、全員この場所から出るぞ。 この場所から助け出してやる。 全員、このタラップを降りるんだ」






 私の声を聞き反応した者は、半数にも満たない数だった。



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