一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 悪者は悪者に食われて、更なる巨大な悪となる。

 死にかけのフェリス君の為に、食事を作る俺は、食糧庫で材料を漁っていた。 彼女には色々と聞きたい事があるが。 もう少し回復してくれないと、何も聞けやしない。


 あの状態を見て分かるが、きっと何も食べていないだろう。 そんな中、いきなり固形物を食べさせるのは、おすすめ出来そうもない。 流動食が良いだろうか。 あまり料理は得意ではないが、イモを茹でるか、蒸かして、スープにでもしてみよう。


 俺はキッチンを使い、調理を始めた。 ちなみに、レシピとか俺が知ってる訳が無い。 とりあえず皮むいてしまうか。


 皮をむいたジャガイモを、何個か適当に切り、そのまま鍋の中へと投入した。


 まず水は入れるべきだろう。 とりあえず浸るぐらいには鍋に水を入れて、そのまま火にかけてみた。


 十分じゅっぷんぐらい待てば良いのだろうか。 そのまま強火で茹で続け。 柔らかくなった頃にガシガシと潰せるような道具でそれを潰してみた。 スープ上になるまでかき混ぜ、なんだかそれっぽい見た目になって来た。


 良し出来た。 ちょっと味をみてみよう。 ・・・・・薄いジャガイモ風味の水だ。 これで良いのだろうか? ま、まあほんの少し塩でも入れれば、何とかなるだろう。 


 もう少しに詰めて、スープと水の中間ぐらい・・・・・何方かというと水よりだが、栄養は取れるんじゃないだろうか。 もう少しジャガイモを入れた方が良いのだろうが、あまり時間を掛けたく無いし、これを持って行ってみようか。 腹が空いていれば、御馳走になるのかもしれないし。


 あの部屋に持って行っても、あの臭いではちょっと少しキツイか。 そうだ、鍋にお湯を沸かして、それで彼女の体を拭いてやろう。 あの風呂を沸かすよりは、その方が断然早い。 俺は大きな鍋を探し、それを使って湯を沸かすと、そのまま風呂場へと持って行った。


 それからフェリス君の部屋に戻ってみたが、まだ服を着る事も出来ていない。 簡単に動ける状態じゃないのだろう。


「えっと、少し我慢してくださいね。 お風呂場へ連れて行きますから。」


「・・・・・。」


 フェリス君の返事は無かったが、俺は彼女の体を抱き上げ、風呂場へと連れて行く事にした。 その道中、少々困った事が起こってしまった。 俺の思考とは関係無しに、下半身がムクムクと成長を遂げている。 パンツ一つでそんな状況では、傍から見たら変態にしか見えないだろう。


 落ち着くんだ、我が半身よ。 今はまだその時ではない。 静まれ、鎮まるんだ!! 俺の半身よ!! 俺は心の中で、それを反芻しながら、風呂場へと到着した。


「大丈夫ですか? タオルを持ってきますので、自分で拭いて・・・・・って無理ですよね。 じゃあ、上から拭いて行きますから、私に拭かれるのは、少しだけ我慢してくださいね。」


 俺は背中に周り、フェリス君の首元から濡らしたタオルで拭いていった。 貴族の中では、メイドや何かに体を拭かせたりするらしいから、あまり気にしてはいないのかもしれない。


 何方かというと、この俺の方が拷問に近い。 脳裏には、彼女を押し倒してしまえとの、考えが過る。 紳士な俺は、そんな考えを否定し、彼女の体を拭き進めた。 全身を拭き尽くすと、俺は急ぎ、彼女の服を取りに行く為、その部屋へと戻って行った。 途中でちょっと便所に寄り道したが、それはまあ仕方がない事だろう。


 適当に服と下着を選び、フェリス君の元へと持って行くと、今度は冷静に服を着せて行った。 落ち着いた彼女を連れて食堂に連れて行き、先ほど作ったスープを与えた。 


「まだ話は出来ませんか? 出来ないのなら、何か食べ物を作っておきますから、また明日聞きにきますよ。」


「・・・・・一人、には・・・しないで。 ・・・・・私を・・・抱いても・・・・・良いから。」


 一人にとは、母親が死んでいる事も知っているのだろうか? 父親の方も生きてはいないのだろうか? 謎はまだ謎のままか。


「物凄く嬉しい提案ですが、それは少し困ります。 私は、今の貴女を抱ける様な外道ではありませんから。 もう少し落ち着いたら、もう一度言ってください。 その時は全力で抱かせてもらいますから。 勿論そんな提案をしなくても、今日だけは傍に居てあげますよ。」


 フェリス君と一緒に眠り、眠っている間も手を放してくれないので、今度は俺の方が粗相をしてしまいそうな夜を過ごした。 少し勿体ない事をした、もうあの水筒は使えないだろう。


 次の日、フェリス君と一緒の朝食を取り、彼女がある程度の回復した所で、事の経緯を聞いてみた。


「そろそろ良いでしょう。 今までの事を話してくれませんか? あの噂の事とか。」


 怯えた顔をしたフェリス君。 酷い目に遭ったのは知ってるが、やはり話しづらいのだろう。 話をしてくれるまで、俺はこの場でジッと待った。


 沈黙が続き五分、覚悟を決めたのか、フェリス君が話始めた。


「・・・・・実は、この生活に耐えられ無くなった父が、もう一度過去の栄光を取り戻そうと、王国を葬る為の仲間を集め出したの。 話は簡単に進んで行ったわ。 私達と同じ様に、庶民の生活に馴染めない貴族はいっぱい居たもの。 貴族だけじゃないわ。 貧民街の中でも、父の計画に乗る人が出て来たの。 組織はドンドン膨れ上がっていったの。 でも、それは父だけが秘密で進めていた話で、私達は知らなかったの。


 不幸な事に、母と私は、偶然その話を聞いてしまったわ。 そんな恐ろしい事を計画している父を、私達は説得しようと思ったわ。 一週間説得を続けて、ようやく納得してくれる事が出来たの。 でも・・・・・それだけで終わる事は出来なかったの。 もう集められていた父の仲間達は、私達を脅しに来たの。 仲間に戻らないと、私と母を殺すと。


 実際に母は殺され、私を護る為に、父はそれに頷くしかなかったの。 彼等の仲間に戻る事で、私達を助けようとしたの。 父は家を去って行ったわ。 でも、私は許されなかったの。 悪者の仲間に部屋に閉じ込められて、暇でも潰す様に・・・・・わ、私の体まで・・・・・うぅ。 父は、それからも家に戻って来ていないの・・・・・。 もしかしたら、もう殺されているのかも・・・・・。」


 仲間を集めたつもりが、死神を集めてしまった訳か。 戦争に負けたというのに、奴隷にされないだけましなのに。 生き残れて、普通の生活が出来る事に満足していれば、こんな事にはならなかった筈だ。 欲というものは恐ろしいものだな。


「話は分かりました、フェリス君が言った噂と言うのは、信用出来そうな私に計画の事を知らせる為だったのですね?」


「・・・・・そう、でも殆ど期待していなかったわ。 もしかしたら、悪者に目を付けられるかもしれないし。 ・・・・・ごめんなさい先輩。 本当は先輩が死んでも、警察がそれを手掛かりに何か動いてくれると思っていたんです。 ごめんなさい・・・・・。」






 まんまと囮にされてしまったという訳か。 あんまり変な人には聞き込みをしていないし、人数も多く聞いていない。 俺が狙われる事は無いと思いたい。



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