一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

37 大蛇の討伐。

 待機して三十分ぐらいかしら? 何時敵がやって来ても良い様に、私達は待機を続けている。 後に居る子供達はグッスリと休み、まだ目を覚ます気配はなさそうね。


「サミーナさん、本当に戻って来るんでしょうか? もしかしたらもう来ないんじゃないですか?」


「さあね、でも自分の巣に迷い込んだ得物を、そう簡単に逃がしたりしないよ。 今は子供達を食いそこなったから、別の得物を探しに行ったんだろうね。 腹が膨れれば、またこの場所に戻って来るんじゃない?」


「こんな所に何時までも居たくないし、来るなら早く来て欲しいわね。」


「聖華先生、敵を倒すのは良いんですけど、この鉄の柵は如何すれば良いんでしょう? 入り口もありませんから、壊すしかないと思うんですけど、すっごく硬そうですよ?」


 試しに柵を揺さぶってみても、上下左右ガッチリと食い込んで、私の力では全く動く気配が無い。 私には鉄を斬る様な力は無いし、砕ける様な力も無い。 私はサミーナさんを見つめるが、首を横に振るだけだった。


「助け方は後で考えるとしよう。 安全が確保出来れば、他に誰か応援を呼んで来てもいいからね。」


「そうだわ、エト先生ってどんな力を持っているの? 私達に教えてくれないかしら?」


「あ、はい、私が使えるのは、水の魔法と、水の魔法ですよ!! それと水の魔法も使えます!!」


「あ~はいはい、水の魔法だけね、もう分かったから言わなくて良いわよ。」


「六属性も持ってるからって、馬鹿にしないでください!! 全く、飲まなきゃやってられないですよ!!」


 もしかして自分が水の属性しか使えないから、やさぐれてただけなのかしら? こんな所で酔っぱらわれても困るし、少しだけ元気づけてあげましょうかね。


「別に馬鹿になんてしてないわよ、水だって使い方次第でしょ。 回復魔法なんて私は使えないし。 もし怪我をしたら、貴女に任せるわよ。」


「え、そうなんですか? じゃあ私に任せといてください、回復魔法だけは結構得意なんですよ!!」


 多少は機嫌が直ったのかしら? 彼女の方が先輩だというのに、もうちょっと頑張って欲しいものだわ。


 そんな話をしている中、不意に前方にある光が揺らめいた。 まだ魔法の光が消える時間じゃない、これはあの蛇が戻って来たのかも?! 戦いが始まる前に、私はこの洞窟に光の球を付け直した。


 私が言う前に、サミーナさんは戦闘体勢に入っている。


「エト先生、もう来るわよ。 注意して!!」


「う・・・・・は、はい、頑張ります!!」


 エト先生に注意を呼びかけ、私は必殺の水の弾丸を精製する。 この魔法はハンブラーを殺し掛けた物だけど、今では銃弾の弾と言うよりは、砲弾と言っても良いぐらいになっている。 その弾を作り上げた私は、敵の到着を待った。


 暫くすると、前方から薄い影が此方へと近づいて来ているのが分かる。 見えた!! あれは王国に来たものより随分大きい、一回りは大きくなっているわ。 この一日でそれだけ成長したって事かしら!!


 私は大蛇が見えた瞬間、作っていた水の弾丸を放った。


「轟け、水流の砲弾よ!!」


 狙いを付けた頭を外してしまったけど、球は蛇の横腹へとぶつかり、その体に沸騰した熱湯をぶちまけた。


「シギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 熱さにのたうっているけど、倒すには程遠い。 私達にに向き直ると、一気に距離を詰めて来た。 狙われているのは奥で硬直しているエト先生。 しかしそれに反応して、サミーナさんが立ち塞がった。


「チィッ!!」


 サミーナさんの、大型のナイフが蛇の額を捕らえるけど、その硬い鱗は、大型のナイフさえも弾き返し、そのままサミーナさんの腕に絡みつこうと、長い体を巻き付けていく。 


「ぐああああああああああああああッ!!」


 サミーナさんの左腕は、絡みつかれた一瞬で骨を折られてしまうが、サミーナさんもただやられている訳じゃない。 腕を壊される前に手で蛇の頭を固定して、ナイフの柄で、敵の目玉を強く打ち付ける。


 その攻撃で、バキィっと蛇の眼球が硝子が割れる様に砕け散る。 怯んだ大蛇は一瞬力を緩め、その隙にサミーナさんは腕を引き抜いた。 私はその隙を付き、二つ目の魔法を放った。


「熱せ、豪熱する水弾よ!!」


 水と熱だけを使った、ただのお湯の球だけど、この場で炎が使えないというなら、この魔法が適切だろう。 その熱湯を頭かくらった大蛇は、のたうち回りながら、更に濃い緑へと変色している。 かなり有利だと思ったのだろう、エト先生が、止めとばかりに水の魔法を放った。


「ス、スプラッシュ・ウォーター!!」


 普通なら、冷たい水をくらわせたなら、火傷の痛みを抑えただろう。 しかしエト先生が放った水の放射は、偶然にも大蛇の口の中へと吸い込まれた。 大量の水を飲み込んだ大蛇は、大きな腹を引きずる事も出来ず、その場で留まっている。


「エト先生お手柄ね!! 止めよ、食らいなさい。 豪熱する水弾よ!!」


 私は、動きの鈍くなった蛇の体中に、三度目の熱湯をお見舞いした。 三度目の熱湯は、蛇の目を白く濁らせ、その体を地面へと沈めた。


「エト・・・・・回復を頼むッ。 痛みで思考が回らないッ。」


「す、直ぐに癒します!!」


 サミーナさんの事はエト先生に任せるとして、この蛇本当に死んでるわよね? 怖いからもう一発使っとこうかしら。


「豪熱する水弾。」


 四回目の魔法を掛けても変化が無い。 私は恐る恐る蛇に触ると、物凄い熱さで思わず悲鳴をあげてしまった。


「あっつううううううううう!!」


 これは死んでるわね、これで死んで無きゃ困るわ。 納得した私は、子供達が居る柵の前に移動すると、これからの事を考えた。


 次はこの柵を開かせないといけないけど、手持ちの魔法や武器で開ける方法が思いつかない。


「サミーナさん、応援を呼んで来てくれないかしら、私達二人はこの場所で待ってるから。」


「ええ? 私も残るんですか?!」


「あんたも教師なんだから、子供のピンチぐらい腹をくくりなさいよ。 私だってこんな場所で待ってるのは怖いのよ。 あんたクロウ君の婚約者なんでしょ?」 


「そうですけど・・・・・うぅ、仕方ありませんね。 残れば良いんでしょ残れば。」


「なら私は応援を呼んで来る、距離からすると最低三時間ぐらいだな。 それまで頑張ってよ。」






 応援を呼びにサミーナさんが王国へと戻って行く。 私とエト先生は、子供達と一緒にこの場所に残った。



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