一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

31 子供の事になると親は怖いのよ。

 北門にやって来た私とエト先生、そして未だに酔っぱらっている戦士サミーナ。 昨日と同じ様に誰も居ないと思ったけど、何人かの兵士がこの場所を見張って居る。 また何かあったんだろうか?


「聖華先生、此処に二人が居るんですか?」


「どうかしら、昨日この場所で別れたのは分かってるんだけど、何処に誰を呼びに行ったのか分からないのよね。 とりあえず周りに居る兵士の人に聞いてみましょうか。」


「お、お、お、お、お、おゔええええええええええええええええええええええええええええ!!」


「あ、サミーナさん、迷惑になるからこんな所で吐いたら駄目ですよ。 ほら、あっちの木陰に行きましょう。 あそこだったら虫が食べてくれますから。」


 ・・・・・あの人は気にしないで行ってみましょうか。 まず私は、広場を見張って居る、兵士の一人に話しかけた。 


「あの、すみません、私は魔法学校で教師をしている聖華といいますが、昨日の騒ぎの時に、走り回っていた子供を見ませんでしたか? 実は、昨日からその子達が見当たらないんです。 もし手掛かりが有ったら、私に教えてくれませんか?」


「ああ、その子共達なら、今探している最中だ。 ご両親からの通報で、昨日の夜からさがしている。 今の現状が知りたいのなら、あの建物に行ってみるがいい。 あの場所にその子供のご両親達がいらっしゃるぞ。」


「あ、有り難う・・・御座います。 早速行ってみますね。」


 責任追及されて、いきなりクビにされそうだ。 元はといえば子の隣の女が、真面に授業をしてたなら、あの二人もこんな事にならなかったのに。 もし私がクビになったら、この女にたかってやろうかしら!!


 あの建物に、二人の御両親がいらっしゃるのは良いんだけど、私一人で入る勇気は無いわね。 あの酔っぱらいは此処で待たせておくとして、御両親の知り合いだと言う、エト先生だけは連れて行きたい。


「サミーナさんは外で休ませといて、アンタは付いてきなさい。 あの建物に二人のご両親がいらっしゃるみたいだから。 ・・・・・変な事言わないでよね?」


「あら、おじ様達がいらっしゃるのね? サミーナさ~ん、こっち・・・・むぐ。」


 私はエト先生の口を手で塞いだ。 あんな人が居たら、私が真面目に謝ったとしても、絶対許して貰えないし。


「あの人は良いの、まだ酔っぱらってるし、外の風に当たってた方が良いでしょう。 ほら行くわよ、死ぬときは一人で死んでね。」


「はぁ?」


 よく分かって無いエト先生を引っ張り、私達はご両親のいらっしゃる建物へと向かった。 その建物の中に入ると、中には見た事のあるお爺さんと、座っている四人の男女が、クロウ君と、ピース君のご両親だろう。 あのお爺さんは屋上で倒れてた人だわ。 気絶してたから私の事は知らないと思うけど。


 そのお爺さんは、私達の事を見かけると、勢いよく走り寄って来た。


「むっ、貴女方は? もしかして二人の行方を知ってらっしゃる方か?!」


「いや、あの・・・・・はい。 昨日の騒ぎの前までは、その二人と一緒に行動していました。」


「クロウの事を知っていらっしゃるのですか!! あの子は何処に?! 何処に行ったのですか!!」


 私の元へ詰め寄って来たのは、この中では一番美しい衣装を着ている、クロウ君のお母さんだと思う婦人だった。 かなりの動揺を見せて、知り合いのエト先生の事も目に入っていない。 それを宥めたのは、その人の夫だろう。


「フローレンス、もう少し落ち着きなさい。 そんなに詰め寄っては、彼女も話せないだろう。 まずは落ち着いて話を聞こうじゃないか。」


「貴方は少し落ち着き過ぎなのです!! 自分の子供が居なくなったのですよ、もうちょっと心配したらどうなのですか!!」


「私達が声を荒げても、事態は好転しないだろう。 まず向うの部屋で、お茶でも飲んで来なさい。 ブリュード君、妻に付き添ってくれたまえ。」


「承りました。 さあ向うへ行きましょうフローレンス様。」


 物腰は穏やかだったけど、かなり強引に引っ張られて、フローレンスとブリュードは別の部屋へと行ってしまった。


「さて、場も落ち着いた所で、早速話を初めてもらいましょう。 其方にはエトさんもいらっしゃる様なので。」


 この人、落ち着いている様に見えるけど、目が怒ってらっしゃる・・・・・状況が状況なだけに、下手な事を言ったら、斬り掛かられそうな雰囲気だわ。


「ま、まず、自己紹介させてもらいます。 私は魔法学校で臨時教師をしている聖華と言います。 実は昨日、クロウ君達と一緒に、この場所に来たんですけど・・・・・ご存知かもしれませんが、魔物の襲撃にあってしまいまして・・・・・それで二人には誰かを呼んで来る様に言ったんですが、それから会う事が出来ず、家に帰ったと思ったんですけど・・・・・二人と一緒に行動していたら、こんな事にはならなかったと思います、本当にすみませんでした。」


「そうですか、では貴女が町を救ったという女の方なのですね。 話は聞いています、貴女が居なかったなら、この町がどうなっていたのか分かりません。 この国の住人として貴女に感謝を送りたい。 ・・・・・しかし、親としては許す事が出来ません。 なぜ子供達だけで行動させたのかと。」


「はい・・・・・。」


「貴方達には是非息子達を見つけて欲しいのです。 そうでなければ、私は貴女達を許す事が出来ないでしょう。 どうか、どうか息子を、息子たちを見つけ出してください。」


「探し出します、絶対に!! もし探せ出せなければ、エト先生と一緒に罰を受ける覚悟は出来ています!!」


「え?」


「良い覚悟です、しかと聞き届けました。 出来なかった時は・・・・・」


 クロウ君の父親は、置いてある剣の柄を握りしめている。 失敗したら間違いなく殺される。


「・・・・・はい、任せてください!! それで、今の状況はどうなっていますか? 目撃情報はあったんでしょうか?」


「うむ、どうやらワシが倒れて居る間に、門の外へと出て行ってしまった様なのだ。 お二人にはすまない事をしたな、ワシさえ倒れていなかったら、門は直ぐに閉じられたのだ。 伯爵、罰するならワシ一人で十分です。 もし二人がご無事に戻らぬ時には、ワシを斬り殺してくだされ!!」


「今は誰が悪い等と聞きたくありません。 早く子供達を探しに行ってください!! 早く!!」


「はい、今直ぐに向かいます。 ・・・・・さあ行きましょうエト先生、早速二人を探しに行きますよ。」






 私はエト先生を連れて、建物から出た。



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