一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 不幸な事って重なるものね。

 たった一匹の蛇を何とか倒した私達は、門の中へと戻り、敵の動きを見ている。 こんな状態なら、門は閉まると思うけど、まだ北の門は閉じられていない。 あの大量の蛇の群れでも自信が有るんだろうか? でも既に1匹の侵入を許し、その警戒の音も鳴っていない。 兎に角北門の内部に入ってみるしかない。


「あんた達は町の兵士に知らせて来なさい、私はあの門を頑張って下げて見るから。 良い? もし誰も見つからないなら大声で叫びなさい。 誰かが知らせてくれるかもしれないからね。 分かったら行きなさい、急いで!!」


「うん、行って来る!!」


「ああ、俺に任せとけ!!」


 二人が町の中を走って行く。 私は門を閉じる為に、北門の内部へと入って行った。


 北門の内部、門からは少し離れた場所から入れるこの場所には、全く人の気配が感じられない。 やっぱり蛇退治に全員出撃したんだろうか? 人が居ないなら開閉スイッチを探すしかないけど、何処にそれがあるんだろうか? 外側の門の横には無かったから、内側の横辺りか、それとも屋上部の見張り台の近くかしら?


 この内部の構造は簡単な物だわ。 扉から入ると左右に続く通路に、その通路の片側に扉がズラリと並んでいる。 たぶん一つ一つが兵士達の個室とかそんな感じなんだろうか? その中に寝ている人でも居れば話は早いんだけど、一つ一つを確かめている時間が惜しいわ。 強めに扉を叩きながら、右側の門方向へと走り出した。


 かなり強く音を鳴らしているけど、まだ誰も扉から出て来る気配がない。 これはちょっとノック手が痛いけど、今は私がやるしかないわ。


 私は三十メートル程を進むと、門方面には何も無く、横に普通に扉があるだけだった。 試しに扉を開けてみたけど、その中は普通に誰かの部屋になっている。


「あ~もう、こっちじゃないの?!」


 門の開閉スイッチなんて重要な物を、敵に分かり易い場所に置いとく事は無いのかしら? じゃあやっぱりどれかの扉の中とか? 分からない場所に隠されているとか? 駄目だわ、考えても分かる事じゃないわね。 私は逆の通路を進み、屋上部へと伸びてそうな階段を見つけた。 二階部分、三階部分を越え、屋上部へと辿り着いた。 私は開閉スイッチを探すが見つからず、見張りの居そうな場所を探してみた。 少し高く作られているその場所を見つけると、私はその場所へと向かって行った。


 その場所に向かう途中、屋上部から外を見てみるけど、相変わらず大量の蛇の群れと多くの兵士が戦っている。 まだ何とか町への進入は防げてるみたいだけど、それが何時まで持つか分からないわ。


 見張り台の上部にたどり着いた私は、その場所で倒れて居た兵士のお爺さんを見つけた。 本当ならこの人が門を閉めたりしたんだろうけど、運悪くこんな状態になったのね。


「大丈夫、まだ息があるわ。 傷も見当たらないし、もしかしたら病気?」


 回復魔法でなら治せたりしないかしら? でも私の第二魔法は残り三回、三回あれば回復魔法を作る事も出来るけど、その場合は私が倒れてしまう。 それでお爺さんが動けなければ、この状況を如何する事も出来なくなる。 このお爺さんには悪いけど、まずはこの場所にある警鐘を鳴らさないと!!


 私は近くにあったハンマーを手に取り、見張り台にある鐘を思いっきり鳴らした。


 私は一回、二回、三回と鐘を叩き続ける。 町の中に鳴り響く音に、たぶん気付いてもらえただろう。 しかし如何しよう、このままお爺さんを放っておくのも気が引けるけど、門を下ろすスイッチも見つけないと。 しかしこんなお爺さん一人で見張りをさせるなんておかしいわね? まさか相方はトイレにでも行ってるとかじゃないわよね?


 とりあえず見張り台の内部を見渡してみるが、此処の場所にも開閉スイッチらしき物は見当たらなかった。 こうなったらもう鐘を鳴らし続けるしかないわ、誰かこの場所に来るまで叩きつづけよう!!


 二分もすると、鐘を鳴らしづづける私の元に、上空から炎の翼を纏った女性が現れた。 その女性は私の近くに降り立つと、口をモゴモゴさせながら訪ねてきた。 


「・・・・・何?」


 この子はたぶん味方だと思うわ。 何だかもごもごと口ごもりっているけど、何でこんな事になってるのか聞きたいのかしら?


「私は門が閉まらないから見に来たの、でもこの人が倒れて居て困っていたの。 私には門の下ろし方は分からないから、誰か来るのを待ってたのよ。 貴女は下ろし方知ってるかしら?!」


 その子は何も言わずに首を横に振ると、お爺さんを連れて門の下へと降りて行った。 その子はお爺さんを北門の広場のに下ろすと、剣を持ち北門の前に立ち塞がった。


 彼女の力は分からないけど、応援が来てくれたのは嬉しいわ。 お爺さんも下におろしてくれたし、私の魔法もあまり残されていない。 このまま戦いを見守ってましょう。 


 私は見張り台から戦いの様子を窺っていると、町の方面から次々と応援がやって来ていた。 今は、あのお爺さんにも治療が行われているわね。


 兵士の数は増しているし、だから戦いは順調に行くと思っていた。 しかしそのウロコは硬く、剣を使う兵士達には中々の強敵だった。


「待たせたな!! 俺が来たからにゃ、一瞬で終わらせてやるぜ!!」


 上空を飛ぶ黒い鳥、あれはべノムさんだわ。 あれだけ速いんだから、もっと早く来て欲しかったわ。 でも救世主だと思われたたべノムさんが現状を一変させた。


「ぐあああああああ、なんじゃこりゃああああああああああああ!!」


「敵の数増やして如何するんだ、この馬鹿!!」


「うっせぇ!! 知らなかったんだからしょうがねぇだろ!!」


 べノムさんが一瞬のうちに敵の多数を斬り裂くと、その斬り裂かれた敵が分裂して、その数を倍にしてしまった。 私は急ぎ北門前に走ると、門の前に居たあの子に話た。


「あの、貴女ちょっと聞いて。 私あの蛇を一匹倒したのよ。 水の球に入れて、炎でゆで上げたら動かなくなったんだけど、たぶん火で焼いちゃえば死ぬと思うのよ。 炎を使う貴女ならやれるんじゃないかしら。」


「・・・・・分かった。」


 私の言葉で彼女が動き出した。 炎を纏った彼女は、野に居る大蛇を焼き尽くして行く。 動かなくなる大蛇を見て、兵士達は炎の魔法を使い始め、勝利の天秤は此方へと傾いた。 殲滅までは四時間を要したが、何とか防衛に成功し、この戦いを終えれた。 






 ちなみに後で聞いた話だが、あのお爺さんの相方は、本当にトイレに行ってたと聞いた。 酷い腹痛でトイレに籠っていたらしい。 お爺さんが降ろされてから三十分後ぐらいに門が降ろされてたわ。 その人は後でこっぴどく怒られて、今度からは三人以上を見張りに置く事になったわ。



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