一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

26 北門は大騒ぎだわ。

 北門の先から、此方に向かって来ている緑色の蛇の集団があった。 その数は此処からでは確認出来ず、相当な量が居ると思う。 上空からはその蛇の集団を追う、探索班の人。 攻撃を続けているけど、その数は一向に減らない。


 蛇と言っても、その形状は少し違う。 魚の様な目、鱗はゴツゴツと盛り上がりとても堅そうだ。 三メートル程の長さに、一番違うのは胴回りだろう。 新品のトイレットペーパーを倍ぐらいにした太さを持っている。 そんな物が体にでも巻き付いたら、一瞬で骨までバラバラにされそうだわ。


「見ろピース、近くに敵が来てる様だぞ。 これは俺達が活躍するチャンスじゃないか!! 兵士の皆に俺達の力を見せてやろうぜ!!」


「え、や、やだよ、あんなの相手にするの怖いもん。 僕達がやらなくっても大人の人がやってくれるよ。」


「何だよ、弱虫だなぁ。 じゃあ良いよ、俺だけで行って来るから。 じゃあ先生、俺行って来るから!!」


 私は跳び出そうとするクロウ君の腕を掴み、それを制止した。


「はいはい、行っちゃ駄目よクロウ君。 ピース君の言う通り、大人の人がやってくれるわよ。 まだ戦闘経験もない子供が行ったって、兵士の皆さんの邪魔にしかならないわよ。 ほら此処から離れましょう。」


「折角魔法覚えたのに、此処で帰るとかないぜ。 じゃあ先生、戦いの見学だけして行こうぜ。 俺達だって何時か戦う時が来るし、見学だって立派な修行になるからさ。 先生、良いだろ?」


 見学か、そういえば魔法学校にも戦闘訓練ってあったわね。 どうせ後でやるなら、今この戦闘を見とくのも悪くないのかしら?


「じゃあ見学だけだからね。 二人共、邪魔にならない様になるべく下がるわよ。 それで良いでしょ?」


「分かったよ先生、俺見学だけにしとくよ。 先生が折角付き合ってくれたのに、言う事聞かないとか駄目だもんな。」


「ん、分かってくれれば良いのよ。 じゃあピース君もそれで良いわよね?」


「・・・・・先生、あれ。」


 ピース君が私の服を引っ張り、何かを訴えている。 私はそれを見ると、此方に蛇が一匹向かって来ていた。 何故こっちにと周りを見渡してみるが、手の空いてる兵士は誰も居ない。 私が逃げたら町の中に入られる。 私が逃げて、他の人達が襲われるのは私の正義に反するわ!! しかし子供達が・・・・・


「二人共逃げなさい、此奴の相手は私がするわ!!」


「駄目だよ先生、俺達だってもう戦える力はあるんだし。 逃げるなんて出来ないよ!! 町の中には戦えない人だって居るんだから!! ピースも逃げないよな?!」


「・・・・・うん・・・・・僕だって魔法を使えるんだし、やらなきゃいけないよね。 聖歌先生、僕も頑張るよ。」


 一人より三人の方が確立は高いけど、子供達も怪我をする確率は上がりそうだ。 でも、町の中に入られでもしたら、この子達より力の無い子供が犠牲になるかもしれない。 この子達には私が付いているんだ、大丈夫、やれるわ!!


「分かったわ、その代わり先生の言う事をちゃんと聞くのよ? いい? 分かったわね? 分かったら二人共、何時でも魔法を使えるように準備しときなさい。」


「「はい!!」」


 覚悟は決まったけど、このまま何もせずただ近寄らせる意味は無いわ。 私は直線方向に大岩を出現させ、その進路を塞ぐことにした。


「エターナル・ストーン!!」


 蛇の進路に大岩を置くと、私は少し下がり、岩に向かって炎を放つ。


「ホーリー・フレイム!!」


 大岩に炎が当たり、その岩が赤く輝き出した。 これでこの岩の上には登れないと思うわ。 これで敵が来るのは左右二方向、もし戦闘で不利になったら、この岩を周って時間を稼げる。 私達は両方を見張りながら敵が来るのを待った。


「先生、右から来るぜ!!」


「ピース君攻撃魔法を使いなさい。 しっかり光を当てるのよ。」


「・・・・・サンライトレーザー!!」


 蛇の額に光が集まる。 その熱さに耐え兼ね、体をくねらせて魔法を躱そうとしている。 しかし体をくねらせたから、その分体中に熱線が通り過ぎ、蛇の動きを阻害していく。 この魔法は一気に敵を倒す魔法じゃない。 相当な熱で焼かれ、酷い火傷と痛みをもたらす。 火傷は動きを阻害し、蛇の動きを鈍らせ戦い易くなるという魔法だ。


「じゃあクロウ君はナイフを作って投げてなさい。 絶対近づいたら駄目よ、あれに近づいたら絞殺されるわよ。」


「うあ、俺の魔法使えないじゃん。 皆活躍してるのに。 くそ、これでもくらえ、アースクリエイター!!」


 クロウ君の作ったナイフは、蛇の鱗にも刺さらない。 クロウ君の思った物を作るという相当良い魔法なんだけど、まだ彼にはその技術が追いついていない。 もしクロウ君が、名剣や名槍を作り、それを自由に操れたとしたら、相当な強さになれるだろうけど、それはかなり先の話だわ。 子供達の将来の為にも私は頑張らないといけない。


「シャイニング・アクア!!」


 動きが鈍った蛇に、私は水の魔法を放った。 その水の塊は蛇の体を包み込む。 ピース君の魔法の影響で上手く動けない蛇は、その水の球からなかなか抜け出せない。 しかし私はこれだけで倒せるとは思っていない。 私とピース君は追撃の攻撃を放った。


「ピース君、チャンスよ、せーの!!」


「サンライトレーザー!!」「ホーリー・フレイム!!} 


「俺もやるぜ、てい!!」


 クロウ君のナイフは水圧に負けて、力をなくしたけど、私とピース君の二つの魔法は、水を沸騰させ熱湯に変えて行く。 上部から湯気が立ち上る程になると、中にいた蛇がぐったりと浮かび上がった。


「やったぜ先生、俺達勝てたぜ!!」


「まだ油断しちゃ駄目よ、こういうものは簡単に死なないんだから。 いい? 今の内に後へ下がるのよ。」


「先生、止め刺さなくても良いのか? まだ死んでないなら、今の内に殺しといた方がいいんじゃないのか?」


「ん、そうね、もう一発撃っときましょうか。 ホーリーフレイム!!」






 止めの魔法は、蛇の体の色を変色させ、ワカメの様に鮮やかな色に変わった。



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