一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 無限ループは止めてください。

「フハハハハ、如何した来ないのか? それとも怖気着いたのか!! やっぱり噂程じゃないただのババアだな!!」


 ババアババアと、何回言うのよこのゴリラ!! 綺麗なお姉さんと訂正しなさい!!」


 この男、魔法学校の教師というだけあって、そこそこの力を持っている様だ。 少なくとも火と水、それが使えるのは間違いない。 昨日考えてた氷の魔法を使っているから。 掌から氷柱つららを飛ばして攻撃してきている。 だけどそれだけだわ、避けられた大きな氷柱は、地面に落ちてただ転がってるだけね。


 第二魔法は使えない、光と闇は別としても、もし当たれば確実に殺す事になってしまうから。 安全に使えるのは第一魔法のみね。 まず様子見、私は油断を誘う為に、第一魔法を使って火の攻撃を放った。


「火の力よ!!」


 ボウっと小さな火の球は、ハンブラーに向かって飛んで行く。 だが進む速度もそれほどない火の攻撃は、簡単に躱されて地面に落ちる。 数秒もせずに火は消え、殆ど攻撃の意味をなしていない。 本当は言葉を発しなくても使う事が出来るけど、これは気分って奴よね。


「フフッ、六属性持ちと聞いていたが、あまりにも弱すぎて話しにならんな。 如何だ? ケツを突き出してごめんなさいとでも言ってみるか? 気が向いたら許してやるかもしれんぞ?」


 ババアババアと言っときながら、私の体でも使ってやろうって気なの? 全く、此奴の何処が教師なのよ、こんなのに教えられる子供達が可哀想だわ!!


「ムカつくゴリラ野郎め。 本っ気で潰されたい様ね!! 受けなさい、水の弾よ!!」


 苺ぐらいの水の球はハンブラーを捉えるが、特にダメージを与えるでもなくただぶつかって消えて行く。 何度もそれを使い続けるが、ただハンブラーの体が濡れるだけだった。 速度も出していないこんな球じゃ、殆ど無意味よね。


「やはり威勢が良いだけのババアだな!! それとも俺に組み伏せられたいのか?!」


「アンタみたいな奴に抱かれるぐらいなら、抱かれた瞬間金玉握り潰してやるわよ!! 行け、水の弾よ!!」


「アイスランサー!!」


 水の球を突き破って氷の氷柱が向かって来る、もう完全に覚えられたかしら? もう完全に油断しているけど、私としても実戦で魔法を使える場面を逃したくない。 この馬鹿を利用して、使い方を学ぶべきよね。 私は氷柱を躱して、次の魔法を放った。


風吹ふぶ砂塵さじんよ!!」


 二つの魔法の合体技。 と言ってもただの目つぶしだけど。 当たれば良いけど、砂の数も少ないし、たぶん無理ね。 でもそれも計算の内よ。


「暗雲が立ち込める。」


 微かに見える程度の暗闇の魔法、それを更に引き延ばし、相手に気づかれないぐらいの靄となる。 それをハンブラーの目の前に一つ置いた。 たぶんハンブラーには、今何が起こったのか分からないだろう。


「コールドストーン!!」


 拳より小さい氷の球、それが六つ、こういうバージョンもあるのね。 氷でも十分な凶器だ、当たり所が悪ければ気を失うかもしれない。 私は頭だけ庇い、あえて避けず。 目つぶしの魔法をもう一度使う。


風吹ふぶ砂塵さじんよ!! 暗雲が立ち込める。」


 地面の砂を巻き上げる様に風が上に舞う。 砂塵は闇のもやを隠し、もう一段階闇が深くなる。


「そんな物が効くか!! くらえッ、コールドストーン!!」


「暗雲が立ち込める。」


 闇をもう一つ、相手の目にはほんのりと靄が掛かる程度には闇が広がっている。 霞んだ目で投げられた氷は私の横を通り抜けて行った。


 砂が目に入ったのかと、目をこすり出すハンブラー、この男を倒す為には、今使ってる魔法を進化させるしかないわ。 これはレベルを上げるという意味じゃない。 第一魔法同士を合わせて、その威力をあげるのよ!! 


 火、水、土、風、それと光と闇。 まず光と闇、これを起点に強い魔法を作るのは難しい。 雷撃を作るにしろ、それは静電気ぐらいの力しかない。 それだと相手を倒せない。 熱した砂を風で飛ばした所で倒す事も出来ない。


 私が選んだのは水。 水というのは色々と凄いのよ。 温めればお湯になるし、冷えれば氷になる、砂を固めるのにも使えれば、風で揺らす事も出来る。 一番重要なのが、魔法を使った水は、飛び散らず、固まったままだと言う事よ。


 第一魔法なら私でも凍らせる事が出来るけど、そんなあからさまな攻撃では相手は避けてしまうわ。 私は掌の中にイメージの物を作りだして行く。


 使うのは液体、形は楕円形、その中には砂粒を混ぜ、その水に風は回転を与える。 ついでに火は水を温め、水をお湯に変えて行く。 良し出来た、後はこれを発射するだけよ。


 まだ私の事を無視するように、目をこすって治そうとしているこの男に、私はアレンジを加えた魔法を放った。


「響け、水流の弾!!」


 形が変わった事により空気抵抗が減り、与えられた回転は混ぜられた砂を先端に集める。


「ッ、無駄な事を何時までも・・・・・グガッ!!」


 今までくらっていた水の球と同じように、ハンブラーはそれを避けようとしない。 そのままハンブラーの額にぶつかると、そのまま弾ける様に後へ吹き飛んだ。 倒れたハンブラーは、白目をむいて動かない。 そういえば聞いた事があるわ。 水でも凄い速さでぶつかると、コンクリートみたいに硬くなるって。 それに砂を固めるのはちょっとやり過ぎたかしら・・・・・


「・・・・・し、死んでないわよね?」


 私は首に指を当てる・・・・・口元に手を・・・・・不味い・・・・・これは不味い!!


「し、心臓マッサージ!! 1、2、3、4・・・・・」


  駄目だ、喧嘩程度なら見逃してもらえるけど、殺しは不味いわ!! 此奴が死ぬのは如何でも良いけど、私が殺人犯になるのは不味い!! 何時か生まれる孫の為にも、殺人犯にだけはなりたくない!! 本当に嫌だったけど、私はハンブラーに人工呼吸を施した。


「き、気道確保!! 鼻をつまんで、良し、ふうううううううううううう!! ふうううううううううううううう!!」






 十分後、私が人工呼吸から口を放した時、ハンブラーが目を覚ました。 その顔が何だか赤く、私の目を見ようとしない。 まさかまた惚れたとか言うのかしら? もう勘弁して欲しいんだけど。 



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