一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 世の中には言ってはいけない事ってあるものよ。

 ヒルデさんにお土産を持たされ、私達は転移魔法で王国の町に帰って来ていた。 お土産は先ほどの料理を詰め込んだ物だった。 味は美味しい、凄く美味しいんだけど。 毒が入ってる確率が0%だと言えないこれは、もうロシアンルーレットみたいな物だ。 私が分けようとするとアツシは断固として拒否して、メイ君は微妙な表情をしていた。


 私は自分の部屋に戻り、今まで憶えたスキルの確認をする。 依頼の最中にも唱え続けた第一魔法だけど、今は4レベルまでに達する事が出来た。 今では炎魔法は小さな蝋燭ろうそくの炎ぐらいにはなり始めている。


 他の物も大体同じようなものだけど、問題は土魔法だった。 レベル1は1粒、レベル2は2粒、そしてレベル3だと8粒で、今私が覚えたレベル4だと48粒だった。 このぐらいになるともう数えるのも面倒臭いわね。 これはたぶん×2、×4、×6となってるのかも。 とすると次が384粒になるのかしら? その次が3840粒? そうなるともう部屋の中で使うのは限界だわね。


 さて次よ。 さっき覚えたばかりの毒耐性だけど、これを試す事は出来ないわ。 もし試してる内に、自分の耐性より強い物が有ったとすると、私はその時点で死んでしまう事になる。 もし完全に効かないのだとしても、そんな物を試すのは正気じゃ出来ないわ。


 次は雨に打たれた時に覚えた寒冷耐性、これは春先にちょっと冷たい雨を浴びたぐらいだと、殆ど冷たさを感じなくなっていた。 もう少し試したかったけど、氷とかは簡単に作れないのよね。


 実は私も作ろうと思えば作れる。 氷を作る為には水の魔法と炎の魔法が重要だわ。 水に炎の熱を操る力を加え、水を冷凍してやれば出来るんだけど、私がそれを使う為には、水を起点にして炎を掛け合わせ、前詠唱によりそれを作り出さなきゃならないからだ。 もうそうなると、この部屋の中が凍り付けになるだろう。


 私はそれを解消する術も知っている。 氷の魔法を使える人にもう一度魔法を教えてもらえば、氷のみに特化した設定だけを覚えられるし、キーワード1つで発動出来る利点もある。 もし相手が氷魔法を使えないとしても、水と火の属性を扱えるのなら、私からその子に教えて、それからもう一度私に戻すというやり方も出来るわ。 でも私が氷魔法を必要としているかというと、ちょっと試したいぐらいで、今はあんまり必要としてないのよね。


 そして残り二つは、魔力量アップに消費量マイナス、これもまだ試していない。 町中であんな魔法を使う訳にもいかないし、一人で外に出るのはちょっと怖いわ。 明日魔法学校に行って、グラウンドを貸してもらおう。 私はお土産の食事を摘まみ、明日にそなえて安心して休んだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ジリリリリリリリリリリ、っと目覚まし時計の音が鳴り響く。


「ん・・・・・はぁ・・・・・まだ眠いわ。 でも目覚ましが無いと何時までも寝ちゃうのよねぇ。」


 外を見ると、今日の天気は雲もなく、空は綺麗な青に染まっている。 まだちょっと眠いけど、今まで貯めていた水で顔を洗って、私は目を覚ました。 髪を解かし、少々のお化粧、後は服を着替えると、私は予定通りに魔法学校へと足を進ませて行った。


 魔法学校前、向うの学校の様に、生徒達が学校の門をくぐり学校へと入って行ってる。 子供達に制服はないみたいだわ。 門の前には男の人が立って居た。 手には杖を持ち、それっぽい服を着ている。 たぶん先生だと思うけど、何方かというと運動が得意そうな体格だった。 私は門に立って居たその男に話しかけた。


「あの~、お早う御座います。 この学校の先生ですよね? 私はセイカと言います、少し用事が有って、アルタイル先生にお取次ぎ願えないでしょうか?」


「・・・・・」


 私の声に反応しない? もしかしてただの置物だったり? ・・・・・いや、どう見ても人間だわね。


「あの? もしもし?」


「・・・・・はあああああ!! す、すみません、あまりの美しさに見とれてしまいました!! わ、私と付き合ってくれるという相談でしょうか?!」


 美しいと言われて悪い気はしないけど、変に好意を持たれたく無いわね。 こんな世界だとセクハラとかストーカーとかないんだろうし。


「い、いえ違います。 アルタイル先生に用事があるので取り次いでもらえないでしょうか?」


「お任せください!! このハンブラーめが即座に呼んで参りましょう!! このハンブラーが直ぐにいいいいいいいいい!!」


 ハンブラーさん? が学校の中に走って行く。 門に他の警備してる人は居ないんだけど、いいのかしらね? う~ん、頼んだ手前、放っておくのはちょっと心苦しいわ。 少しだけ子供達の様子でもみてまようかね。


 子供達は大体が10歳ぐらいぐらいだろう。 殆どの学生が、かなり良い服を着ている。 門の外で遊んでいる子供もいるから、全員がこの学校に通えるわけじゃないらしい。 何処の世界でも教育にはお金が掛かるのね。 子供達の列が途切れ、もう誰も来なくなった頃。 さっきの先生が戻って来た。


「お待たせいたしました、さあご案内しますのでどうぞ此方にいらしてください!! あ、お荷物をお持ちしましょうか!!」


「あ、大丈夫です。 自分で持てますので・・・・・」


 積極的にアピールしてくるハンブラーさん、このまま期待させるのは悪いわね。


「あのハンブラーさん、私もう十六になる子供がいますので、変な期待はしないでくださいね。」


「・・・・・何だ、ババアかよ。 あ、こっち、さっさと来てくださいね。 ハァ、期待して損したぜ。」


 明らかに態度が悪くなるハンブラー、この世界ならたかが喧嘩で暴力事件になる事は無いわ!! 私は背中を向けた瞬間、躊躇ためらいなく後から蹴りをくらわせてやった。


「キイイイイイイイイイイイイイイック!!」


「ぐっああああ・・・ な、何しやがるこのババアが、折角下手に出て連れて行ってやろうと思ってたのに、恩を仇で返しやがって!! それに純情な俺の心をもてあそびやがって!! もう絶対許さんからな!!」


「何時私があんたの心を弄んだのよ!! 勝手に盛り上がって勝手に幻滅しただけじゃないの!! それをいきなりババアだなんて、温厚な私も怒ったわよ!!」


「ああん!! そんな事ぐらいで蹴り飛ばしたのかよ、お前こそ俺に謝りやがれ!! こんのババアが、俺と勝負しやがれ!!」


「勝負ぅ? 良いわよ、受けて立とうじゃないの!! 泣いて謝ったら許してあげるわよ!!」






 唐突に始まったハンブラーとの戦い。 言い争ってた私達を、校舎の窓から小さな学生が見つめていた。



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