一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

9 知らないと言うのは可哀想な事よね。

 洞窟の中を探索する私達、迷わない様に一番大きな道を進む。 ゴツゴツした波の様な足場、これはまるで登山でもしている様な感覚だった。 いえ、もしかしたら実際に登ってるのかもしれないわ、あまりにも道が上下していて、登っているのか下っているのか分からないから。


「なあ、本当にこの道で合ってるのか? 道に迷ったら帰れなくなるぞ?」


「だから一番大きな道を進んでるんでしょ、アツシったら頭が悪いわね、全く、誰に似たんだか。 それに如何にもならなくなったら、メイ君の転移魔法があるじゃないの。 帰れなくなる事は無いわよ。」


「俺の家族は母ちゃんだけなんだから、母ちゃん以外には育てられた覚えはない!!」


「あら、そうだったかしら?」


 アツシの父親が亡くなって、私一人で育ててるからねぇ。 あの人が亡くなってもう十二年か・・・・・もう何処かで生まれ変わってたりするのかしら?


「あはは・・・・・まあ実際、この道を通る限りは迷う事は無いと思います。 でもこんなに分かり易い道の先に何か隠してるんでしょうか? 別の道も探した方がいいんじゃ?」


「いいのよ、どうせ何処に何があるか分からないんだし、こういうのは一番奥が怪しいに決まってるわ。」


「あのな母ちゃん、これゲームじゃないんだから、そう簡単に見つかる訳が・・・・・って有ったし!!」


「ああ、ありましたねぇ・・・・・」


「ほら、言った通りでしょ? 人間なんて隠したいものは奥に隠すものよ。」


 道の奥には広い空間が広がっており、その中心に巨大な象が見える。 まだ此処からはよく見えない、私達はそれに向かって歩み出した。


「これってまさか・・・・・巨大人型兵器ですか!! 何でこんな物が此処にあるんです?! この世界って剣と魔法の世界じゃなかったんですか?!」


「いや、俺に言われても知らねぇよ。 俺もこんな物見た事無いし、もしかしたらすんごい昔の物なんじゃないのか?」


「こんなんじゃ持ち出しも出来ないから、此処に普通に置いておいただけなのかしら? でもそれより・・・・・このロボットの姿って・・・・・」


 広場の中心でしゃがみ込んでる様に置いてあるロボット、それは真っ白い色をして、鎧を着た兵士の様な格好をしている。 それだけなら良かったのだけど、頭には黄色い輪と、背中には白い翼が生えている。


 このロボットは、絶対にあの天使達に関わり合いがあるはずだわ。 この世界に送ってくれたのはその天使達なのだけど、私はもうその天使達と関わり合いになりたくない。 間違えたで別の世界に飛ばされたり、次は大丈夫だと思っていたら、誰も知らない場所に飛ばされたり、もしべノムさんが居なかったら、私はこの国に向かって、まだ旅をしていたかもしれない。


「よしこれは見なかった事にして、俺達は王国に帰ろうじゃないか。 これに下手に触れてしまったら、絶対碌な事がない!! 間違いなく絶対だ!!」


「ええ、王国に居る二人じゃないにしても、他の天使が真面だとは思えません。 僕も戻った方が良いと思います。 聖華さんもそれでいいでしょうか? 王国に戻ったら僕達が護りますから、身の安全は保障しますよ。」


「私もそれで良いわよ、また別の世界に飛ばされたら困るもの。」


「全員一致だな、じゃあ帰ろうぜ、依頼者が何時来るとも限らないからな。 じゃあ帰りのゲートを頼むぜメイ。」


「はい、では帰りましょう。 ゲートフライ!!」


 メイ君の魔法は、黒色の靄を出現させる。 私達はそれに入ろうとしたのだけど、それに入る前に、黒色の靄は掻き消えてしまった。 メイ君でも失敗する事があるのね?


「何だ、魔法が消えた? 皆さん、もしかしたら此処は転移禁止フィールドなのかもしれません。 稀にあるんですよ、でもこっちの世界でもあったとは・・・・・これは歩いて戻るしかないですね。」  


「じゃあ急ぎましょう、ヒルデさんが気付いているかもしれないわ。」


 私達は道を戻ろうと振り返る、そこには私達を蔑む様な瞳で見つめる女が居る。 誰かと言われたら一人しか居ないわ。


「あのあの、聖華さんったら何でこんな所に居るんでしょうか? 何で私に報告してくれないのでしょうか? そんなに私を信用出来なかったのでしょうか? でも良いです、目的の物を見つけてくれたんですから。 あら? 仲間も連れて来ちゃったんですね? もう依頼は終わったんですから帰ってくれませんか?」


「ヒルデさん忠告よ、あれには触らない方が良いわ? きっと酷い目に遭うから。」


「それは脅しでしょうか? まさか聖華さんもあれを狙ってるなんて思っても居ませんでした。 三人を相手にするのは避けたいですが、もう仕方がないですね!!」


「待ちなさい、別に私達はあれを奪おうとなんてして無いわ。 危害を加えないと言うなら、私達は退くわ。」


「それを信じる訳が無いでしょう!! ・・・・・ファイヤー・ウェイブ!!」


「うを!!」 「あッ!!」 「きゃっ!!」


 私達の横に放たれた炎のうねりは、ヒルデとの間を開ける。 ヒルデさんは炎の横を通り、あのロボットに向かって行った。


「そこで私が乗り込むのを見ている事ね!! 私の勝だわ!!」


 私達と戦う気が無いのならそれでいい。 ヒルデの事は無視して、私達は洞窟を引き返す事にした。


「今の内に逃げるわよ。 あんなのに関わってられないわ!!」


「だな、あれが動き出す前に脱出だ!!」


 ヒルデがロボットに乗り込む前に、私達は急いで洞窟を引き返して行く。 しかし最後の階段を上がろうとした時洞窟全体に大きな揺れが襲った。


「こんな時に地震か!!」


「違います、あのロボットが機動したんでしょう!! 急ぎましょう、巻き込まれますよ!!」


 その揺れは天井に生えている鍾乳石を落としていった。 階段の下は、もう真面に歩けない状態になってる。 もう少し遅れて居たら危なかった、天然の罠で串刺しになる所だったわ。


 私達が洞窟を脱出した時、空の上にあのロボットが空中に浮かんでいた。 その天使のロボットから、ヒルデの声が響き渡った。


「あんた達、逃げられると思っているの!! 逃がさないわよ!! さあ鋼鉄の天使よ、その力を示しなさい!!」


「ッ!!」


「ふ、伏せろ母ちゃん!!」


「洞窟へ避難を!!」


 だが何時まで待ってもその攻撃は来る事は無かった。 天使は厄介だわ、それが例えロボットだとしても。


「あれあれ? 何で動かないの? さっきはちゃんと動いたのに? ちょっと、動きなさいよ!!」


 バンっと何かを叩く音がする。 それが不味かったのかそのロボットが暴走を始めた。 何か武器を使うでもなく、地面に降りたり浮かんだり、最後は丘に頭をぶつけて動かなくなった。 ヒルデは生きているだろうか? なんかちょっと可哀想になって来たわ。


「関わらない方が良いと言ったのに・・・・・あの子も犠牲者ね。」






 ずいぶんと傷だらけになっているけど、命辛々脱出して来たヒルデ。 私は千切れて落ちていたロープを使って、出て来たヒルデを縛り上げた。



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