一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 この道の先は如何なるのかしら?

 ザアザアと雨が降りしきる中、私は岩を動かそうと努力していた。 季節としては春ぐらいの気温、まだ雨は随分と冷たい。


「あ~、ちょっと寒くなって来たわ。 でもどうしようかしらこの岩、本当に動かないんだけど。 このままだと本当に風邪を引きそうだわ。」


 魔法と言っても万能じゃないのよね、それもこれも、私が全ての属性と相性が良い為に、無駄に力を引き出しているからなんだけど、その分消費する魔力が大きくなっちゃうのよね。


「よし、これは新しいスキルを取るしかないわね!!」


 私が取るべきスキルは、どう考えてもこれしかないというスキルだった。 それは、消費魔力量 マイナス15%、これを私は取る事にした。 私の使う魔法、どれも消費量が百だとすると、私の魔力量は550辺りだろう。 このスキルを取った私は、消費510で、魔法を六回を撃てる事になる訳ね。 これで私は六回を撃っても倒れる事は無くなったわ。


 そしてもう一つ、魔力量20%アップ。 これにより七回の魔法を使える様になったわ。 でも八回目を使う時、その時は相当覚悟しなくちゃならないわね。 足りない魔力は体力により補われるから、最悪死ぬかもしれないわ。


 後一つ、どうしても取らなきゃならないスキルがある。 寒くて寒くて仕方がない私は、寒冷耐性アップを取った。 それを取った瞬間、私には雨の冷たさを感じなくなった。 これで頑張って働けるわね。


 あっ、考えて無かったけど、第二魔法ってこのスキル適用されるのかしら? もし適用されなかったら、取り損になるんじゃ・・・・・


 う~ん、使ってみないと分からないのが辛い所ね。 私は座り込んで悩んでいると、目の前の空間がぼんやりと暗くなる。 その中から飛び出して来たのは・・・・・


「アツシさん、ちゃんと生きてますよ!! どうやら無事だったみたいです!!」


「全く母ちゃんは何やってんだよ!! 連絡もなくいきなり居なくなったりするなよ、すっごく心配するだろうが!! ていうかそんなに雨に濡れて何してんだよ、もしかしてボケたのか? こんな所でボケられても俺困るぞ。」


 出て来たのは私の息子アツシと、その友達のメイ君だった。 伝言もしてなかったから、心配して探しに来たのね。 二人共レインコートも着ている、メイ君は私にレインコートを貸してくれたけど、今更着てもあんまり意味が無いわね。 もう少し早く来てくれれば、私も濡れなかったのに。


「失礼な息子だわね、私はそんな簡単にボケたりしないわよ!! あのね、実はね、私を頼って依頼をしてきた人が居るんだけど、この岩を動かして欲しいって言うのよ。 でもねぇ、頑張ってみてるんだけど、中々動かなくってね。 母ちゃん困っちゃったわ。」


「いや、無理だろ、あんなもん人の力で動かせる訳無い。 こっちの世界に重機なんて無いんだからさ、もう諦めて帰ろうぜ。 その人にも無理ですって言えば良いじゃん。 あ~、メイは如何だ? 何かやれる方法あるか?」


「僕も無理ですね、見るだけでも十トン以上はありそうですし、あれを動かすとなると、物凄く人数が居ると思いますよ? あ、でも斬り崩すのは出来るかもしれません。」


「斬り崩すの? どうやって?」


「はい、このぐらいの岩だったら僕の剣でも両断する事が出来ます、この岩が必要ないというのであれば、バラバラにして退けてしまえば良いだけです。 如何でしょうか聖華さん。」


「じゃあそれでやりましょう、アツシも手伝ってくれるわよね?」


「はぁ、何で休みの日に仕事するはめになるんだ。 あ~もう仕方ないなぁ。 分かったよ、やれば良いんだろやれば。 その代わり美味い物作ってくれよな!!」 


 私達は作業を開始した。 まずメイ君が大岩の上に乗り、崖側の方から、剣で少しずつ斬り分けて行く。 アツシは斬り分けられた小さな岩を投げ捨て、私も持てる岩を運んで行った。 魔法の世界に来て、魔法も使わず作業をするなんて、これじゃあただの土木作業と同じだわね。 しかもこれ、ちょっと腰に来るわね。 明日筋肉痛で動けなくなりそうだわ。


 そのまま一時間が過ぎ、上部にあった岩が1メートル程無くなった頃、その岩の下に、暗い穴が見えて来た。


「何でしょうかこれ? 階段? もう少し広げてみれば降りれそうですね。」


「まさかこんな所にダンジョンでもあるのかよ。 岩の下に階段とか、お宝がありそうな予感しかしないな。 如何する、行ってみるか?」 


 ヒルデさんは岩が落ちそうで怖いと言っていたけど、この道の事を知ってたとしたら、私にこの穴を開けさせる為に呼んだのかもしれないわね? この秘密を知られない為に私一人を呼んだとしたら? こういうのってテレビで見た事があるわね。 道があった事を知らせたら、口封じで殺されるパターン?


「依頼人のヒルデさんには岩をどかしてくれとだけ言われたけど、口封じする為に私だけを呼んだとすると、今から会いに行くのはちょっと怖いわね。 これは中を調べておくのもありよね?」


「分かりました、ではもう少し穴が広がったら僕が先行します。 こういうダンジョンには罠が付き物ですからね。」


「んじゃ俺は後を見とくよ、母ちゃんは真ん中に居てくれ。」


「じゃあお願いするわね。」


 中々頼もしい息子だこと、向うの世界では勉強もそこそこだったし活躍しなかったけど、こっちの世界とは相性が良いのかしら? 


 私達三人は、穴を塞ぐ岩を切り分け、私達はその穴にある階段を降りて行く事になった。 暗い道はメイ君の魔法で照らされて、私は言われた通りに、二人の真ん中に陣取り進んで行く。


 階段は、この丘よりも長く続き、中には広いダンジョンが待っていた。 幾つもの分岐する道。 いえ、これは道とも呼べないわ、人の手が入っていない本物の洞窟。 人が通る想定をしてない、道とも呼べない穴の数。 天井には鍾乳石が幾つも出来ている。 鍾乳石は、天井から落ちる水滴の中の、炭酸カルシウムが固まって出来ると言われている。 簡単に言うと氷の氷柱つららみたいな物ね。


「罠はなさそうですけど、もしかしたら何か住み着いている居るかもしれません。 油断はしないでくださいね。」


「メイ、敵のサーチとか出来ないのか?」


「サーチ機能は失われていますね、出来るのは仲間の位置を知るぐらいと、世界地図を見れる事でしょうか。 どうもこの世界に来てから、向うの世界の力が失われてる気がしますね。 覚えたスキルは忘れてないから良いですけど。」


「敵の位置を知れればと思ったけど、そうもいかないのか。」






 力が失われてるの? という事は覚えたいスキルはもう取っちゃった方が良いのかもしれないわね。 何時無くなるかも分からないから。



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