一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

37 最初に成功するのは世界でたった一人しかいない。

「あ~、流石にこの海を渡るのはちょっと危ねぇかなぁ? やっぱり船で・・・・・そうだ、金が無ぇんだった・・・・・いっそ密航でもしてみるか? 鳥にでも化ければなんとかなるんじゃねぇか? 食料はあるし、部屋を使う訳じゃないから、ま、大丈夫だろ。 ・・・・・後で金持って来て、チケットだけ買ってやろう・・・・・」


 べノムがそんな事で悩んでいるとも知らない俺達は、換金所を見つけて宝石を金に換えた。 当面はこれで生活できそうだけど、べノムがどのぐらいで到着するかだなぁ。 そのまま外食店で食事を取っている。


「あら、これ結構美味しいわね。 このお肉何の肉かしら?」


「あ、本当ですね、何でしょうかこの味? 鳥でしょうか?」


「あ、そちらは黒飛びトカゲの肉ですね。 実はこの町の名物なんですよ。 宜しければもう一つどうでしょうか? 特別に半額にしてあげますよ。」


 悩んでいた母ちゃんと恋の前に店員が現れて、何の肉だか説明してくれた。 母ちゃんと恋は、トカゲの肉だと知ると一度手を止めたが、その美味さに負けてもう一度手を動かし始めた。 此処で躓くようでは異世界で生活なんて出来ないけど、第一関門突破って感じだろうか。


 俺はその肉をパンで挟んだ、いわゆるハンバーガーを食べ、テーブルでのんびりしている。 むしろのんびりしすぎて店員さんに追い出されそうになった頃、俺達の元に変な老人が現れた。


 何が変かと言うと、その恰好がド派手だ。 赤と青がグチャグチャに入り混じった様な、そこにも家についてる様な、変な目玉の模様? が付いている。 その髪も紫色に染められている。 たまに日本にも居た派手なおばちゃんの様な恰好だった。


「お前さん達、ここら辺じゃ見かけん顔だが、もしかして外から来たのかい?」


 声から判断すると爺さんか? 何か俺達に用でもあるのか?


「何か用なのか爺さん、俺達は別に便利屋じゃないぜ?」


「ワシはこの町で学者をやっとるギリストじゃ。 お前達、こんな所まで来るんじゃから、そこそこ強いんじゃろ? 少しばかりワシの話を聞いてくれんかの、もし頼みを聞いてくれるなら、それなりのお礼を弾んでも良いぞ?」 


「アツシさん、困ってる人の頼みは聞くべきですよ。 お金を稼がなきゃならないんですから、良いじゃないですか。」


 確かに、俺が金を返すと言ったんだから、それなりに稼がなきゃならんのだが・・・・・


「そうよアツシ、困ってる人を助けるのは魔法少女の務めなのよ。 それで私も魔法少女としてレベルアップするのよ!! そうよね恋ちゃん!!」


「え、あ、はい。」


 俺としては、そんな物をパワーアップしてもらっちゃあ困るし。


「私はどっちでも良いわよー、でもどうせ暇なんだし、暇潰しには良いんじゃないかしらー?」


「私も何方でもいいが、体を動かさなければ鈍るからな、他にやる事が無いのなら体でも鍛えるか? またブリガンテから帰って来た時の様にはなりたくないだろう?」


 ブリガンテから帰還したあの日から、俺は何時もよりも凶悪な訓練をされたのだ。 四か月にも及ぶ地獄の訓練、あれをもう一度やれと言われたら俺は逃げ出すぞ。 あんな事になるよりは、此処で爺さんの話を聞いた方が百倍良いだろう。


「分かったぜ爺ちゃん、じゃあその話を聞かせてもらおうか。 その代わり出来ないものなら断るからな。 俺達だって万能じゃないんだからな。」


「それで構わんぞ、早速だが、ワシの頼みと言うのはな、町外周の魔物の調査をしたいのじゃ。 ワシを連れて、一緒に魔物と戦ってくれんか?」


「まっかせといてー、私が全部殲滅してやるわー!!」


「違うのじゃよ、確かに減ってくれるのは嬉しいのじゃが・・・・・ワシが求めているのは魔物の生態調査なんじゃ。 この頃大量に増え始めた魔物なんじゃが、ワシはそれを動物と同じ物として認識しておるんじゃ。 つまりじゃな、魔物の世界にも食う食われるの循環とか、嫌いな物とかあるんじゃないかとか思っておるんじゃよ。 だからじゃな、ワシはその理を解き明かして、魔物からの被害を減らしたいんじゃ!! どうじゃ、この大いなる計画に乗ってみたいと思わんか!! もしこれが成功したなら、世界を救った英雄となれるんだぞ!!」


「任せてください、この勇者である僕が、その任務達成してみましょう!! さあ行きましょうアツシさん、英雄への道はすぐそこですよ!!」


 その英雄という言葉に、反応した男が一人。 俺じゃないんだから一人しかいない。 それは英雄に憧れる男、黒井くろい めい(勇者クロイツ)、だった。 そもそも向うの世界を救ってもいないから、勇者なのかも怪しいけど。 殆ど全員が行きたそうなのに、俺が反対しても全く無駄になりそうだ。


「じゃあギリストの爺さん、報酬はどのぐらい貰えるんだよ? ちゃんと報酬あるんだよな?」


「うむ当然じゃ、物凄い物を用意しておくから、期待しておくがいい。 ただし、ワシが五体満足で帰って来るのが条件じゃぞ。」


「はぁ・・・・・じゃあ行くとするか。 それで良いよな皆。」


「英雄の道に乗るのは当然の事です、アツシさん、僕の本当の実力を見せてあげますよ。」


「さあ恋ちゃん、ちょっとプリームちゃんが抜けちゃったけど、新たに誕生した私達のユニットで世界を取るわよ!!」


「あ、はい聖華さん。」


「武具の状態も良い、何時でも行けるぞ。」


「じゃあ皆でいっぱい倒しましょうねー、私ちょっと楽しみだわー。」


 皆の意見がまとまった所で、俺達はギリスト爺さんの家に向かった。 何でも色々道具を持って行きたいらしい。 持って行く物はと言うと、色付きの旗二十種類。 よく分からない袋、何かの臭いが入っているらしい。 後は、よくわからない草とか、変な昆虫とかが詰まってる瓶とか、色々持たされて俺達は町の外へと向かって行った。 


 町から二キロぐらい離れた広場、俺達はそこで準備をする事になった。


「ふむぅ、この辺りで良いじゃろう、じゃあ適当に魔物を呼んで来てくれ。 ワシは此処で準備をしておくから。」


「爺さん、呼んで来いって言ったって、そう簡単に・・・・・居たし!!」






 俺が後を振り向くと、俺達を標的にした魔物の三匹が、此方の方向に向かって来ていた。 俺が敵に気づくと、三匹は三方向に散らばって襲い掛かって来る。



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