一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 王道を行く者達78

 王国の門を越えて、キーが目的の地へと走り出す。 キーの速さはドンドンと目的の地へと距離を縮めて行く。


「さてと、私ととって最後の戦い、その前にちょっとだけやる事があるわ。 ちょっとあそこの木陰に止めてくれないかしら」


「? まだ何かありましたっけ? まあ良いでしょう、ではキーちゃん、あそこに行きますよ」


 マッドが馬車を木陰に止め、周りを見渡すが、辺りには敵の気配は無い。 王国の兵士達が退治しているのだろう。


「さてと・・・・・じゃあマッドさん、あの女がどんな魔法が得意だとか、色々教えてもらいましょうか」 


「いやいやリーゼさん、母君が蘇るのだから良いじゃないですか! もうあの方に手を出すのは止めて貰えませんか?」


「あのね、本当にお母さんが生き返ったとしても、私が、私達がどれだけ苦労させられて来たのか知ってるわよね! 生き返りました、じゃあ終わり、何てことにはならないのよ! お母さんが生き返ったとしても、徹底的に叩きのめしてやるわよ!」


「えええええ、なるべく穏便にお願いしますよー。 殺し合いなんてせずに平和に行きましょうよ、怪我するだけじゃないですか」


「それじゃあそろそろやるかねぇ、抵抗するんじゃないよ? 私達を裏切った事を後悔してもらおうじゃないのさ」


「ちょっ、何ですかそのロープ! ら、ラフィール、止めてください、私達仲間じゃありませんか!! 許してくれたんじゃなかったんですか?! 私が居ないと、キーちゃんも動かせませんし、母君が生き返る事も・・・・・フゴゴゴゴ・・・・・フゴ」


 マッドの体は縛り上げられ、口には手拭てぬぐいが噛まされている。


「あんな敵のど真ん中で仲間割れなんてする訳ないだろ。 それに俺達仲間を裏切ったのは誰だっけ? 俺は気にしてないけどさ、もう全部吐いちゃってスッキリしろって」


「そうね、痛い目に合いたくなければチャッチャと言いなさい、チャッチャと!」


「フゴゴッゴフゴゴゴゴゴゴフゴゴゴゴゴゴ!」
(これ取って貰わないと喋れないんですけど!)


「リーゼちゃん、どうやらマッドの奴は喋りたくないみたいだよ? これは仕方がないよねぇ}


「それは仕方が無いわ、じゃあちょっとお仕置きしましょうか」


 リーゼは何かを探している、荷台にある荷物から刃物を取り出す。


「フゴゴゴゴゴ・・・・・フゴフゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! フゴ―、フゴゴゴゴゴゴ!」
(何をしようと・・・・・な、なんですかそのカミソリは! や、やめてえええええ!)


 リーゼは鋭く研がれたカミソリを持ち、マッドの額にペシペシと叩いている。


「さあ如何してやろうかしら、お仕置きだから坊主にでもしてやろうかしら? 私達を裏切った罪は重いのよ。 むしろこのぐらいで許して貰えるんだから感謝しなさいよ!」


「フゴオオオオオオ、フゴゴゴオオオオオオオオオ! フゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオ!」(いやああああああ、坊主はいやああああああああ! 眉毛も剃らないでえええええええええ!)


 ジョりッ。


 マッドの額、その上の髪十五センチ程が反り取られた。


「ふふッ、こ、れで許してあげるわ。 もう私達を裏切らないでよね」


「ぬあああああ、酷いですよリーゼさん、せっかくのダンディーフェイスが台無しじゃないですか! もし女の子に持てなくなったら、リーゼさんが責任取ってくださいね? 私はリーゼさんと結婚しても良いと思っていますんで!」


「そう、まあ全部終わったら考えても良いわよ?」


「ま・・・・・待ったあああああああああああ! リーゼちゃん、俺と付き合って・・・結婚してくれ!! 絶対幸せにして見せるから!」


「やっと言ったのか、長かったな」


「リーゼちゃん、モテモテじゃないか、でも私は如何しようかねぇ、姉さんが生き返るとなると、ライバルが増えちゃうからねぇ。 ねぇハガンさん?」


「い、いや、まあそうなんだが・・・・・」


「私があぶれたら、どっちか余った方と結婚しようかね。 そしたら全員家族だろ?」


「え? いや、それは流石に・・・・・なあマッド」


「私は構いませんよ? 来るものはドンと来いですよ!」


「お前って、中々凄いんだな・・・・・」


「終わってからの話はもう良いでしょ。 そろそろ本題に入りましょう、あの女の対策よ!」


「本当に戦う気なら言っておきますけど、あの方はメギド様より厄介ですよ? あの方の魔法は風の魔法です。 その攻撃に色すらありませんし、大規模な竜巻を起こす事も出来ます。 それにもしかしたら対面した時にはバラバラにされてるかもしれません。 私達では勝ち目が無いと思いますよ」


「私達がどうやって戦って来たのか忘れたの? 色が無いのなら付ければ良いわ。 そう簡単にバラバラになんてされないし、竜巻なんて出される前に勝負を決めてやるわ! あとマッドさん、向うが不利だからって、向うにつかないでくださいね!」


「やりませんよ、もう絶対裏切りませんから!」


「それで具体的には何をするつもりだ? 色を付けると言っても方法は様々だぞ」


「そうね、簡単なのはパウダー状にした小麦粉かしら。 空中に長く留まるし丁度良いのよね。 長いと言っても、そこまで長い訳じゃないから、幾つか予備を持って行かなきゃならないわ」


「雨なんて物も使えるかもしれないわよ? 水の魔法が使えるなら、マッドさんが出来るかしら?」


「はい出来ますよ! 任せてください!」 


「それで風の魔法って事はラフィールと同じよね? 今まで見た事が無いけど、ラフィールも風の魔法でカマイタチみたいな事って出来るのかしら?」


「いや、俺には出来ないんだ、一回やってみようと思ったけど、目の前で衝撃波が来て、防壁が1枚割れただけだったよ」


 カマイタチ、真空を作り出し体を切り裂く。 実際にはそんな事は出来ないと聞く。 仮に真空が作れるとしても、大気中の空気に触れて直ぐに消えてしまうだろう。 それを固めて飛ばすなんてことは出来ない。 


「あ、リーゼさん思い出した事があります! 近所のおじさんが自慢話で話していましたけど、あのお方は、魔法に色を付ける事が出来るそうですよ」


「色を付ける・・・・・ね。 どうやら風って事にとらわれ過ぎてたわね。 ”風だけじゃ”攻撃力が無いって事かしらね」


「風に攻撃力が無いだって? それはどういう事なんだい?」


「つまりね、真空が体を切り裂くなんて迷信って事よ。 小さな砂粒だったり木片だったり、その風の中には何かが有るのよ。 見えない何かがね。 まあ大体想像は付くわ、たぶん刃物の様に鋭い魔力の塊かしらね。 見える様にしてやれば、直進してくるだけの斬撃よ、そう怖いものじゃないわ」






 そしてリーゼ達は考えを巡らせていく、小さな断片から、情報を読み解いて。



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