一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 ゲームはお好きかしら?

 話しは遡り、ストリーが王国に居た頃。 待ち合わせの場所で、何時まで経っても来ないアツシを心配し、ストリーは探し回っていた。 アツシの知り合いや友人を訪ねるも見当たらず、慌てながらべノムの元へとやって来ていた。


「べノム!! アツシが居なくなった、何処に行ったのか探してくれないか!!」


「あ? 何処かでサボってるんじゃねぇのか? ほっとけばその内出て来るだろ。 何時もそうだっただろ?」


「それは無い、私との約束を破るはずがないんだ!! 私はそんな風に教育していないからな!! 頼む、何処へ行ったのか探してくれ!!」


「教育ねぇ、どんな教育か知りたくもないが。 まあ俺に聞かれても知らねぇぞ。 俺が居場所を知ってる訳でもないし、他にもやる事があるんだが。 ・・・・・ああ、そうだ、だったら駄目天使べーゼユールに相談してみろよ、あいつなら何か分かるんじゃねぇの? 何しろ彼奴がアツシを呼んだんだからな。」


「呼んだ? どういう意味だ?」


「知ってるだろ、アツシは別の世界から来たんだぜ。 彼奴は天使の力で召喚されたんだよ。」


「そんな噂は聞いていた、でもそれが本当の事だとは思っていなかった。 ただのくだらない噂、それだけだと思っていたんだ。 もしもアツシが帰って行ったなら、私は如何すれば良いんだ!!」


「まだそうと決まった訳じゃねぇだろ、まずは話しを聞いて来いよ、あいつ等自分達の部屋で引き籠ってるからよ。」


「・・・・・そうしてみる、そいつ等の部屋は何処にある?」


 ストリーはべノムに部屋を教えてもらうと、その部屋へと急いだ。 天使の部屋の前、その扉の前に居ても、外まで騒々しさが伝わって来る。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 次にそれを切られたらまた俺が負けてしまう!! ぎにゃあああああ!!」


「これで私の一万五百二十三勝ね、さあ続けましょうか。」


「俺はそろそろ止めたいんだが・・・・・」


「駄目よ、私が勝ち続けている間は止めないわ、貴方が止めたいのならこのゲームで勝ってみなさい。」


「いやいや、もう寝ずに何か月もやってるじゃないか、もうそろそろ休憩をいれよう、そうだ、飯でも食いに行こうじゃないか。 人間界にも美味い飯屋があっただろ、さあ行こう!!」


「駄目。」


「いや、少しぐらい・・・・・」


「駄目、あと一年ぐらい続けましょう。 そのぐらいやったら飽きるかもしれないわ。」


「ふご・・・・・」


 部屋の中では何かやってるらしい、男の方が手加減しているのか全く勝てていないようだ。 女の方に華を持たせているのだろうか?


 扉のノブをガチャガチャと回してみるが、扉には鍵が掛かっていて開かない。 ストリーは中に聞こえる様に扉をノックしてみた。


 ドンドンドンドン!!


「おい、アツシの事で話がある、ちょっと出て来てくれないか? ・・・・・おい!! 聞いているだろう!!」


 扉の奥から声が聞こえる。


「フィア、誰か来たみたいだ、ちょっと休もうじゃないか。 な? 良いだろ?」


「嫌。」


「いや、でも悪いだろ・・・・・」


「ゲームが終わるまで待ってもらいましょう、ほんのあと一年で終わるんだもの、少しぐらい待ってくれるわ。」


 イラっとしたストリーは、扉の鍵を無理やり斬り壊し、扉を蹴り飛ばして開けると、中には男女二人の天使がカードゲームをやっていた。 男の方は青ざめ、かなり衰弱している様に見える。 あのカードゲームは王国で流行っている遊びの一つだ。


「お前達に頼みたい事がある、アツシの居場所を教えて欲しいのだ。」


「そうか!! 緊急事態だな!! 仕方ない此処は相談に乗ってあげようじゃないか、さあ行こうグーザフィア、彼女を手伝ってあげよう!!」


「べールさん、まだ勝負は終わっていないでしょ? でも、そうですね、貴女がこのゲームで私に勝つ事が出来たなら、貴女の頼みを聞いてあげましょう。」


「よし乗った。 だが何日もやる時間は無い、一度だけだ、それで決着をつけてやる。」


「いいでしょう、ではルールを説明しましょう。」


 ストリーはその説明を受けた、このゲームをストリーはやった事がないが、説明だけで大体の事は分かった。


 まず大きく分けて三種類、力と技と魔法のカードがある。 そして主軸となる陣営を決める。


力の一種類を選ぶと、それしか使えないが、6ポイント有るの力の全部が使える。 力と魔法を選ぶと、半数の3の力が使える。 そして三種全てを選ぶと2の力が使える。


 力のカードは、相手の攻撃力を下げたり、自分の攻撃力を上げたり出来る物が主だ


 技のカードは、防御系や、ダメージ無効、そして必殺技なんて物もある。


 魔法のカードは、敵の攻撃を反射したり、継続的にダメージを与えたり、回復させたりするものもある。


そしてこのゲームの特徴として、一つのデッキを二人が扱う。 手札は五枚スタートで、1ターン事に一枚を引き、互いに同時に出し合う。 互いに一つの魔物(攻撃力千)を操り、魔物同士 1ターンに一度バトルする。 攻撃が通れば1ダメージ 相打ちなら両方に1ダメージ。 自分のライフが無くなった方の負けだ。 


「そうですね、本当は自分の陣営も同時に明かすのだけど、少しだけハンデをあげましょう。 私の使う陣営は技と魔法よ。」


「なら私は三種全て使う事にしようか。」


「このデッキを使うけど。 心配しなくても大丈夫よ、ちゃんと力のカードも入っているわ。 心配なら見てみる?」


「いや、必要ない。 じゃあカードを引かせて貰うぞ。」


 互いに五枚を引く、ストリーの手札には力のカードが多い。 今持っている手持ちのカードは。


 力のカード、攻撃力の低下。  力のカード、攻撃力増加。


 力のカード、ダメージを与えた時に+2を付けるカード。


 技のカード、相手が技カードを使った時に防ぐカード。


 魔法のカード、次のターン効果を倍化する。


 この魔法が明らかに切り札となるものだった。 1ターン目のドローカードは魔法のカード、ターン事に固定値2を与えるカードだ。 このカードは最初の方に使っておきたい所だった。 三属性を選ぶと全てのカードが使えるのが強みだが、その効果は薄くなる。 だが効果の薄まらないカードも混じっているらしい。


「さあ1ターン目よ!!」


「「勝負!!」」


 ストリーとグーザフィア二人が置いたカードは・・・・・


フィアは魔法の反射のカードを置いたわ!!」 「ストリーは力の増加だ。」


 軽くジャブのつもりで置いたカード、ストリーの増加により魔物のダメージ力がアップ、魔物との交戦に勝利したが、そのダメージは反射によりストリーのダメージとなる。 永続効果が無ければ、基本1ターンにその効果は消滅する。


 ストリーのライフ27   グーザフィア30


「2ターン目行くわよ!!」


 二ターン目に引いたドローカードは、魔法のカード反射。 相手の攻撃を反射出来るが、同時に置くゲームの為にタイミングを計るのは難しい。


「「勝負!!」」


「私は魔法カード、逆転のカードよ!! 相手の効果を逆転して1ダメージを与えるわ。」


「私は攻撃力の低下だ。」


ストリーは相手の攻撃力を下げるが、相手の効果により逆転されダメージを受けた。 


 ストリーのライフ25   グーザフィア30


「少し本気を出し過ぎたかしら? さあ3ターン目行くわよ!!」


引いたのは技のカード、ダメージの軽減 ダメージ値2を減らす事が出来るカードだった。


「「勝負!!」」


「私は力のカードを出したわ、私は力は使えないから効果は無しよ。」


「こちらは魔法カードだ、毎ターン2のダメージを受けてもらう。」


 魔物同士、攻撃力に変化が無いので、互いに1ダメージを受けた。 グーザフィアにはこれから固定ダメージが追加される。 継続ダメージは魔物の攻撃の後に計算される事になる。


 ストリーのライフ24   グーザフィア27


「少し面白くなって来たかしら? 4ターン目行くわよ!!」


 引いたカードは魔法カード回復、負けている時に使うと固定値の2に+2される。 これは後半に取っておきたい。


「「勝負!!」」


「私は技のカード、必殺のカードを出すわ!!」 「私は魔法カード反射を使う。」


「必殺のカードには反射は使えないわよ、このまま無条件で3のダメージを受けてもらうわ!!」


「しかし魔物との勝負は私の勝だ、魔物の攻撃は反射され、そちらに当たる。」


 グーザフィアは継続ダメージとプラスされ3のダメージを受けた。


 ストリーのライフ21   グーザフィア24


「5ターン目・・・・・」


5ターン目、引いたカードは。 技のカード、ダメージの無効化。 いいカードだった。


「「勝負!!」」


「私は力のカード、次のターンを楽しみにしていなさい。」


「私も力のカードだ、ダメージを与えた時に追加で2ダメージを与える。」


 魔物の力は拮抗し互いに1のダメージ、そしてグーザフィアには継続ダメージと今回の効果の2ダメージが減らされる。


 ストリーのライフ20   グーザフィア19


「ふふふ、拮抗して来たわね。」


「私はこんな事をしているより、アツシの居場所を教えて欲しいんだが?」


「勝てたら教えてあげますよ!! さあ次のターン!!」


 引いたカードは、力のカード、相手の攻撃力を下げるカード。


「「勝負!!」」


「私は魔法カード、次のターンに効果を倍にするカードよ!!」


「技のカードだ、このターンのダメージを軽減する。」


 魔物が相打ちとなり両方にダメージ1 ストリーは2の軽減によりダメージ0 グーザフィアには継続と魔物のダメージにより、3のダメージが与えられた。


 ストリーのライフ20   グーザフィア16


「さあ次のターンよ、このターン私の攻撃を防げるのかしら? さあ・・・・・」


 引けたカードは・・・・・魔物の攻撃力を永続的に上げる力のカードだ。 相手には力のカードは無い。 魔物が勝ち続ければ有利になるかもしれない。


「「勝負!!」」


「私は魔法カード、貴女に3の継続ダメージを与えるわ。 そして更に、先ほどの魔法の効果により6の継続ダメージとして貴女へとのしかかるわ!!」


「私は技のカードを出した、このターン、ダメージは負わない!!」


「このターンのダメージは負わなくても、継続ダメージは続くわよ。 次のターンが楽しみね!!」


 このターンも、グーザフィアに3のダメージが与えられる。


 ストリーのライフ20   グーザフィア13


「8ターン目、そろそろ決着も近いのかしら?」


 引けたのは、力のカード増加 永続効果がある物を引いてあるので、これはもう必要ない物だった。


「「勝負!!」」


「私は魔法カードの回復を使うわ。 3のダメージ回復よ。」


「私は力のカードだ、魔物の攻撃力を200上げる。」


 魔物との戦いはストリーの勝利となるが、重い継続ダメージ6が圧し掛かる。


 ストリーのライフ14   グーザフィア10


「6のダメージはキツイかしら? でも大丈夫、次の勝負で勝てば良いのだから、今回は諦めても良いのよ?」


「・・・・・次のターンだ。」


 魔法カード回復を引けたが、2を回復するだけでは今はどうにもならない。


「「勝負!!」」


「私は二度目の回復を使わせてもらうわ、これでライフ13よ。」


「私は力のカードだ、永続的に攻撃力を200上げる。」


 魔物はストリーの勝利、グーザフィアには、継続とダメージにより3が与えられた。


 ストリーのライフ8   グーザフィア7


「さあ次で逆転かしら、無理そうならサレンダーしなさい。」


「次だ!!」


 力のカードが来た、相手の攻撃力を永続的に下げる効果。 これはもう必要ない。


「「勝負!!」」


「私は力のカードを出したわ、さあどんな反撃を見せてくれるのかしら?」


「魔法カードだ。 次のターン効果を倍化させる。」


 ストリーのライフ2   グーザフィア4


「次がラストターンになるのかしら? さあ覚悟を決めなさい!!」


 魔法カードを引いた。 だがこれは使えない、相手が魔法カードを使った時に効果を打ち消す物だ。 


「「勝負!!」」


「勝った!! 私はダメージの無効化よ!!」


「まだ終わっていないぞ、私のカードは、魔法カード回復!! ライフが負けている時には倍の回復量となる!! 4の回復に、先ほどの倍化を合わせて、私のライフは10だ!!」


「でも継続ダメージは受けてもらうわ!! 貴女のライフは4よ!!」


 ストリーのライフ4   グーザフィア1


「どうした? このままでは相打ちだぞ。」


「知ってるわよ!!」


 若干焦りが見えるグーザフィア、力のカードが使えないから、魔物の攻撃力は上がらない。 ダメージを何とかしない限りは何方も次のターンで終わってしまう。


 此処で引けたのが技のカード、固定値3を防ぐ効果。 ストリーが待っていたカードだった。 


「「勝負!!」」


「ふふふ、私は引いたわよ、ダメージの無効化を!! これで私の勝よ!!」


「まだ終わらない!! 私が引いたのはダメージの軽減だ!!」


「軽減じゃあ2しか減らせないわ、これであなたの負けね!!」


「ちゃんとカードを見る事だな、このカードは固定値を軽減するカード!! 3のダメージを軽減する、自分で入れたのに忘れていたのか!!」


 共に残りライフは1


 そして、我慢が出来なくなった男が、この場に一人居た。 グーザフィアの後ろに立ち、不順な動きを始めた。 腕に力を入れ、グーザフィアのカードを教えようとしている。 力のカードを出せ、もしくは力のカードしかない、そう言いたいのだろう。 だがそれを見て、ストリーはこのゲームをおりた。


「今回は止めだ、もう一度勝負するがいい。 あまり時間を掛けたくない、さっさと二戦目を始めるぞ!!」


「・・・・・いいえ、どうやら私の側に不正が有った様ですね。 後でベールさんには責任を取ってもらわなければなりませんね。 機会があればまた勝負をお願いしたいものです。 ・・・・・さてベールさん、このお方のお願いを聞いてあげてください。」


「・・・・・お、俺は何もしていない・・・・・い、いや、アツシの居場所か・・・・・ふむ、確かに近くに感じられない。 呼び出したのは偶然とはいえ、俺との繋がりはあるが。 ふむ、もしかしたら元の世界に帰ったのかもしれんな。」


「それは困る、何とかならないのか!!」


「さっきも言ったが、アツシとの繋がりはある。 しかし、移動している者を呼び出すのは難しい、あんたを向うの世界に送ってもいいんだが、此処に戻れる保証はあまりないぞ?」


「構わん、私はアツシの世界に行く、それがどんな世界だろうと、あいつと一緒なら乗り越えられるはずだ!!」


「そうか、だったら送ってやろう。 この鈴を持って行け、アツシを見つけたらその鈴をならしつづけろ、それが合図でこの世界へともどしてやろう。 ただし、鳴らしている間に動くなよ? 失敗して体が千切れても知らんからな。 期限は1か月、31日が限界だそれまでに見つけろよ。」


「ああ、頼むぞ。」






 天使三人の魔法により、ストリーは異世界日本へと送られた。 辺りを見回すと、のほほんと歩く人物を見つける。 若干怒りが沸いたが、その人物に声を掛けようとすると、此方を先に見つけられ、叫び声を上げられた。 



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品