一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

25 ひょっこりと現れたその人?

 硬い敵を吊り上げた俺達、北か南へと何方かへ助太刀に行かないといけないが、その前に砦へと戻っていた。 そして砦に待機していた兵士の一人に場所を聞き、俺達は砦の倉庫へと到着した。


「イバス、ロープはどのぐらい要ると思う?」


「さあ? 敵の規模が分からないから、兎に角持てるだけ持って行こうよ。 足りなかったら半分に切っちゃえば倍になるしね。」


 この倉庫には様々な武器や弓等が置いてある、そしてロープはというと、俺の持っているロープはせいぜい1センチ程の物だったが、此処の物はそれよりも三倍ほど太い。 俺と同じ物も数本あったが、殆どはその位の物だ。 エリメス達を上げた様に、仲間を吊り上げる為の物だろう。 これを手で運ぶとなると何往復もしないといけないし、相当時間が掛かるだろう。 何か運べる様な物でもあれば良いんだが、この倉庫にはそんな物は無かった。


「荷車でも置いてあったら良かったんだけどな、どうやら此処にはには無い様だな。」


「いや、探せばあると思うよ、大量の矢や武器を運ぶのに必須だからね。 でも何処に置いてあるのかは、知ってる人に聞かないと分からないだろうけど。」


 んん? 武器を運ぶか、もしかしたら分かるかもしれないぞ。 これの前の戦闘で矢を大量に使っていたからな、それを運ぶ為に使っていたなら、荷車は屋上にあるのかもしれないぞ。 


「イバス、屋上に行くぞ、もしかしたらそこに有るかもしれない。」


「分かった、行こう!!」


 俺達が屋上に上がると、そこには残っていた兵士達が戦況を見守っている。 全員行かないのはこの砦を空にする訳にはいかないからだろう。 この砦は重要な拠点だ、他の国が攻めて来た時の為にも、魔物の進行を防ぐためにも。 俺は兵士達の邪魔にならない様に周りを見渡し、目的の物を探した。


 荷車は・・・・・有った、あれだ!! 俺は近くにいた兵士に話かけた。


「なあこの荷車借りていって良いか? 戦いに必要なんだ。 頼むよ。」


「・・・・・あんたは・・・・・アツシさんか。 戦いが終わったのはあんた達の所だけだ、必要なら持って行ってくれ。 俺達は此処で見ているしか出来ないからな、頼む、何とか仲間を助けてやってくれ!!」


「ああ、任せとけよ、俺達が何とかしてやるさ!! なあイバス!!」


「そうだね、僕達に任せてよ、僕達二人がこの戦況を変えてみせる!!」


 ロープを使い、荷車を1階へと降ろしてもらうと、俺達は倉庫のロープを積み込んだ。


「アツシ、どっちに行く?」


「そんなの、南に決まってるだろ、あいつ俺達の事馬鹿にしてたし、クロッケルには俺達が来るまで踏ん張ってもらうさ。 まあ他の兵士には気の毒だけどな。」


「じゃあアツシは南に行って来なよ、僕は持てるだけ持って北へ行くから。 あっちも少しでも減らせれば楽になるだろ。」


 彼奴クロッケルには少しお灸をすえてやりたかったが、後でクロッケルには土下座でもしてもらおうか。


「お前は北に行くのか? そうか、分かれるんだったら、もう一つ荷車を借りてこれば良かったな。 んじゃ、北の方は任せたぜ。」 


「うん、南は任せたよ!!」


 俺とイバスは二手に別れた。 俺は南へ、イバスは北へと向かって行く。 俺が南の戦場に着いた時には、兵士達の士気は衰え、かなり怪我人が出ていた。 此処の砦にいる唯一の回復魔法の使い手、ドロシーさんが傷を癒して、今何とか凌いでいる状態だ。


 敵の数は九匹、その中で姿が変わっているのが五匹、約半分だ。 俺はロープを持って駆けだした。


「うおりゃああああああああああああああああ!!」


 狙うのは変化した方。 戦いの隙を付き、敵の首にロープを引っかけ引きずって行く。 四つ足形態になった黒い獣には、このロープを斬る事は出来ない。 このまま木の枝から吊り下げ、その一匹を捕獲した。


「倒せないのなら吊るしちゃおうぜ!! 俺が持って来たロープはあそこだ!!」


「勝てる、勝てるぞ貴様等!! まず盾役は敵を抑えろ!! 攻撃役はロープを確保し、それを使って捕獲しろ!!」


 此処に居た指揮官の一人だろうか、その指令を受け、兵士達は一斉に行動を開始する。 俺が指さした荷車に兵士の半数が走る。 倒せなくとも何とかなると知った兵士達は、その士気が上がっている。 直ぐに四つ足の奴が吊るし上げられ、残っているのはたった四匹。 ロープも十分にあるし、俺はその分のロープと、少しの予備を置く。


「じゃあ俺は北へ行くから、負けたなんて知らせを聞かせないでくれよな!!」


「感謝しますアツシ殿、北への道中お気をつけて!!」


 俺は南の戦場から北へと向かった。 北の戦場は、南よりも敵の数が多かった。 それはイバスが持って来たロープだけではとても足りない数で、クロッケルの敵を倒せる力が災いしたのだろう。


「来たぜイバス、ロープ持って来てやったぜ!!」


「助かったよアツシ、もう一度取りに戻ろうかと思ってた所だったんだ!! こっちの体力もキツイんだ、早速捕獲して行こう!!」


「よっしゃー、任せとけ!!」


「おいアツシ、こっちの体力が持たん、やるなら急いでくれ!!」


 クロッケルを含め、他の兵士達は攻撃を防ぐので手一杯になっている。 そんな中、俺の活躍は凄まじかった。 戦いで動けなくなった皆に代わり、一匹、二匹と吊り上げて行く。 もうこれは・・・・・


「フィッシーング!!」


 っと叫びたくなるほどだ。 まあ釣りじゃなくて吊りだけどな。 イバスに後で聞いたら、俺はその時実際叫んでいたらしい。 俺が十一匹目を吊り上げた時、防戦一方だった仲間の兵士達が、その力を振り絞り俺の吊りを手伝ってくれた。


 そして二十三匹目、最後の敵が吊り上がると、全員がその場に倒れこんだ。 俺はクロッケルの前まで行くと、その活躍を自慢した。


「どうだクロッケル、やっぱ俺の言った通りやっとけばよかっただろ!! 謝ったら許してやるぜ?」


「ああ、悪かったよ・・・・・お前はすげー奴だ、この戦況を変えちまうんだからな。」


「ふふん、感謝しろ。 んじゃ、他の敵が来ない内に砦に戻ろうぜ。 此処で何かが来たら本当に全滅しそうだからな。」


 本当はイバスが吊り上げる事を思いついたんだけど、俺達は相棒だからまあ良いだろう。 俺はクロッケルの手を掴み引っ張り上げると、そのまま肩を貸して砦に戻って行く。 そこで、思いもしなかった物と遭遇する。


「きぃさぁまぁらああああああああああああああああ!!」


 砦の門の前に到着した時、突然正面から何かが現れた。 それは何故かボロボロの姿で、いきなり襲い掛かって来た。 今真面に動けるのは俺一人だ。 俺は剣を抜きその魔物へと戦いを挑んだ。 何だか見た事がある気がするが、たぶん気のせいだろう。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は裂ぱくの気合と共に走り出す。 そのまま剣を鞘から引き抜き、剣撃が相手を斬り伏せる。 ・・・・・そんな予想をした人は外れです。


 俺の攻撃が届く前に、三つの影がその魔物を叩き伏せた。 そう、それは、不機嫌に起きて来た三人の女達だった。 最初にアスメライが、魔物に一撃目をくらわせる。 相手は俺の事ばかりみていて気付いてなかった。 


「ドンドコドンドコ五月蠅うるさいのよ!! あんた時間を考えなさいよね!!」


 たぶん寝間着なのだろう、意外と可愛らしい服を着て、鈍器(杖)で相手の後頭部をぶん殴る。


「貴方のおかげで、寝不足になったらどうするつもりなのですか!! そんな事になれば、イバス様に嫌われてしまうじゃありませんか!!」


 レーレは胸元が見える程のゆったりとした服を着ている。 その手には武器は持っていないが、前に倒れこんだその魔物に、レーレの鋭い蹴り上げがその顎を砕いた。


「・・・・・・・・ああああああああ、もう死になさいよ!!」


 三人目、中々エロい下着だけをつけたエリメスが、叩き上げられた魔物の後頭部を剣の柄でぶん殴った。 完全に気を失ったその魔物は、地面に転がり、三人にひたすら殴られて・・・・・うん、たぶん死んでると思う。






 ちょっと可哀想だったが、三人の気が収まった時に、俺はその魔物に、最後の止めを刺した。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品