一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 結局大体何時もと同じ

 上空から落下したダラクライは、少しだけくぼんだ道の上に落ち、巻き上げられた砂や葉っぱ等に埋もれている。 かなりのダメージを受けてしまったが、キメラ化のおかげで命を取り留めていた。 ハッと目を覚まし、自分がどうなったかを考えた。


「何カニぶつかった? ナニかオオキナ鳥の様な・・・・・それとも魔物か? クソッ、ついてない。 まさかこんな事にナルとはな。 仕方ナイ、砦に戻って治療をウケルか。」


 ダラクライが起き上がろうとしてみるが、頭の角が何かに引っかかって起き上がる事が出来なかった。


「ぬ、動ケヌ、頭の角が何かに引っかカッテ。 ぐぬヌぬぬ!! ヌン!!」


 ダラクライが体を起こした時、その目の前には馬車の車輪があった。 顔面に真面にくらい、その衝撃で意識を失った。


「ガハアアア!!」


「ん? 何か踏んだか? いや、そんな事は如何でも良い、まさかタダ働きをさせられるとは・・・・・ああ、俺の金が・・・・・」


 その馬車が砦に向かって行く。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 俺達はもう一度ジュリアンに会い、もう一度向かってくれと言われてしまった。 この結果は分かっていたけど、あんまりやる気が出ない。 タダ働きってのがやる気を半減させている。 それでも戦いとなると、真剣に戦わないと、自分の命が危うい事になるんだが。


 馬車の中には五人が乗っている。 クロッケルが馬を動かし、馬車の中は一切の会話は無い。  兎に角、べノムに怒られない様に、皆必死で言い訳を考えていた。


 一度通った道だが、舗装もしていない道だからガタガタと乗り心地は悪い。 たまにガクンと車輪が落ちる様な所もあるし、ガコッと何か踏む時もある様だ。 俺達は尻が痛くなりそうな思いをして砦まで戻ったが、もう辺りは完全に日が落ち、夜を迎えている。 門を護っているデンドロさんが俺達を見つけ、挨拶をしてきた。


「おう英雄達じゃないか、もう臭いは取れたようだな。 今度はどうした? まだ何かあったのか?」


「その英雄ってのは止めてくれないか、またあの臭いを思い出しそうになる。 実はあの書状を持って行っても駄目だったんだよ、ジュリアンにちゃんと倒して来いって言われて、戻って来たんだ。 何か前に夜に出るって言ってただろ? その魔物はもう来てるのか?」


「いや、今日はまだ見かけていないな。 うむ、また無駄足にならない様に、特徴を教えておいてやろう。 お前もその方が良いだろう?」


「まあそうだな、デンドロさん、宜しく頼むよ。」


「うむ、私自身遠くから見た事しかないが、特徴は黒だな。 全身夜に紛れる様な色をしている。 姿は人型で、両腕は鎌になっていたな。 出会った者の話では、体は獣の様な甲冑? 獣が甲冑を着ている? よく分からんがそんな話を聞いたぞ。」


 なる程、黒か。 つまりべノムみたいな奴だな。 


「助かったよデンドロさん、んじゃそいつを皆で探せば良いんだな。 おい聞いたか? お~い、話を聞けよ!!」


 全員のやる気が感じられない、この感じでは戦いに影響が出そうだ。 そうなったら俺の命に関わりそうだ。 何とかやる気をだしてもらわないと。


「おいクロッケル、金を取り上げられて、ぶん殴ってやりたいって思ってるだろ? 相手は黒くてべノムみたいな奴なんだぞ? どうせやらなきゃいけないなら、そいつで憂さ晴らしでもしたら良いんじゃね? イバスはあれだよ・・・・・頑張れ!! お前が元気なら女達も元気だすだろ、たぶん。」


「ううう、分かったよ・・・・・こんなテンションじゃ戦いに影響が出るからね。 戦いたくはないけど、なるべく元気でやるよ。」


「はぁ・・・・・隊長とガチでやりあっても、勝つ見込みは殆どないからな。 良いぜ、それで我慢してやるさ。」


 二人は納得してくれた、あとは女性三人だが。


「お前等三人はイバスが良ければ良いんだろ?」


「ええ、イバス様がそれを望まれるのなら・・・・・」


「まあどうせやらなければいけないし・・・・・」


「私も良いわよ、返品して来いなんて言われなかったからね。 これさえ終わればこれは私の物よ。」


 よし、後は敵を倒す作戦だけだが、それは俺がやる仕事じゃない。


「皆納得した所で、作戦はよろしくなイバス!!」


「結局僕が考えるんだね、まあ良いけどさ。 敵を発見しさえすれば簡単だと思うよ? 明るくしてしまえば夜だろうと何とでもなるよ。 兵士一人一人に松明を持たせ、あとはアスメライさんの魔法で砦を光らせてしまえば何とかなるんじゃないかな?」


「ああ、虎の時洞窟を光らせたやつだな。 あれ使えば、黒は逆に目立ちそうかもな。 アスメライ、出来るだろ?」


「任せておきなさい、そのぐらい簡単だわ!! でも魔法が切れたら掛け直さないといけないし、イバスは私の護衛についてくれないかしら、良いでしょ?」


「僕もそれで良いよその方が安全そうだし。」


 その言葉にピクリと反応する女二人。 二人っきりにさせまいと抵抗を開始した。


「フフフ、アスメライさん、二人では心許ないでしょう、私がご一緒しましょう!!」


「いいえ!! アスメライちゃんは私が護るわ!! イバスさんと三人で十分よ、レーレちゃんはアツシさん達と戦って来て!!」


「御冗談を、彼方へ行くのはアスメライさんでしょう!! 何方も譲らないとなれば、決着をつけるしかありませんわね!!」


 武器を抜き、構え合う二人。 向うに四人置くと、前線が二人になる。 六人来て前衛が二人なんて馬鹿な真似はしたくない。 それに敵と戦おうというのに、今仲間割れなんてして戦力を減らしたくもない。 むしろ何で今仲間割れをするのか、やっぱりあの三人は一緒に置いて、イバスを呼び戻そう。


「イバス、お前はこっちに来いよ、変な争いになって戦力を減らしたくないし。」


「分かったよ、命令なら仕方ないね!! アスメライ、僕はあっちに行くから、女性三人で仲良くしててね!! よろしくね!!」


「アツシ様、月の無い夜にはお気を付ける事ですわ。」


「ええ、前の様な乱戦時には流れ弾が何処へ飛んで行くのかわかりませんね。」


「明日のご飯当番は私の番なの、美味しい物を用意してあげるわ。」






 俺の事を恨めしく見て来る三人、本当にやるとは思わないが・・・・・アスメライはやるかもしれないが、そんな覚悟をしたくない!! 俺は直ぐに敵が来る事を祈り、目を見開いて辺りを監視した。



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