一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 その痛みを越えて行け

 国境の砦付近、俺達は少し離れた場所で馬車を降り、周りを見回していた。


「それでさクロッケル、敵ってどんな奴なんだよ? お前ジュリアンから何か聞いてるんだろ?」


「はぁ? 俺が知ってる訳が無いだろ、お前だって一緒に居たじゃねぇか。」


「・・・・・じゃあさ、此処から何処へ行ったら敵が居るんだ?」


「だから何で俺が知ってるって思ってるんだよ、俺はあの時ちょっとばかり興奮してたからな、もしジュリアンさんが何か言ってたとしても覚えてないぜ。 だが安心しろよ、何も出なかったら何か適当に狩って、持って行けば何とかなるだろうぜ。」


 いや何ともならねぇよ、お前金の事しか考えてねぇだろ。 如何するんだマジで、こんな所まで来て無駄足かよ!!


 そんな事を言い合ってる俺達を見て、女性陣が集まって来ている。 ものすんごい不機嫌な顔をして。


「言い合ってる所に悪いのですが・・・・・それで、私達は何をすれば良いのでしょうか? 何も無いのなら今直ぐ帰りたいのですけれど?」


「あのさぁアツシ、何と戦うのかも分からないんじゃ、一度帰った方がいいんじゃないの? ねぇ、早く帰りましょうって。」


「私はイバスさんの看病をしたいのです、今直ぐに帰りましょう。」


 女達のそんな声がぶつけられるが、クロッケルがその意見に反対した。


「あのなお前等、こんな所にまで来て手ぶらで帰れるか!! 敵さえ倒せば大金が手に入るんだぞ!! 金塊が貰えるんだぜ、金塊!! 何でも良い、取り合えず倒しちまえば金は俺の物だ!! お前等だって金は欲しいだろ? 手伝ってくれたら駄賃をやっても良いんだぜ?」


「・・・・・あのさぁアツシ、私達はお金の事なんて一言も聞いていないんだけれど? 王国の危機だって言うから仕方なく来たのよ?  どういう事なのか説明してくれないかしら?」


「俺に言われても知らないぞ。 金は俺にもくれないと思うし、欲しいのならクロッケルに直接交渉しろよ。」


 女達に蔑んだ目で見つめられるクロッケル、相手との戦力の差は絶望的だ。


「クロッケル様、まさか独り占めする積もりなのでしょうか?」


「これはちょっとばかりお仕置きが必要なのかしら。 そうよねアスメライちゃん?」


「そうよね、裏切者の末路は決まってるものね。 ふふふ・・・・・」


 チャキッと武器を構える女三人、こんな時だけは仲良く見える。


「お、おい待ってくれ、これはちょっとばかり必要だっただけで、何もタダで働けとは・・・・・ぎゃあああああああああああ!!」


 クロッケルは、女に手を出す事もなくボコボコにされていく。 女性にはそれなりに優しい様だが、そんな事は関係なく女達の攻撃は続く。 持っていた金塊は全て奪われ、最終的には服までひん剥かれ、尻を丸出しにして地面に倒れて居る。


「スッキリしたし、それじゃあ帰りましょうか。 イバスも私を待ってるかもしれないし・・・・・この男は此処に放置して行けば良いんじゃないかしら。」


「アスメライちゃん、イバスさんが待ってるのは私だと思うの。 早く帰って看病をしてあげないと・・・・・」


「一体何をおっしゃってるのか分かりませんが? 看病をして差し上げるのは私だと思うのですが? お二人は魔物討伐でもしていらしたら良いのではないですか?」


「もう、二人共喧嘩しないでよ、看病なら私がやっとくから、二人は戦って来てよ。」


「オホホホホ・・・・・」「ウフフフフ・・・・・」「アハハハハ・・・・・」


 どんよりとした空気が流れる、いきなり三人がガシッ手を組み合わせ、力比べが始まった。 このまま行けばまたバトルが始まりそうだ。 三人の言う通り、敵の居場所も分からないのなら、このまま帰った方が良いのかもしれない。


 いや、よく考えるんだ俺、このまま帰れば確かに一度は回避出来るが、依頼を受けてるからには、どうせまた此処に来る事になる。 ・・・・・そうなるとメンバーは?


 クロッケルが来るのは確実、イバスはもう起きてるだろう、イバスが女達と残るのはあり得ないし、女達が積極的にイバスから離れて討伐に来る訳がない。 あの女達三人を抑える為にはストリーが残らなきゃならないし・・・・・ということは男三人が此方に来る事になるじゃないか。


 ・・・・・おい、それは随分と戦力ダウンだ!! 敵の強さも分からないし、戦力は多いに越した事は無いぞ。 このまま帰るのは勿体無い、女達を説得しなければ!!


「待てよお前達、確かに帰ればイバスが待ってるだろう。 でもな、この依頼はイバスが(も)受けたんだぜ? お前達はイバスの代わりに来ている事を忘れているだろ。 もし途中で投げ出したら、イバスの顔に泥を塗る事になるぞ。 そうなったらイバスはどう思うだろうな? もしかしたら嫌われるかもしれないぜ?」


「・・・・・ふう、私ちょっと敵を探さなきゃならないから、お姉ちゃん達は帰って良いわよ。 帰って看病でもしていたら良いんじゃないかしら?」


「あら? アスメライちゃんこそ帰って良いのよ? ほんの一時良い思いをすれば良いんじゃないかしら?」


「お二人共、私一人で十分ですので、お帰りになられたら如何でしょうか?」


「オホホホホ・・・・・」「ウフフフフ・・・・・」「アハハハハ・・・・・」


「「「手柄は私の物だああああああああああああ!!」」」


 三人が別々の方向へと走り出した。 三人共一人でるつもりなんだろう。 残ったのは俺と、裸で倒れて居るクロッケルだけ。


 ・・・・・此処に置いておくのも何だし、とりあえずクロッケルは国境の砦にでも運んどこう。 うつ伏せで倒れているクロッケルの片足を持ち、ギャリギャリと運んで行く。 


「痛ッ!! 痛たたたたたたたたたたたたたたたた!! 痛いぞおい、止めろ、下腹部まで強化してねぇんだぞおい!! た、玉が、おおおお前ちょっと止めろおい!! 自分で歩く、歩くから!! あぎゃあああああああ!!」


 痛みの為に痺れて、力が入らない様だ。 可哀想に・・・・・俺も男だ、その痛みは分かるよ。 ということでもう少し引いて行こう。 ズリズリズリっと。


「うぐおおおおおおお、お前、使い物にならなくなったら如何するんだああああああ!!」






 大丈夫だよクロッケルちゃん、その時は良い男を紹介してやろう。 きっとアーモンなら性別の壁を越えて愛してくれるだろう、女装が可愛ければ、だが。



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