一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

9 怪し過ぎて困る

 リューク達が痺れながら帰って行ってる、まああのままでも死ぬ事は無いと思う。 たぶんイバスを痺れさせて、何やかんやするつもりだったのだろう。 恐ろしい女達だ。


「んでイバス、これから如何するよ? ジュリアンを調べるって、具体的には如何するんだ?」


「う~ん、この国のギルドに頼む訳にも行かないし、また潜入でもしてみる? それともあの二人を此方に引き込むとか?」


「潜入は怖いから却下だ、あの二人を引き込んでみようじゃないか。」


「簡単に引き込めるなら良いんだけどね。 飯にも困ってるようじゃ金が無いんじゃないのかなぁ? じゃあこの金塊でも渡してみようか? アツシが良ければだけどね。」


 イバスが報酬で貰った金塊を使えと言っている。 この世界ではゲームもアニメも無いし、精々飯を食うか、服を買うぐらいしか使い道がない。


「まあ良いんじゃないか? 金貰ってもあんまり使い道無いし。 この金使っても良いよなストリー?」


「お前が稼いだ金だ、好きに使えばいいんじゃないか?」


「お許しが出たから使っても良いぞ。 それで向うが乗ってくれたらいいんだけどな。」


「それじゃあ今度来る時に誘ってみるか。」


 その今度の日が来た。 あんな事されておいて、次の日もまた来るとは思わなかったぞ。 もしかしたらよっぽど金に困ってるのか? 


 今この場には俺とストリーしか居ない、他の皆は買い出しと見回りに出ている。 買い出しに行くのはこの二人が遠慮なくバカスカ食ってるからなんだが。


「お前等さぁ、昨日痺れ薬盛られて良く来れるな。 そんなに金が無いのか?」


「金が無い訳じゃないが、クロッケルの飯が忘れられなくてなぁ。 どうせただ飯なんだし食っておける時に食っておこうと思ってな。 まあ俺達の事は気にするな。」


「そうですねー、私達の事は気にしないでください。 ちょっとした見張りと、食事を食べに来ているだけですので。」


「あのな、俺達はお前達に食わせる為に、食事を作ってる訳じゃないんだぞ。 食いたいなら金払えよ。 それと、それは俺の飯だ、それを食うな!!」


「まあ聞け、俺達は学習したんだ。 あのイバスって奴の飯は食ってはいけないって事をな。 つまり、お前の飯を食ってれば安全だって事だ!! 如何だ俺の分析は、実際これは美味いし、痺れもしないぞ!!」


「あのな、その分析は間違っているぞ。 残念ながらお前達はこれから酷い目に合う、何故ならその飯は俺の為にストリーが作った飯なんだ。 つまりお前達の命は此処で終わるかもしれないって事だ。」


 ガタッ・・・・・ゴンッ!! まな板の上に包丁が突き刺さっている。 ストリーが怒り任せに突き立てたのだろう。 ストリーの愛が怖い。


「アツシ、私はそんな程度のことでは怒ったりしないぞ? 私の事を何だと思っているんだ。」


 言葉とは裏腹に殺気が溢れているぞ? まな板に包丁ぶっ刺しておいて怒って無いわけないだろう。 二人に向けて笑顔を向けているが、危険な香りがプンプンしてる。


「お、俺達が悪かった・・・・・もう勝手に食ったりしないから許してくれ。」


「あ、う・・・・・ごめんなさい・・・・・」


「お前等さぁ、そんなに飯が食いたいなら良い話があるんだけど、どうだ? 乗ってみないか? なんなら報酬も付けてやっても良いぞ。 ジュリアンに貰った金塊、あれをやっても良いんだぞ。」


「え、アレくれるんですか!! 勿論やります。 お食事付きなんてやらない訳がないじゃないですか!! ねっ、先輩!!」


「待てメ―リ、変な事をさせられて、ブリガンテに居られなくなるかもしれないぞ。 受けるにしても話を聞いてからだ。」


 それはそうか、何の話もしてないのに受ける訳がないよな。


「「で? 何をすればいいんですか。」」


 俺は二人にジュリアンの事を聞き、ある程度情報を流してくれるように頼んだ。 二人はそんな事ならと頷き、俺達の頼みを聞き入れた。 要はこの二人も金に目が眩んだんだろう。 イバスがジュリアンにも報告するかもしれないと言っていたな、一応注意しとかないとな。


 二人のもたらした情報は、ジュリアンは男、親は大臣ダラクライ、その奥さんが居て、あの屋敷に住んでるそうだ・・・・・この二人何の役にもたたないぞ!!


「おい、もうちょっと良い情報は無いのかよ? そんな情報全部知ってるわ!!」


「えっ? 他ですか? う~んとぉ、ジュリアン様は結婚とかもしてませんよ。 将来的に、私をお嫁さんにしてくれると、玉の輿に乗れるんですけど。 うん、その内落として見せますよ!!」


「いや、あんたの予定なんか如何でも良いんだが・・・・・」


「じゃあ逆に聞くけどよ、アツシはどんな情報が欲しいんだよ。 仮に俺達がそれを知ってても、それを俺達が重要だと思うか分からないんだぞ? そっちが言わない限り答えようがないだろ。」


 そんなもんなのか? といっても何を聞けばいいのだろうか? イバスが居てくれれば良かったんだが、戻って来た時にはきっと精神的に死んでるだろう。 俺が考えるとなると・・・・・何だろ?


「か、花壇のバラが綺麗だったな・・・・・」


 違う、そんな事を聞いても意味が無い!! もっと何か無いのか俺!!


「あ~、あの花壇は綺麗でしたよね。 あのかだんは奥様とレイファさんが手入れしてるんですよ。 そういえば昨日は居なかったですね。 何処か行ってたのかしら?」


 そんな人物いたっけ? まずはそれを聞いてみよう。


「レイファさんって誰? 俺聞いてないんだけど。」 


「レイファさんはメイドさんですよ。 あそこの屋敷のメイド長さんですよ。 ? あれ、昨日はメイドさんを誰も見かけませんでしたね、何かあったんでしょうか?」


 思い出した、あの屋敷にはジュリアン以外の奴を誰も見かけなかったんだった。 もしかしたら一斉に休ませた? いやいや、誰か一人ぐらいは残しておくんじゃないのか? 何かすんごい怪しいが、それが何に繋がってるのかがサッパリ分からんぞ。


 う~ん、他、他ぁ? 他ねぇ? 他かぁ・・・・・分かんね。


「ストリーどうすりゃいいと思う? 何を聞けばいいのかさっぱり分からんのだけど。」


「行った事がない私に聞かれても知らないぞ。 だが何時もと違うとか、前に来た時には無かった物とかそんな物を聞けばいいんじゃないのか?」


「よし、じゃあそれで。」


「といってもなぁ、俺達も別にジュリアン様専属って訳じゃないし。 二、三度お邪魔した事があるってだけなんだが。 変わった所と言われても、そうジロジロ見回していた訳じゃないからな。 メ―リは如何だ? 何か気づいたか?」


「う~ん、お庭の形が変わってたぐらいでしょうか? 後はいつもお出迎えされていた奥様を見かけなかった事とかですか?」


 テレビやドラマだったらもう殺されていて・・・・・無いよな? 無い無い、うん、無いな。 流石に母親を殺したりはしないだろう。 大臣のダラクライだっている事だし・・・・・無いよね?


「一応聞いとくけど、まさかダラクライ大臣を最近見かけない何てことはないよな?」


「大臣ですか? そういえば最近お見掛けしませんね。 マリーヌ様もお探しになられていましたが、どうしたのでしょうか?」


 いやな予感が確信に迫って来ているのか。


「は? 大臣が居なくなったら大事だろうが、何で大々的に探さないんだよ!!」


「ん? 確かジュリアン様が大病を患ったと言ってたぞ。 確かそこからトンと見かけなくなったな。 引退届まで出されていると噂があったが・・・・・」


 大病? 引退? ヤバイ、マジで殺されてそうだぞこれ。 やっぱり彼奴とは関わらない方が良さそうだ。


「お前等この事を報告するのは止めとけよ? 下手したらお前達まで死ぬかもしれないぞ? 俺は言ったからな?」


「分かってますよー、情報をリークしたなんて知れたら、スパイだとか思われますからね。 そんな事になったら、私達の首が飛んじゃいますからねぇ。」


「お前も俺達から聞いたと言うんじゃないぞ? もし俺達が誰かに襲われたらお前達に復讐してやるからな? じゃあ今日は帰る、この金は貰って行くぞ。 文句はないだろうな?」


 リュークとメ―リが金塊に懐にしまう。


「ああ、持ってけよ。 道中気を付けてな。」


「ああ、また来る。」


「ばいばーい。」






 これ以上調べるのも関わるのも止めておきたい。 もうジュリアンの事は放っておこう。



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