一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 王道を行く者達69

 国境を抜けると、巨石の墓場と言われる場所が現れる。 そこは大きな岩がゴロゴロと落ちていて、馬車が通れる程の幅はあるが、キーのスピードで岩にでも当たれば馬車が大破してしてしまう。 しかしマッドとキーのコンビはスピードを緩めず進んで行く。 全力で進んでいたキーのスピードが少し緩まった気がした。


「むッ、キーちゃん疲れましたか。 ではちょっと休憩しましょう、休憩を取らないとキーちゃんが潰れてしまいます。 良いですよね皆さん?」


「ええ、キーちゃんには潰れてもらったら困るものね。 周りに注意しながら休ませましょうか。 ついでに食事も済ませちゃいましょうか。」


「なら俺とラフィールは見張りに回る、リサはもしもの為に馬車を守ってくれ。 リーゼ、食事の用意は任せたぞ。 マッドはキーの世話だ。」


「分かったわ、じゃあちゃちゃっと作っちゃうわね。」


 各自がそれぞれの配置に付き、りーぜは皆の食事を作っていく。 まず牧に火を付け、焚火を作ると、馬車の水瓶から鍋に水を移しそれを火にかけた。 それから干飯、一度炊いた米を乾燥させた物。 この一度炊くという行為も意味がある、生の米はそのまま食うと腹を壊すおそれもあるが、一度デンプン質を変化させる事で、体内に吸収する事が出来る様になるからだ。


 それをその鍋で煮込み、そこに塩っけの多い干し肉と人参を角切りにし、一緒に煮込み味を付けする。 少し煮込むと、炊き込みご飯というよりは粥に近い物が出来る。 簡単で手早く出来る物だが、干し肉をそのまま齧る事もある危険な旅の最中にしては上等な料理だろう。


「味は・・・・・まあ塩しか使ってないからこんなもんよね。」


 リーゼは急いで食べ終わり、ハガンを呼び寄せ、食事を食べさせると、他の皆と交代しながら食事を取って行く。 全員が食べ終わり、休憩中に敵が現れた。


「敵が居るよ、注意しな!!」


 リサの声により、全員の意識が戦闘モードへと切り替わる。 リサが発見した敵は、大きな頭しかない口だけの化け物だった。 目も鼻も無く、体毛の代わりに生えた蛇の様なものが幾つも生えていた。 その触手の先にはびっしりと生えた牙が生えた口の様な物があった。


「マッドさん、何時でも逃げられる様に、道具を積み込んどいて!!」


「はい、お任せくださいリーゼさん!!」


 触手をくねらせ、大きな頭を引きずってリーゼ達の元へ向かって来ている。 少し待っているが、相手は遅く、中々此方へやって来ない。


「・・・・・案外遅いわね。 え~っと、ファイヤー。」


 まだ敵が遠くに居るうちに、リーゼの炎が魔物へと直撃する。 燃える物のないその体は炎がぶつかっても怯む事はなく、直進する事を止めていない。


「バースト・ファイヤーッ!!」


 二撃目は更に強烈な炎が放たれるが、相手にはダメージが有る様には見えない。


「ラフィール、いくわよ!!」


「おう!! せ~のッ、風よッ、吹き付けろ!!」


「バースト・ファイヤーッ!!」


 二つの魔法が重なり合い、辺り一面を包む様な爆炎が巻き起こった。 それでも魔物は怯まず進んで来ている。


「炎は効かない様だぞ、直接攻撃するしかないな。 マッド、そっちは如何だ?」


「皆さん、馬車の準備は出来ましたよ。 逃げるのなら早く乗り込んでください!!」


 マッドの準備が完了した様だ、今此奴を相手にする必要はない。


「良し、いけるのなら逃げるぞ、全員馬車に乗り込め。」 


「分かったわ、戦わずに済むならその方が安全だしね。」


 逃げると判断すると、全員が直ぐに馬車に乗り込んだ。


「全員乗ったよ、マッド、馬車を出しなよ。」


「出発しますよキーちゃん!! ゴー、キーちゃんゴー!!」


 魔物を置き去り馬車が爆走して行く。 走っている内に日が暮れ、太陽が隠れていってる。


「この辺りで野営の準備をしましょうか。 今夜は私が見張りをするわ。」


「じゃあ俺も起きてるよ、馬車の中で随分休めたからあんまり眠くないんだよ。 それに一人より二人の方が敵を見つけやすいだろ。」


「そうね、じゃあお願いするわ。」


 火を燃やし焚火を付ける。 完全に日は隠れ、テントを組み立てる必要もなく、他の三人は馬車の中で休んでいる。 リーゼとラフィールは背中合わせに座り、敵が来ない様に見張っている。


 辺りは静寂に包まれ、そろそろ全員が眠りに付いた頃だろう。


「・・・・・リーゼちゃん、この旅が終わったら如何するんだい?」


「旅が終わったらか・・・・・今まで考えた事もなかったなぁ。 ・・・・・そうね、村に帰って料理屋でも始めようかしら。 もし店が出来たら食べに来てよね。 美味しい料理を御馳走するわよ。」


「リーゼちゃんの料理ならきっと繁盛すると思うよ。 でもさ、俺は食べに行きたくはないなぁ。 出来れば俺はその店で一緒に働きたいよ。 ・・・・・リーゼちゃん、この旅が終わったら、俺と結婚・・・・・してくれないか? ・・・・・如何かな? ・・・・・アレ?」


 ラフィールが振り向いた時には、リーゼの姿は見えなかった。 周りを見回すと、遠くにリーゼの姿が確認出来た。


「ラフィール!! 敵が来てるわ、早く皆を起こして!!」


「あああああ、何だよ!! 折角勇気出して言ったのに、何時もタイミング悪いな!! チクショウ、皆起きろよ、敵が来てるぞ!!」


「・・・・・敵・・・・・か、起きろリサ、マッド。 敵襲だぞ。」


 三人が馬車から飛び降り、敵の襲来を待つ。 リーゼが敵の姿を確認し、戻ってきている。 


「リーゼ、敵は何処だ?」


「あっちよ、まだ来るのに時間が掛かりそうだけど、昼間見たアイツよ。 アイツが此処まで追って来てたわ。」


 見ると、遠くからノロノロと進んで来ている姿が見える。 


「あ~、アイツかぁ、アイツが俺の告白を邪魔したのかぁ。 俺ちょっと行って来る。 俺一人で十分だから、皆は此処で待っててくれよ。」


「何言ってるのよ、皆で戦った方が早いわよ。 ほら、行くわよラフィール。」


 リーゼがラフィールの手を掴み、敵の元へと駆けて行く。 


「待って、俺一人で・・・・・まあ良いか。 行こうかリーゼちゃん。 二人の方が早いからね。」


 二人は仲良く手を繋いでる様に見える。


「ハガンさん、あれついて行った方が良いのですかね? 何かお邪魔になりませんか?」


「ああ、良い感じじゃないか。 ついて行くのは気が引けるねぇ。」


「そうもいかんだろ、敵がどんなのか分からないからな。 行くぞ二人共!!」


「娘離れが出来てないのは、ハガンさんの方かもねぇ?」


 昼間見た魔物は炎が利かず、ずっと付いて来ていたが、接近戦にはまるで弱く、リーゼの剣により一撃の元に叩き斬られた。


「ねぇラフィール、無事に旅が終わったらその時に考えてあげるわ。 だからそれまでは死なないでね。」


「・・・・・あったり前だろ!! 俺がそう簡単に死んでたまるか。 絶対生き残るから、絶対に!!」 






 ラフィールは勘違いしていた、リーゼが言ったのは結婚の事ではなく、店を手伝うかどうかの話だった事に。



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