一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 頑張って戦ってください

 俺達は西の岩場へと向かい、そこで魔物を見つけた。 まあ見つけたというよりもワラワラと散らばり、辺りに散乱している。


 その魔物は雪ダルマの様な感じだ。 白く丸い顔、膨らんで丸くなった腹、細い腕に白く丸い手。 その雪ダルマは、俺達の事を気にする様子もなく虫を探して食っている。 襲って来ないなら放っておいても良い気がするが、クロッケルの奴はやる気満々だった。 少し準備運動をして、武器の状態を確かめている。


「さぁてやるか・・・・・リューク、お前達は来ないのか?」


「俺達はただの付きそうだと言っただろ、やるなら勝手にやってくれ。 俺達は見届けるだけだ、何をしようが感知しない。」


「私達はご飯でも食べて待ってますね。」


「じゃあ行くぞアツシ、お前の依頼だ、先陣は任せたぞ!! とっとと叩き殺して大金ゲットだ。」


 物凄いヤル気のクロッケル、俺は気合を入れて言った。


「お先にどうぞ!!」


 間違っても先に行ってはいけない、後ろからバッサリなんてされたくないし、今は本当に信用出来ない。 イバスが役に立つとは思えないし、残りの二人に頼るのは無理だ。 自分の身は自分で護らないと。


「・・・・・そうか、じゃあ俺が先に行く、お前は後から来ればいい。 ならイバス俺に続け!!」


「えっ? お金要らないって言ったし、僕関係ないですよね? まあ頑張って来てください、此処で応援してますね。」


「チッ、そうだったな。 もう良い、俺一人で行って来る。 お前達はそこで俺の活躍を見とけ!!」


「「へ~い。」」


 クロッケルが魔物の群れへと突っ込んでいく。 これが敵意有る強敵の群れだったなら絵になったろうに、相手は無抵抗の無害の群れ、人に見られたらただ虐殺しているようにしか見えないだろう。


「フハハハハ、如何した掛かって来てもいいんだぞ!! さあ来い雑魚共!!」


 魔王の様な事を言いながら、一匹二匹と切り刻んで行っている。 俺は直ぐに終わるだろうと思っていたが、雪ダルマの口から警戒音の様な物が鳴り響いた。 雪ダルマ全部が音を鳴らすと、鼓膜が破れる様な大音響になって行く。


「ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!」


「ぐおおおおおおお、うるッせぇ!! 早く黙らせろよクロッケル!! 何か別の奴が来たらどうするんだ!!」


「あん? 何か言ったか? 口が動いてるだけで何言ってるのか全然聞こえねぇぞ!! うおおおおおおお、うるせえええんだよ、黙っとけ!!」


 どうやら俺の声も聞こえない様だ。 周りを見ると、他の奴も耳を塞いで何か言ってるが、大きな音で何を言ってるのかさえ分からない。 警戒音を鳴り響かせながら、雪ダルマの体に変化が起きる。 頭と拳に、鬼の様な角が生え、クロッケルへと一斉に飛び掛かる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


 角の付いた頭や、拳がクロッケルへとぶつけられた。 警戒音が止んでクロッケルが雪ダルマに埋まっている。 残念ながらあれは死んだかもしれない。 クロッケル、お前の死は無駄にはしないよ。


「クロッケル!! くそッ、一旦村に戻ろう、作戦を立て直すんだ!! さようならクロッケル、お前の死は無駄にはしないよ!!」


「俺は死んでねぇよ!! このぐらいで死んでたまるか!! うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 雪ダルマを弾き飛ばし、服だけをボロボロにした五体満足のクロッケルが現れる。 彼の体の硬度にはあの角は刺さらなかった様だ。


「俺の体にゃそんな物は効かないんだよ!! この服の様に斬り刻んでやらぁ!!」


 生きていたのか此奴、生きていたのは・・・・・まああれだ、あれだよ、うん。 たぶん良かったんじゃないの? うん、良かった良かった。


 クロッケルの攻撃が再び始まり、五匹程を倒した時、また警戒音が鳴り響いた。


ウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォン!!


 警戒音と共にクロッケルから離れ、雪ダルマ達が集まり出す。 大きな口を開けて互いを食い合い、それはクロッケルの身長を超え、最後には巨大な一体が出現した。


「うおおおおおおおお!! 合体したぞイバス、あんなのあるんだな。 あれどんな生物なんだよ!!」


「あれは合体なのかな? 食べた分体積が増えてるだけじゃないかな? 自分の体より食べられるなんておかしいけどね。」 


 流石にあれの相手はキツイかもしれない、俺達も出来る事をしてやろう。


「いくぞイバス、クロッケルを全力で支援しよう!!」


「そうだね、任せといてよ。 じゃあいくよアツシ、せーの!!」


「頑張れクロッケル、応援してるぞ!! そこだ、やれ!!」


「クロッケルさん頑張ってください、勝利は目の前ですよ!!」


「お前等そんな事してないで手伝え!! 腰の武器は飾りなのか!!」


 雪ダルマの拳が大きな大岩を砕いている。 あの攻撃の前にはクロッケルの装甲も意味をなさないだろう。 俺も兵士だ、こんな時に剣を使わないなんて駄目だろう。 俺は剣を引き抜いた。 


「分かったクロッケル、この剣を使って応援するぜ!! フレー、フレー、クロッケル、頑張れ、頑張れクロッケル!!」


「違うわ!! 戦えって言ってんだよ!! お前なんの活躍もしてないって、ストリーに言いつけてやるぞ!!」


 それはちょっと不味い、俺が何にもしてないって知られたら、地獄の特訓の日々がまた始まってしまうかもしれない。


「仕方ない、行くぞイバス、俺達の力を見せてやろうじゃないか。」


「いや、僕関係ないし、手を引っ張らないでよ!! ちょっと!!」


 イバスを無理やり引っ張り、雪ダルマの前に来た俺達。 これから俺達の真面目な戦いが始まったり始まらなかったりするかもしれない。 


「来るのが遅いんだよ!! じゃあお前等は左右に分散しろ、自分が襲われる時は避けるのに集中しろよ。 真面に食らったら死ねるからなぁ!!」


「じゃあ俺は右に行くぜ、イバスは左を頼む。」


「結局戦うのか、じゃあやっぱり報酬貰おうかなぁ。 クロッケルさん良いですよね?」


「もう好きにしろよ、今は生き延びる事が先決だろうが!!」


 狙われてるのはクロッケルだ、そのクロッケルはというと今は避けるのに集中している。 今は俺達が攻撃する好機だ。 俺は足を狙い自慢の剣で攻撃を仕掛ける。


 ザシュッ!! 傷は深く、血が溢れると思っていたが、そんな事も無く、中には白い物が見えているだけだった。 良く見ると丸い物体が幾つも重なっていて・・・・・これは食べられた雪ダルマ達か?


「イバス、傷の中に雪ダルマが居るぞ。 こいつ等食われた奴じゃないのか?」


「たぶんそうじゃないかな!! 引きずり出したら縮んだりしてね?」


 縮む、か。 良しやってみるか。 俺は剣を納め、両手をその傷の中へと突き入れた。 ネトッという感触が気持ち悪かったが、その白い物体を掴むと、無理やり引き抜いた。 スポーンと気持ちいい音を立て、雪ダルマの一匹が引き抜かれた。


「おい、マジで抜けたぞ。 イバス、そっちからも引き抜いてやれよ!!」


「分かった、やってみるよ!!」


 引き抜かれる雪ダルマと共に、縮んでいく巨大雪ダルマ。 ターゲットを俺に変えるが、もう遅い。 俺の代わりにクロッケルが、イバスの代わりに俺が引き抜くと、見る見る内にドンドン縮んでクロッケルが止めを刺した。






 引き抜かれた雪ダルマ達が再び合体しようとするが、それをさせる俺達ではなかった。



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