一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

26 王道を行く者達66

 城が少しずつ倒壊して行く。 何人もの兵士がひしめき合い、城門から逃げ出している。


「急げリーゼ、こんなのに巻き込まれたら死ぬぞ!!」


「知ってるわよ!!」


「リーゼさん剣は良いのですか?! このままでは埋まってしまいますよ!!」


「後で掘り返せば良いでしょ、結構頑丈だし壊れないわよ!!」


「もう少しで城門だよ、早く早く!!」


「だ、駄目だ、もう間に合わないよッ。」


 ド・・・ド・・・ドド・・・ドドドド・・・ドドドドドドドド!!


 頭上に降り注ぐ瓦礫の山、それは大きな津波となってリーゼ達を飲み込んで行く。


「まあ、今回は助かりましたから、この一回だけ助けてあげますね。」


 現れたのはサタニアの従者ラム。 死の波を防ぐ様に、彼女の魔法が放たれる。


「アース・・・ライズッ!!」


 兵士やリーゼ達、全員の命を守る様に大地が隆起し、壁を作り出す。 だがその壁も物凄い力が掛かり、そう長くは持たないだろう。


「急いで、此処も長く持ちませんよ!!」


 ラムの声に、兵士達は慌てて逃げ始める。 ラムは一人残り、その壁を維持していた。


「ラムだっけ? 貴女は逃げないの? そんな所にいたら死ぬわよ?」


「一人なら問題ありません、貴女も早く逃げてください。 まだ死にたくはないのでしょう?」


「そうね、まあ貴女にはあんまり恨みは無いし、一応お礼を言っておくわ。 生きてたらまた会いに行くから。 じゃあね。」


「リーゼ急げ、俺達で最後だぞ!!」


「ええ、今行くわ!!」


 心配などする必要もないだろう、彼女は魔族で、そして強いのだから。 リーゼはラムを置いて走り出す、城門を越えた辺りで土の壁が崩壊し、ラムは瓦礫の中へと埋まって行った。


「ふう、何とか無事に脱出出来たわね。 あの助けてくれた魔族は・・・・・まあたぶん大丈夫でしょ。 土の魔法が使えるみたいだし、地面にでも潜って脱出してるでしょうね。」


「まあ助けられて死なれたら寝覚めが悪いからね。 生きてる事を祈っておこうか。」


「それで如何するんですかリーゼさん。 サタニアに説明を求めるんですよね?」


「まあそうなんだけど・・・・・武器もなく、手ぶらで会いに行くのはちょっと避けたいわねぇ。 先に武器の回収をしましょうか。」 


「それで、これを如何するんだい? この瓦礫の山を素手で掘り進めるのかい? 掘り返してる内に、サタニアの奴等はどっかいっちまうよ。」


「う~んそうなのよね・・・・・ああそうだわ、あのラムって魔族を探しましょうか、もしかしたら助けてくれるかもしれないし・・・・・」


「あの魔族を探すのか? 確かにサタニアの様な傲慢さは持っていなかった様だが、彼奴を信用出来るのか?」


「さあね、会ってみなきゃ分からないわよ、魔族の考えなんて分からないし、多少信用出来るんじゃないかってだけね。 此処で何日も足止めされる訳にはいかないし、これから旅を続けるのにはあの武器が必要だわ、合流される前に見つけに行きましょうよ。」


「私は良いと思うよ? 他に手は思いつかないし、あのサタニアに頼み込むよりはマシだろうさ。」


「私はリーゼさんに従いますよ!!」


「俺も行くべきだと思うぜ、あの武器がなきゃ仲間を護れないからね。」


「全員が行くと言うのなら俺も文句はない。」


「じゃあ早速探しましょう!!」


 リーゼ達は手分けして瓦礫の近くを見回して行くが、特に変わった所は無い。 まだ脱出していないのだろうか? ゆっくりと地面を見て行くと、突然目の前の地面がボコりと沈む。 そこから現れたのは、さっき助けてくれたラムだった。


「わッ、ビックリした!! 何でそんな所にいるんですか、もしかして逃げなかったんですか?」 


「貴女を探していたのよ。 助けて貰ってなんだけど、もうちょっとだけ手を貸してくれないかな?」


「一回だけと言ったはずですけど、もし手伝ったら何かしてくれるんですか? 私には何の得もないですよね?」


「じゃあ一回だけ貸しにしてあげるわ。 もしサタニアが命乞いでもしたなら、その貸しで一回だけ助けてあげても良いわよ?」


「そんな未来は無いと思いますけど? まあ一応話だけは聞いてあげますよ、おかしな事じゃなければね。」


「簡単な事よ? もう一度地面を潜って、私達の武器を取って来て欲しいの。 そのぐらいしてくれたって良いと思わない? 貴方達の所為で、こんな所にまで来る事になったのだから。 それに、私達を利用してまだ何かさせる気なんでしょ? あの武器がなければ旅も出来ないわよ。」 


「・・・・・そうですね、本当にこの一度だけですよ? 貴方達にはまだ利用価値がありますからね。 それと、その貸しは貰っておきますよ。」


「ええ、じゃあお願いするわ。」


「そうですか、じゃあこれをどうぞ。」


「なッ!!」


 ラムに手渡されたのは、リーゼ達の使っていた武器だった。 すでに回収され、穴の下に隠してあったのだろう。 そして、リーゼはラムに貸しを一つ与えてしまった。


「貴女騙したのね!! もう回収してるなんて思わなかったわ!!」


「どうせ取って来る事になってたのだから良いじゃありませんか。 私が取って来なければ相当な時間が掛かっていたでしょう? それともその武器は諦めますか?」


「くッ、分かったわよ、貸しは一つだけだからね。」


「じゃあ私は行きますから、次会う時は敵になるかもですね。」 


「待ちなさい!! 貴女達は何で私を、私達を利用しようと思ったのよ。 私達が何をしたって言うの? 貴女も理由を知ってるんでしょ、理由を教えなさいよ。」


「それはルキ様に聞いてください、私が言う事じゃありませんから。」


「どうせ聞くのなら今でもいいでしょ? 誰から聞いたって同じ事よ。」


「・・・・・もう面倒臭いので、さっきの借りを使います。 聞きたいのならルキ様に会いに行ってください。 じゃあさようなら。」


 借りを使われてはリーゼに止める事は出来なかった。 ラムは空へと飛び上がり去って行った。


「客観的な意見ってのも聞いて見たかったんだけど・・・・・まあ苦労せずに武器が戻って来てよかったって事にしましょうか。」


 戻って来た武器を見る。 刃こぼれが無い事を確認し、手頃な瓦礫を剣で斬る。 その瓦礫はスッパリと両断された。


「うん、大丈夫ね。 皆と合流しましょうか。」






 自分の武器を鞘に納め、武器を持って全員と合流した。 



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