一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

24 マリーヌ王との戦い1

 自分が負けると思ってもみなかったのだろう、ジュリアンはガックリと項垂れ、それを見ると何となく気まずい。


「ま、まああれだ、お間はまだ若いんだから次のチャンスがあるさ。 よし、そうだな、俺が勝ったらお前に王になる権利を譲ってやるよ。」


「何を言っているんです、王位を継ぐのには本人でなきゃ出来ないんだ。 例えお前が勝ったとしても、お前が王になるのか決められるだけだ。 俺が王に成れるわけでは無い・・・・・」


「確かにそんな決まりだったが・・・・・その王位戦、出るのがお前だったらどうだ? それならお前が決める事が出来るだろ? まあちょっと見ていろよ。」


 俺はジュリアンを観察する、髪の色、顔の形、目の色、鼻の角度、唇の形、身長、肌の色、着ている鎧まで。 その姿を思い浮かべ、自身の体を変化させた。


「な、なんだそれは!! 何故俺の姿に、まさか貴様魔物の類か!!」


「お前、魔法は初めてか? 言っとくがこれは魔法の一種だぜ。 この姿で勝てばお前にもメリットがあるだろ?」


「魔法・・・・・だと? そうか、貴様王国の人間だな? 俺に近づいて何を狙っている、ブリガンテに何を仕掛けるつもりだ!! 我が国に仇名すのならば許してはおけないぞ!!」


「まあ落ち着けよ、俺は別にブリガンテをどうこうするつもりはないぜ。 ただな、あのマリーヌ王が、ちょっとばかしこっちの王を怒らせてな。 マリーヌ王にはこの会場でちょっと倒されてもらうだけさ。 まあちょっとばかりの落とし前ってやつだな。」


「お前がか? さっきの戦いを見る限り、お前ではどうやっても出来ないだろう。 何か卑怯な手でも使うつもりじゃないだろうな!!」


「あのな、さっきのは・・・・・あーまあちょっと油断したんだよ。 ルールも良く聞いて無かったからな、普通に戦ってぶっ倒す、ただそれだけだぜ。」


「その言葉、二言はないだろうな? だったら俺ともう一度戦え、次は油断などしない、お前の実力を見極めてやる!!」


 先ほどの油断しまくった瞳とは違う、本気で戦う男の顔だ。 俺はそれに答えてやる事にした。


「いいぜ、それで納得するならやってやる。 お前の気概に免じて、少し本気で行ってやる。 あんまり動くなよ? もしかしたらやり過ぎちまうかもしれねぇからな。」


 その言葉が終わった瞬間、俺は動き出した、ジュリアンの目の前でフェイントを掛け、その背後に回り込んだ。 そして気付かれない間に首元に刃を突きつける。


「動かない訳がッ、なッ、消えた? 何処だ!! うッ・・・・・」


「だから動くなって言っただろ、動いたら切れちまうぞ?」


「強さを求めるにしても上には上がいるものだぜ。 あんまり慢心していると、その油断で殺されちまうぜ?」


「あの動き、どう考えても人のものじゃなかったぞ。 ・・・・・お前、本当に人間か?」


「お前がどう思おうと、俺は人間のつもりなんだがな。 それで? お前は納得したのかよ?」


 ジュリアンが頷いた。


「例えお前が何者だろうと、俺は約束を破りはしない。 例えお前が悪魔だとしてもな。 だが、このブリガンテに何かしようとしているなら直ぐに皆に知らせ、全員で叩き殺してやるからな。」


「だからやらねぇって。 そんなに気になるなら見に来いよ、お前の姿が見えるとちょっと不味いからフードでも被ってよ。 それじゃあ俺は行くからな、もう一度言っとくが見るなら姿を隠してくれよ。」


 俺はジュリアンと別れ、会場へと戻った。 マリーヌ王の戦いは休みなく続いている。 幾ら相手が弱いといっても、何十人と戦ってりゃあ多少は疲れてると思うが? ・・・・・そういえばジュリアンの順番って何番なんだ? 聞いとけばよかったぜ。


「マリーヌ王の勝利です、これで注さん四十五連勝!! 強い、強すぎる!! 流石は武国の王マリーヌ様です!!」


「さあ次、掛かって来なさい!!」


 四十五連勝ね、人数的にもそろそろか? 他の三人が呼ばれ、残ったのは俺と、ガルガンスだ。 何というか、この順番はちょっと胡散臭いが、俺としては助かるな。 出来ればガルガンスが先に行って欲しいが・・・・・


「ジュリアン様出番です!! ご準備をされて舞台にお上がりください!!」


 そう上手くはいかねぇよな。 まあ王様を待たせる分けにもいかねぇし、急いで行くとするか。


 舞台上ではマリーヌ王が待ち構えている。 俺は剣を構え、相手の出方を窺った。 倒さなきゃ俺の今後が危ういし、絶対倒してやる!!


「あら、貴方は・・・・・さっきで懲りなかったんですね。 それで、ジュリアンはどうされたのですか? まさか殺したなどとは言いませんよね?」


「・・・・・安心しなよ、話し合いでちょっと譲って貰っただけだからさ。 所で何で分かった? 自分じゃ完璧だと思ったんだけどな。」


「そりゃあ分かりますよ、あの子には期待をかけていましたからね。 それに、その剣はあの子の剣とは違いま、それは先ほど貴方が使っていた剣でしょ? それに構えも先ほどと同じ。 あの子のものとは全然違いますよ。」


「あっそう、化ける人物を間違えたか・・・・・まあ俺としちゃあ、バレても貴方を倒せればそれでいいんだけどな!! じゃあ仕掛けても?」


「何時でもどうぞ。」


 人としてギリギリ出せるかどうかの速度で走り、剣を下段から上空に振り回す。 これは俺が負けた技だが、挨拶程度のお返しだ。


 マリーヌ王は自分の技だという様に、一歩後へと下がり皮一枚すら掠らせないが、俺の攻撃はそこでは終わらない、振り上げた腕を、しなりを使い横へと振り切る。 切り上げから真横への連撃。


 その剣はマリーヌ王の剣でギリリと受け止められ、力を入れて押してみるが。 その剣は上へと弾かれ、最小の動きの斬り下ろしが来る。


 体を捻り無様に倒れながらそれを躱すが、立ち上がるのを待ってくれるほどやさしくはない様だ。 一撃二撃と剣を振られ、中々立ち上がる事が出来ない。 打ち下ろされる剣、にワザと止まり、その剣を受け流し、その隙をつき立ち上がる。






 何というか、もう少し力を出せば勝てるとは思うが、このまま続けてたら俺の方が危ないんじゃないか? ほんの少し速度を上げて次の攻撃を仕掛けた。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く