一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

14 助っ人

 隊長さん達は四人を連行して行った。 僕は隊長さん達と別れ、僕は女王様報告に戻る。


「そうですか、その三派が怪しいと思うのですね?」


「はい、ですが三つ目の派閥の正体は分かりませんでした。 この国でもう少し自由に動けれたら良いのですが、まあそういう訳にはいきませんからね。 ・・・・・あの女王様、実はですね、この情報を貰う為に、研究所から貰った武器を報酬として渡してしまいました。 事後報告になってしまって、申し訳ありませんでした。」


「それは・・・・・仕方ありませんね。 今更貴方を咎めた所で、もう戻っては来ないでしょう。 本来厳罰に当たる事ですが、今回は致し方ありませんね。 軽はずみに渡した物から、王国が危機になる事もあるでしょう、もう二度としないでくださいね。」


「はい、申し訳ありませんでした。」


 危なかった、たかが剣と思っていたが、結構重要な物らしい。 あの隊長に渡したのは失敗だったか?


「イバスさんの情報から、敵の断片を掴めたのは良かったのですが、私達はこの国では簡単に動く事が出来ません。 誰かこの国の協力者でも居ればいいのですが。」


「マリーヌ様に頼んでみたら良いのでは? この国に他に頼れる方は居ませんし。」


「そう出来たら良いのですが、他国の王にそう何度も頼み事をする訳にはいきませんよ。 そのほんの少しの要求が、後々十倍にもなって返ってきますからね。」


 あ~そうか、外交は面倒臭いな。 敵を探す為に、城の中を自由に動ける人間が居たら良いのだけれど、あの隊長さん辺りに頼めれば良いが、此方の密偵になれなんて聞いてくれるはずもないか。


「一応目的は達しましたし、後はブリガンテ側に任せますか?」


「しかし、このまま何もしないというのも腹立たしいですね。 如何にかして首謀者が誰なのか知りたい所です。 ・・・・・緊急用に持って来たファフニールを使いましょうか。 王国から救援を送ってもらいましょう。」


 ファフニールと大層な名前が付いているが、要は伝書鳩だ。 鳩と言っても一応キメラ化はされている。 暴走させない為に攻撃力は皆無だが、そのスピードは王国最速のべノム隊長に匹敵するほどと言われている。


 それを使うとなると、来るのはべノム隊長だろうか? 他の人では時間が掛かり過ぎてしまうし、べノム隊長には変身能力がある、ブリガンテの城の中に潜入調査でもさせるのだろう。


 ファフニールが王国に飛ばされ、あっと言う間に見えなくなっていく。 あれを捕捉出来る生物は居ないだろうし、きっと大丈夫だろう。




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 ファフニールが飛ばされてから数刻、王国の見張り台にてファフニールの姿が発見され、それはバールの知らせにより、直ぐにべノムの耳に入った。


「隊長、イモータル様より緊急連絡です、知らせによると隊長に助けを求めている様ですよ。 ブリガンテの城に潜入捜査をしてほしいらしいです。 連れて行ける様なら他にも連れてきて良いらしいですが、急いでいるらしいのであまり遅くならない様にって事らしいです。」


「潜入捜査ねぇ、俺一人なら早く行けるが、他に潜入に向いてる奴なんていたか?」


「あ、アツシなんて如何ですか? 確か透明化の魔法が使えたんじゃないですか? あれなら城の中でも楽々でしょう。」


「うっし、それでいくか。 バール、アツシの居る場所は分かるか?」 


「あ~確か、今日はストリーさんとデートがどうとかって言ってましたね。 たぶん今頃家に帰ってる頃じゃないですか?」 


「デートね、可哀想だがイモータル様のピンチだ、強制的に連れて行くとしようか。 じゃあバール、後の事は任せたぜ。 じゃあ行って来る。」


「お気をつけて~。 ・・・・・アツシも不幸な奴ですねぇ。」


 べノムがアツシの家へと向かうと、丁度ストリーと二人で家に入る所だった。 腕を組みながら楽しそうにしている。


「ようアツシ、元気そうだな。」


「おべノム、今からちょっとした用事があるんだ、だから今は邪魔して欲しくないんだけれど。」


「隊長さんが何か用なのか? 今はちょっと時間が無いんだが・・・・・」


「悪いな二人共、残念ながら女王様からの緊急指令だ、今からお前をブリガンテへ連れて行くぜ。 この続きは帰って来てからやるんだな。」


「む、最上級指令か・・・・・それは仕方ないな。 アツシ、頑張って行って来るがいい。 私は無事に帰って来るのを待っているぞ。」


「待て、俺の意見は!! 折角のチャンスなんだぞ!! ・・・・・何だその縄、おい、待て!! ギャアアアアアアアアアアアアア!!」


 アツシが縄でグルグル巻きにされていく、口にも猿ぐつわがされ、完璧に動かないようにされると、べノムは空中へ飛び上がり、アツシが吊るされながら飛んで行った。




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 二人が何時間も空を飛び、国境を飛び去り、ブリガンテの城が見えて来た。


「アツシ!! 見えてきたぜ!! ここからはちょっとゆっくり飛ぶから、お前も透明化していろよ!!」


「~~~~~ッ! ン~~ッ ンン~~ッ!!」


「あ~、そういやそうだった、一度下に降りて準備するか。」


 猿ぐつわを外すと、アツシが物凄く怒り出した。


「うおおおい!! 何いきなり連れ去ってくれるんだよ、せっかくのデートだったんだぞ、もうちょっとで凄くいい具合にッ!!」


「まあ怒るなよ、イモータル様の頼みは聞かにゃならんだろうが。 帰ったら飯でも奢ってやるからよ、今は仕事してくれよな。」


「ぜッッッッッッたいだからな!! もうはちきれる程食ってやる!!」


「分かった分かった、兎に角今は急いでるんだ、早く姿を消してくれよ。 イモータル様を待たせる訳にはいかねぇだろ?」


「消えれば良いんだろ消えれば!! 我が姿をかき消せ、インビジブル!!」


 アツシの姿が消えて行く。


「それじゃあ行くからな、あまり喋るなよ? 見つかったら撃ち落とされるからな。」


「あ~悪いべノム、ちょっと小便してくる、縄を外してくれないか? もうそろそろヤバイんだ。」


「ハァ、急ぐんだから早くしろよ・・・・・」


 べノムがロープを解き、アツシが用を足すと、アツシは自分でロープを結び、べノムは自分の姿を小さな鳥へと変化させ 上空へと飛び上がる。


 町の壁を越えた辺りでべノムは違和感に気が付いた。


「なんか軽いが・・・・・まさか落ちたのか? 姿も見えねぇし、此処から落ちたとなるとたぶん即死だろうな・・・・・回収しようにも如何にもならないじゃないかよ。 悪いなアツシ、今は急ぐんだ、成仏してくれよ。」


 アツシは壁の上部にある突起にぶつかり、その壁の屋上に落下していた。 幸い怪我も無く、近くに兵士の姿は無い。


「ッてぇ!! べノム落とすなよ!! あれべノムは? えッ、置いて行かれた!! こんな所に置いて行くんじゃねぇよ!!」


 アツシのその声に反応し、遠くから兵士がやって来ている。


「む、誰だ!! そこに誰か居るのか?!」


「どうした? 何かあったのか?」


「いや、話し声が聞こえた気がしたんだが・・・・・気のせいだったみたいだ。」




 姿が消えているアツシは、手で口を押え、兵士が立ち去るのをじっと待っていた。



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