一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 黒幕は誰だ?

 あれだけの騒ぎがあっても、病院からは誰も出て来ていない。 病院の外壁には大量の矢が刺さり、窓の中にも何本かは入っているだろう。 こんな中に出て来る者は、よっぽどの変人か、死にたがりぐらいしかいない。 そしてあの”何か”が爆発し、敵の動きは未だに無い。


「敵はどんなものか分かりません、死んだのを確認するまで油断しないでくださいね。」


 隊長さんが地面に落ちた”何か”の手を掴み、完全に動かないのを確認している。


「大丈夫だ、これ程バラバラになっては生きてはいまい。 ゼシュレッド怪我は無いな?」


「はい隊長。それより、なぜこんな物が病院の中にいたのでしょうか。 あんた達、中で何があった? 詳しく説明してくれないか?」


「あ、はい。 僕達も聞きたい事があるので、情報交換といきましょうか。 一応聞いておきますが、アレの事知らされて無いですよね?」


 飛び散った破片を指さし、それが敵である事を知らせた。


「うむ、当然だ、あんなものがこんな場所に出るとは思わなかったぞ。 しかし病院の中から出て来るとは、お前達が何かした訳ではないだろうな?」


「あ~、実はな、たぶん此奴の本体と思うやつを発見したんだが・・・・・」


「クロッケルさん、僕が説明をしておきますよ。 お二人は女王様達に報告をお願いします。 女王様をお待たせする訳にはいきませんからね。」


「イバス様、私は残ります。 報告でしたらクロッケル様お一人でも出来るでしょう。 私はイバス様のおそばに居たいのです。」


「いえ、此処は僕一人で十分ですよ。 僕に付き合っていたら朝になってしまいますよ? 部屋に帰ってゆっくり休んでください。 帰る時にまた護衛を頑張らなきゃいけませんからね。 それとも僕が信用出来ませんか?」


「勿論信用しています!! ですが私は・・・・・」


「レーレ、信用しているならイバスに任せておけよ、どうせ直ぐに会えるだろ? それともここで言い合って、女王様をお待たせさせたいのか?」


「くッ、分かりました、では帰って来たら二人で一緒に・・・・・」


「もう行くぞレーレ、じゃあ俺達は報告に行く、此処は任せたぞ。」


「ううう・・・・・イバス様、また後でお会いましょう。」


「はい、報告をよろしくです。」


 二人を帰したのには理由あある、変な事を言って子の隊長達を怒らせてしまうかもしれないからだ。 ブリガンテ側には死人まで出ているし、僕達の答えしだいでは敵対しないとも限らない。


「それでは教えて貰えるかな?」


「はい隊長さん、聞いているとは思いますが、僕達はこの病院にある物を盗みに来ました。 この事はマリーヌ様も快諾済みです。 病院内を見て回り、この病院の地下施設を発見したのです。」


「む? 地下施設だと? 何を言って居る、この病院に地下施設など・・・・・」


「では今見に行きましょうか、後々無かったなんて言われたくありませんし、誰かに証拠を隠滅される恐れもありますからね。 今見に行けば、それがどんなものだったのか分かりますよ。」


「そうだな、うむ分かった、では早速見に行くとしようか。」


 この人達がわざわざ仲間を殺して、嘘をついているとは思えないが、一応注意はしておくべきか? レーレさん達が知らせに行ってるし、今更僕一人を口封じしても意味が無いと思うけど。 多少の緊張を含みつつ、地下の施設へと移動して行く。 移動時に聞いたが、隊長さんの名前はブレザりオって言うそうだ。


 地下施設の階段の上、地下施設の扉からは灯りが漏れている。 誰かが証拠隠滅でもしようとやって来たのかもしれない。 音をなるべく立てない様にゆっくりと降りて行き、扉の中を覗くと、その中には四人の男達が慌ただしく物を探している。


「動かないでください!! 言っておきますが、抵抗しても無駄ですよ。 それとも、命がけで抵抗してみますか? 抵抗しないのならばその場で地面に寝転がってください。」


「・・・・・」


 観念したのか、男達は無言で地面へと寝そべり、抵抗をしない。


「こいつ等が犯人って事で良いんだよな?」


「たぶんそうでしょうね、僕達は奥を見て来ます、ゼシュレッドさんは此処で見張っていてくれませんか?」


 ゼシュレッドがブレザリオ隊長の方を見ている。 流石に僕だけの言葉では聞いてくれない様だ。


「そうしておけゼシュレッド、こ奴等を逃がすのは得策ではない。 マリーヌ様に報告するにしても、もう少し情報が欲しいからな。」 


「了解しました、しかし抵抗されたらどうしますか? 斬り殺しても?」


「なるべく生かしておけよ、聞きたい事がいくらでもあるからな。」


「了解しました隊長。」


 僕達二人は奥の部屋に移動した。 色々な動物が居た部屋は、その檻が壊され、動物だった物のパーツが所々転がっている。


「ぬう、こんな所で研究が行われていたとはな。 しかし誰が指示したのだ、こんな所に実験場を作るとは病院の関係者が怪しいが・・・・・」


「隊長さん、この国の派閥とか教えてください。 こんな事するぐらいなんです、それなりに上の人間が関わってるはずですから。」


「確かに派閥はあるが、知られればこの国が不利になる様な情報だ、他国の使者にそれを言うと思うのか? 助けは感謝しているが、そこまで教えてやる事は出来んな。」


 まあそうそう聞けるものじゃないか、ペラペラと喋り出すようでは大した人物ではない、この人は結構優秀なのだろう。 それでも聞かなければならない、王国の敵となるべき人物を。


「それでは、僕が女王様に頼んで、それなりの物をお渡しする約束をします。 信じられないと言うのなら誓約書でも書きましょう。 隊長さん、それでも駄目でしょうか?」


「それなりの物では分からんな、何を貰えるのかちゃんと言ってもらわないと、此方としても分からぬではないか? 商談がしたいのならキチンと交渉材料を出すべきではないのかな?」


 さあ如何しようか? キメラの技術、兵力、それとも財力? どれも僕一人がイイと言って渡せる様な物ではない。 しかし情報を引き出す為には何かを渡さなければ。  


「そうですね、僕が提供出来そうな物は剣でしょうか。 この国の武器よりも強力な武器を幾つか提供しても良いですよ。 鉄ですら易々と切り裂く様な強力な武器です。 どうです、欲しくはないですか? それを使ってみるも良し、研究素材にするもよしです。 派閥を言うだけで伝説級の武器が貰えるのですよ、いい話ではないですか?」


 強力な武器、キメラ研究所で作られた武器の事だ。 実は僕も一本持っている、アツシがエリメスさんに渡した武器だが、僕に使ってくれとエリメスさんに渡された物だ。 今も腰に差してあるが、僕の腕では真価を発揮出来ない。 エリメスさんも王国の為に使われるのなら納得してくれるだろう。


「今手持ちの剣があります、ちょっと見ていてください。」


 僕は手頃な檻を剣で斬ってみせると、その剣を隊長に手渡した。 隊長は同じように軽く試し切りをすると、僕よりも鋭く斬れている気がする。 


「確かに素晴らしい剣だな。 ・・・・・ううむ、これ程の剣となると情報料としては十分か? 余り貰い過ぎても其方の借りにされても困るしな。 良し、情報料はその剣一本で良いぞ。」


「交渉成立ですね、それでは教えて貰いましょうか。 この国の派閥組織は誰が仕切っているのかを。」


「うむ、まずはダラクライ大臣だろうか。 マリーヌ様の忠臣を装い、裏でこそこそと何かしているらしい。 二人目は元帥のガルガンス殿、軍を仕切るこの方の派閥も相当大きい。 実はもう一つ派閥があるという噂だが、私はその派閥を知らない。 この国にある派閥としてはたぶんその三つなのではないだろうか。」






 ダラクライ大臣か・・・・・上の人にはへりくだり、下の人間には強く当たるのを見ている、あれが黒幕だとしても不思議ではないけど、盗むと聞いて何も行動を起こさなかったし、あの人では無い可能性もあるな。 さっきの研究者が素直に情報を言ってくれれば良いのだけれど。






 僕達は施設の内部を見回り、ゼシュレッドさんの元へと戻った。



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