一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 王道を行く者達61

 リーゼ達はブリガンテの町の中を歩き、この国を探る。


「いいのかい? 彼奴の言う事なんて聞いてさあ。 きっと何かしようとしているはずだよ?」


「絶対的な戦力が違い過ぎるし、仕方ないじゃない。 でもこのまま言う事を聞いてるだけじゃ生き残れないかもしれないわ。 この機会に私達に必要な情報も集めましょうか。 砦で見た巨大な魔物、あれを倒した方法が分かれば、私達にもチャンスがあるかもしれないわね。」


「でもさ、砦でも秘密にされてたんだよね? 町で聞いただけじゃ分からないんじゃないかな?」


「そうよね、何処か情報が集まる場所に行ってみましょうか。 この町だってそういう場所は有るはずよ、例えばギルドとかね。」


 ギルド。 相当昔から各地に広がった為、色々な国や町に点在している。 魔物が出始めてからギルド同士の連絡は途絶えてしまったが、その機能は衰えてはいないはずだ。


「ギルドですか・・・・・私あそこ苦手なんですよね、怖い人とかいっぱい居ますし、私なんて直ぐにカモにされそうですよ。」


「何言ってんだい、そこいらのチンピラ程度何人出て来ても敵じゃあないよ。 私達が今まで何と戦ってきたか思い出しなよ。」


「そうよ、魔族に比べれば、精々ヒヨコぐらいなんじゃないの? さあギルドを探しましょうか。」


 リーゼ達はギルドを探す、道行く人達に情報を聴き、ギルドの場所を探し出した。 ギルドの中に入ると、職員と思われる人間が数人居ただけだった。 その職員達も暇なのかモップで床を掃除している。 リーゼはその職員の一人に話しかけた。


「お兄さん、ここってギルドよね? こんなに人が居ないなんて珍しいわね、何かあったの?」


「此処の状態を知らないとは、あんた等他所から来たのか? 残念ながら仕事なんてないぞ、精々人探しとかそんなもんだ。 それが受けたくないのなら帰ってくれや。」


 リーゼは近くのテーブルに近づき、そこに一番良い紙幣をバンと置いた。


「私達はこの国がどうなってるのか知りたいの、何か知ってるのなら教えてほしいのだけど。」


 更に四枚の紙幣をテーブルに叩きつける。


「このギルド、儲からなくて大変でしょう、少し話を聞かせて貰えるだけで良いのだけど?」


 この話に乗ったのは、掃除をしていたもう一人の方だった。


「何が聞きたいんだ? 危ない話じゃなければ話してやってもいいぞ。」


「この国の事が聞きたいの、この国の国境で、大きな魔物が倒されるのを見たわ。 私達はそれがどうやって倒されたのか知りたいの。」


 男は少し気が引けた様だ。 リーゼの話を聞き金を取るか悩んでいる。


「そりゃ危ない話だぜ、この程度の金額じゃ全然足りねぇなぁ。 せめてこの十倍、いや百倍は欲しいぜ。」


「ふ~ん、じゃあこれなら如何かしら? 私達には換金する場所が無くて困っていたのよね。 如何? これ、欲しくない?」


 テーブルに、マッドから貰った宝石の欠片を一つ置いた。 赤く輝くダイヤモンドがキラキラと光っている。


「これだけでも、その位はいくんじゃないかしら? もしその金額を超えたとしても、これは貴方の物にして良いわよ。」


「こ、こりゃあ、ルビー・・・・・じゃねぇよな。 宝石の事は詳しう知らないが、この宝石はそんなに高いのかよ?」


「ダイヤモンドって知ってるでしょ? これはそれのレア中のレア、レッドダイヤモンドよ。 これだけでもお屋敷が一つ二つ立つんじゃないかしら? ある依頼で手に入れたんだけどね、これをお金にしてくれる所が無いのよ。 小さなところなら買う事すら出来ないからね。 ここで使えるのなら、凄く嬉しいのだけれど?」


「も、勿論、此処でだって使えるぜ!! 後で返せ何て言うなよ、俺は絶対返さないからな。」


 他の職員達は、本物だとは思っていないのか、警戒しているのか寄っては来ない。 それどころか、関わらない様に、部屋の奥へと入って行った。 それを確認すると男が話し始めた。


「さあて、何処から話そうか・・・・・そうだな、三年前、ダラクライ大臣の息子、ジュリアンが王位に就き、そこからこの国は変わり始めたのさ。 ギルドには魔物退治の依頼がドンドン減っていき、だんだん廃れて行ってこのざまさ。」


「私達が聞きたいのは、そんな話じゃあないのだけれど?」


「まだ話は終わってねぇぞ。 まあ聞いてくれよ、あまりに仕事が減ってくのでな、俺達も調査をしたんだ。 密に隠れ町の周りを監視したのさ。 しかし俺達はそこで見ちまったのさ、国王になったジュリアンの奴が、たった一人、護衛も連れずに歩いて行くのをな。 俺達は気付かれない様に尾行しそれを追ったのさ。 さてどうなったと思う?」


「そのジュリアンって王が、周辺の魔物を倒しまくってたとか?」


「正解だぜお嬢ちゃん。 ただし、その倒した方法が問題だったのさ。 ジュリアンはその体を変化させ、化け物の様な姿で魔物達を殲滅していったんだ。 俺はあいつを王だと認めちゃいねぇぜ、もしかしたら、あいつは王国の人間なんじゃないかと睨んでいるんだよ。 この国を内から食いつぶす積りじゃないだろうってな?」


 魔族が関わっているのなら、サタニアが知っているはずだろう、わざわざリーゼ達に調べさせたりしない。 ジュリアン王が人じゃなく、魔族でもないのなら、一体何者なのだろうか?


「まっ、奴が王になってから、この国が安全になったのは確かだけどな。 町に侵入していた魔物は全然見かけなくなったし、平和っていえば平和だぜ。 だが奴の事を調べるのは止めた方が良いぜ、俺達が雇った奴等も何人も行方不明になってるからな。 さて、俺の話はこんな所だぞ。」


「ありがとう助かったわ、それじゃあこの宝石は持ってって良いわよ。 じゃあ私達は行くわ、じゃあね。」


「ああ、気ぃつけてやるんだな。」


 リーゼ達はギルドの外へ出て話を始めた。


「リーゼ、今の話どう思う?」


「う~ん、私達が探していた物と、サタニアが探していた物は同じって事かしら? ジュリアン王が何者であれ、力があるとは思うけど、私達じゃ面会する事も出来ないわね。 いっそサタニアに協力して、城に連れてってもらうとか? ああ気が乗らないわね。」


「そこは我慢しようぜリーゼちゃん、力が手に入るまでの我慢だろ?」


「そう簡単にはいかないと思うわよ? 人が居なくなってるとも聞いたし。 結構危ない橋かもね。」


 リーゼが仲間を見ている。


「お前の好きにしろ、俺はお前が何を選ぼうとついて行くぞ。」


「まっ、危ないとか言われたって今更さ。 今までどれぐらい危なかったか考えなよ。」


「ふふふ、私はリーゼさんに付いて行くって決めていますからね。 何処だって行ってやりますよ!!」


「勿論俺も付いて行くぜ、俺が居なきゃ護りが薄くなるだろ。」


「そう、じゃあ、行くわ。 私について来る事、後悔しないでよね!!」






 リーゼ達が覚悟を決め、サタニアの元へと向かって行った。



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