一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 下調べ

 マリーヌの部屋。 イモータルが去り、王国の兵達が帰った後。


「ダラクライ、至急兵を十人程集めなさい。 これは大変なチャンスだわ、王国の力を直に感じられるチャンスよ。 向うは殺さないとも誓いました、我が兵達をぶつけ、その力を存分に披露してもらいましょう。」


「マリーヌ様、それでは失敗させるのですか? 成功させなければ王国との関係は悪化いたしますぞ。」


「勿論成功していただきます。 その上で此方の兵をぶつけ、相手の力を推し量るのです。 全てとは言わないまでも、その力の一端でも披露してもらいましょうか。」


「それでは精鋭中の精鋭を用意させましょう。 しかしマリーヌ様、もしかすると此方が勝ってしまうかもしれませんぞ?」


「そうなれば勝ち逃げしてしまえば良いだけです。 それは良いとして、王国の者の血肉を奪っておきながら、此方に報告が来ていなのが気になります。 誰かが何かを企んでいるとしか思えませんね。 ダラクライ、此方の方も調べておきなさい。」


「お任せくださいマリーヌ様、直ぐに調べさせましょう。」


「さて、これでどうなるかしら・・・・・」


 マリーヌは机に置いてある茶を飲み、仕事に戻った。




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 イバス達は予定していた宿へと向かい、そこでで別れていた護衛のメンバーと合流した。 その宿で最上級の部屋を用意され、その部屋で作戦会議が始まった。


「それでは潜入メンバーなのですが、あまり大勢で行く必要もないでしょう。 やはり此処はイバスさんにお願いしようかしら。」


 ・・・・・ん? 何かおかしな言葉が聞こえた。 僕が行くって? 僕はイブレーテ様の護衛だったはずでは? うん、きっと気のせいだろう。


「おい、イバス、女王様に返事をしないか!! お前が選ばれたのだぞ、さあ早くしろ!!」


 気のせいでは無かった様だ。


「女王様、待ってください、僕では無理だと思います。 僕には潜入するようなスキルも、敵と戦う力もありませんし、戦いになったら僕一人では負けてしまうかもしれません・・・・・」


 女王様は気さくな人なのでこんな事を言えるが、厳しい国だと、王に意見をしただけでも殺されてしまう国もあると聞く。 僕の意見でも聞いてくれる女王様は素晴らしいです。


「そうですか? それならば後二人位付けましょうか。 イバスさんは何方をお連れしたいのですか?」


 僕は周りを見渡す。 この場にはガーブル他、歴戦の兵士達が並んでいる。 ガーブルは連れて行きたくない、戦いになったら大声で叫び出しそうだし、名乗りでもあげられたら如何しようとか思ってしまう。 僕の仲間、あの三人の女性もこの場には居るが、女王様の手前、騒ぎ出す事もない。


「一人目はレーレさんで、お願いします。」


 キラリとレーレの瞳が光った気がした。 猫の姿をした彼女は、夜目が効き、体も小さく潜入には打って付けだろう。 あともう一人は如何しよう。


 エリメスさん達の何方かを選んでも良いが、残された一人が相当恨みそうだ。 うん、別の人にしようか。


 僕は改めて兵を見回し、全く知らない一人を選んだ。 彼の名はクロッケル、性別は男、細身でありながら、かなりの筋肉質で、蟻の様な光沢を放つ皮膚をして、所々に刺の様な物が出ている。 彼もキメラ化を受けた一人だろう。


「それでは、クロッケルさんにお願いします。」


 彼の使う武器はソードブレーカーと呼ばれる物で、敵の武器を絡め取り、それを折ったり、主に防御に使う為の剣だ。 普通は短剣位の物なのだが、彼の物はそれよりかなり大きく、普通の剣より少し分厚いぐらいの物を使っている。 彼ならば不殺を守れるんじゃないだろうか。


「へ~、俺を選んだか、まあよろしく頼むよ。 じゃあ早速行くかい?」


「そうですね、準備はした方がいいですよね。 まだ夜までは時間があるし、病院の中を見に行きましょうか。 じゃあ女王様、僕達は下調べに行ってきます。」


「ええ、行ってらっしゃい。」


 レーレさんはここぞとばかりに腕を組んできている。 残った女性二人の視線が痛い、でも今回は諦めてください。 女王様に出発を告げ、僕達は病院へと向かう。 


「気になっていたんだが、お前達付き合ってるのか?」


 クロッケルの質問に、レーレさんが答える。


「はい、付き合っています!! イバス様とはもうすぐ結婚する仲なのです。」


「ええ? 付き合ってないでしょ。 僕そんな事言った覚えは無いですよ!! レーレさん嘘は言わないでください!!」


「何言ってるのですかイバス様、あれだけの事をしておいて、私と付き合う事は出来ないと? そんな事は許されません!! 絶対に責任を取って貰いますからね!!」


「今度ご飯でも奢るので、それで勘弁してもらえません・・・・よね?」


「なりません!!」


「お前、見かけによらずあくどい事をしてるんだな。 死なない様に気を付けろよ、女の恨みは怖いからなぁ。」


「うぐぐ、もう気を付けています・・・・・」


 他愛無い話をしながら、病院に到着した。 先ほど来た時には余り気にしていなかったが、この病院という施設は部屋数も多く、目的の物が何処に有るのか探しとかないと、迷って朝まで見つけられないかもしれない。


 何も無いとは分かっているが、屋上から順に階を下がって行くことにした。 しっかりと作られた屋上、周りの景色が良く見える。 ここには広いだけで何も無く、扉に一つ仕掛けをして、一つ下の階へと足を進めた。


 三階。 幾つもの病室が並んでいる。 怪しまれない様に、チラチラと確認して行くが、この場所には病人しか居ない様だ。


 二階。 この場所は女王様が居た部屋がある。 二階には、一階にあった受付と同じ様な受付がある。 奥はカーテンが垂れ下がり、何かありそうだが、此処からでは確認出来ない。 ここはチェックしておこう。


 一階。 入り口から広い空間があり、そこで患者達が順番を待っている。 奥には食事が出来る場所と、患者を診察する場所がある。 その診察する場所には僕達は入れない、一応探す候補に入れておくとしよう。 そして階段はもう一階分降りる事ができる様だ。


 地下。 立ち入り禁止と書いてあったが、人が居ない事を確認し、その中を覗いて見る。 明かりは無く、地下が暗い為、僕の目ではよく見えない。


「レーレさん、この中に何があるか分かりますか?」


「恋人にしてくれるのなら教えてあげますよ?」


「いやあの、これ任務ですんで、意地悪しないで教えてくださいよ。」


「・・・・・仕方ありませんわね。」


 レーレさんが地下の部屋の中を覗く。


「棚が並んでいます、それと、暗い中で作業している人が居る様です。 作業に集中していて此方には気づいて居ないようですが、急いで離れた方が良いでしょう。」


「分かりました、直ぐに離れましょう。」






 僕達は宿へと戻り、夜になるまで待機した。



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