一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 緊張漂う一室

 タイミングよくやって来た男、なんとなく僕達を見下している気がする。


「いやあお待たせして申し訳ございません。 もちらがイモータル様でしたかな? お初にお目にかかります、この国の大臣を務めるダラクライと申します。 以後お見知りおきを・・・・・」


「ええ、ダラクライ様、宜しくお願いします。 早速なのですが、私達はマリーヌ様に面会しに来たのですが、案内をしてもらえませんか?」


「はあ、大変残念な事に、現在お風邪を引かれましてなあ、随分体調も悪く、動くのも辛いそうなのです。 ですので、また明日来られてはくださいませんか?」


 言葉の端々に刺々しさを感じる。 僕達にあまり良い感情は持っていない様だ。


「なる程、それでは仕方ありませんね。 せっかく来たのですから、お見舞いでもして行きましょうか。 お部屋へ案内してくれませんか?」


 すくっと立ち上がり女王様は城へと歩いて行く。 それに続き、王女様と僕達が続く。 門番も流石に武器までは向けず、その場を静観している。 門番とはいえ、大臣が対応する他国の客に手を出せないでいる。


「お、お待ちください、そこまでして頂く訳にはいきません!!  お風邪を移されては大変でしょう、本日はお帰りください!!」


 あんな外に放置して、こんな事を言うのかこの人は。 だがそんな事を気にする事なく女王様は進んで行く。


「心配せずとも、その位の事は覚悟しています。 ダラクライ様、さあご案内ください!!」


 案内しなさいと言いながら、真っ直ぐ先頭を進んで行く女王様。 行くべき場所は知っている様だ。 それなりにこの国の事も調べがついているのだろう。


「ちょ、ちょっとお待ちください!! ・・・・・このッ、待てと言っているだろうが、この偽物が!! 下手に出ておれば良い気になりおって、たかが影武者如きが何を偉そうに!! 止まらんか、この無礼者共めが!!」


 その言葉に黙っていなかったのはガーブルだった。


「貴様こそ何を言っておるか!! 誰に何を言われたのか知らぬが、このお方こそが正真正銘の王国の王、イモータル様であらせられるぞ!!」


「貴様こそ何を言っておる、ちゃんと調べは付いているのだぞ!! その男がキッパリと偽物だと言ったではないか、私を騙そうとしても無駄だからな!!」


 その男と言われた僕が指さされる。 そんな事を言った覚えは・・・・・言いました。 ああ、キッパリと影武者だと言いました。 あの門番、やっぱり上に知らせていたか。


「あ~、確かに言いましたけど~、あの話を鵜呑みにされたんですね。 ちなみにあれは嘘です。 王様が護衛もつれずに子ずれで居たら不味いでしょ? だからちょっとした嘘って事で・・・・・」


「つまりは・・・・・外で待たされたのも、こんな扱いをされているのも、全て貴様の所為ではないか!! そこへ直れ、叩き斬ってくれるわ!!」


 不味い、このままでは全部僕の所為にされそうだ。 僕は全力で言い訳を始めた。


「ガーブル殿、あれは仕方なかったでしょう。 ほら、女王様達がお二人で居るなんて知られる訳にはいかないでしょう? もし変な奴に狙われてたら如何するんですか、お二人を護る為には仕方無かったんですって。 それにあの場にはガーブル殿も居たではないですか!!」


「くッ、確かにワシもあの場におった・・・・・お前を止められなかったのはワシのミスだ。 こうなれば仕方がない、イバス、この場で自害して果てようではないか!! さあ首を出せ、先に楽にいかせてやろう!!」


 剣の柄に手を伸ばし、今にも剣を抜きそうだ。


「あわわわわわわ、ちょっと待って、待って、待って!!」


「止めなさいガーブル!! イバスさんも私達を護ろうとしてくれただけです。 これは不幸な事故、先ほどの事は気にしていませんし、それに他国の城で剣を抜くなど有ってはならない事ですよ!!」


「ハッ、女王様がそうおっしゃるのならば、私は気にしてはいません。」


 さっきまで激烈に怒っていたくせに、掌を返した様だ。 流石の忠誠心だ。


「な、本当に本物・・・・・なのですか。 なッ、何卒お許しを、本物だとは知らずご無礼を致しました、ど、どうぞお許しください!!」


 女王様が本物だと分かると、ダラクライさんが、ひたすら謝り倒している。 僕の嘘に騙されたあの人も大変だなぁ。 


「ダラクライ様、私は気にしてはいませんよ。 そんな事よりも早く案内をしていただけませんか? 今は時間が惜しいのです。」


「はっ!! 直ちにご案内いたします!!」


 ダラクライ大臣は僕達を案内してくれた、影武者じゃないと知ると、掌を返した様に大人しくなった。 自分より上の人間には逆らわないタイプの人らしい。


 開け放たれた扉がある、マリーヌ様はあの場所に居るだろうか?


 中を覗くと、マリーヌ様らしき人物が、書類に目を通し、筆でサインを書き込んでいってる。 僕はマリーヌ様の顔は知らないが、大臣の様子からすると、マリーヌ様に間違いなさそうだ。


 扉を叩き、ノックすると、マリーヌ様は此方の存在に気が付いた。


「あら? 貴方は・・・・・イモータル様ですか? 初めましてイモータル様、会合は明日だと思っていましたが・・・・・予定を間違えたかしら?」


「いいえ、マリーヌ様、今日はその事ではないのです。 実はご相談がありまして、昨日病院という施設で、私達の血肉を採取されました。 それを即刻回収して欲しいのです。」


「・・・・・病院に王国の者が運ばれてきたのは聞いていました。 しかし、それがイモータル様だったとは知らされていませんでした。 私は、イモータル様のお頼みは聞いてあげたいのですが、そう簡単には行かないと思います。 


 私は確かに王を名乗っていますが、全てが思い通りになる訳ではないのです。 医療ならば医療のトップに命を下す事は出来ますが、それを下の者が確実に遂行するとは限りません。


 書類が届いていないだの、忘れて居た等の言い訳は日常茶飯事で、例え取り戻せたとしても、それが何時になるのか分からないのです。」


「マリーヌ様、その苦悩は十分に分かっておりますとも。 マリーヌ様が大変なのも存じていますが、しかし今回だけは許容出来ません。 私だけではなく、娘のイブレーテの血肉を奪った、それが許せないのです。 この願いが叶わないのならば、それなりの手段で対応させてもらうしかないのです。」


「まさか、宣戦布告でもする気ですか? そんな事は許されませんよ。 私達の国に戦争を仕掛ければ、他の国が黙っておりません。 そうなれば貴方達を攻める口実にされるのではないでしょうか。 少し冷静になって、落ち着いて話し合いましょう。」


「戦争ですか・・・・・確かに多くの死者を出す事でしょうね。 しかしいざとなればそれも止む無しです。 ですがそれも最後の手段にしたいものです、如何かこの一回だけ、特例として認めてはくださいませんか?」


 話を聞く限り、本気で戦争をする積りは無いと思う。 たぶん、脅しとかそんな感じだろう。 とはいえ、このまま話がこじれて、本当に戦争になる可能性もあるか? そうなると僕も戦場にまっしぐらだ。 ちょとと口を出した方がいいかもしれない。


「あの、少し考えがあるのですが、話しても宜しいでしょうか?」


「何ですかイバスさん、良い手でもありましたか? もしそうならば発言を許可します。」


「はい女王様、この際盗み出してはどうでしょうか。 ただ無くなっただけならば、それ程重大な事にはならないのでは? 夜中にでも侵入して勝手に持ち出してしまいましょうよ。」


「そうですね、その手で行きましょうか。 それならマリーヌ様に、あまり迷惑を掛けずに済むかもしれません。 如何でしょうかマリーヌ様、私達に許可を願えないでしょうか?」


「はぁ、私に盗みの許可を出せと? 本来、医療材料の紛失は重大な問題ですが・・・・・分かりました、ある程度ならば警備に口を出せます、しかし絶対にそうなるとも限りませんよ? もし捕まりでもしたら、私には如何にもなりませんからね。」


「ええ、構いません、私達は強いですから。」


「あの・・・・・くれぐれも死者は出さないでくださいね。 警備の者達には何も罪は無いのですから。」


「ええ、承知いたしました。 ではマリーヌ様、今日の夜には行動させていただきます。 それではこの辺りで失礼いたしますわ。」


「ええ、成功する事を祈っておきます。」






 そして僕達は城を出て、予定していた宿へと向かった。



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