一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達60

 サタニアを乗せた馬車が走って行く、リーゼ達はそれを追い掛ける。 前を行く馬車は、リーゼ達の事を気付いているはずなのに、何の行動も起こさない。


「ちょ、ちょっとリーゼちゃん、良いのかこんな堂々と。 こんな場所で魔法でも使われたらとんでもない事になるぜ?」


「大丈夫よ、私達も変装しているし、彼奴だって此処に仕事しに来たんでしょ? あんな馬車に乗っちゃって、曲りなりにも交渉しに来た国で暴れたりしないわよ。」


「そっちは良いけど、手配されてたらどうするんだい? あんまりウロウロしていると捕まっちまうよ?」


「うっ・・・・まあ、その時はキーちゃんで逃げれば良いんじゃないかしら・・・・・」


「やりましたよキーちゃん、リーゼさんが名前で呼んでくれました!! これで仲間だと認めて貰えましたよ!!」


「マッドさん、黙って運転してください。 相手の興味がこっちに向いたらどうするんですか。」


 先程まで居た宿に到着すると、サタニア達は中に入って行く。 やはり同じ宿に泊まる様だ。 サタニアを入れて全部で十五人、一人一人がとても強そうだ。


「あの女が消えたら、受付で交渉してみましょうか。 上手く行ったらもう一度泊めてくれるかもしれないわ。」


 サタニア達はリーゼ達の事を気にもせず、宿の階段を上がって行く。 それを確認すると受付で交渉を開始した。


「お姉さん、さっきチェックアウトしたのを取り消せませんか? 実は急用が出来ちゃって、もう少し滞在したいのだけれど。」


「あ、はい、本来は禁止されているのですが、先程のお客様から、お客様方のお代も出すと言われていますので、この宿で良い部屋をご用意させていただきます。」


 変装をしていたが気付かれていた様だ。 何故代金を支払ってあるのか不思議だが、何か狙いでもあるのだろう。


「あわわわわ、もう完全にバレてるじゃないですか!! 如何するんですかリーゼさん!!」


「マッドさん落ち着いてください。 私達の事を気にもしないならその手に乗ってやろうじゃないですか。 私達を泊まらせた事を後悔させてあげます。」


「如何する気だリーゼ、一人でも手強いのに、あんな人数を相手にしていられないぞ?」


 サタニア一人に苦戦している様では、十五人全員を相手にする事はとても出来ない。


「大丈夫よ、今戦う気なんてないし。 サタニアが私達の代金を持ってくれるなら、徹底的に使ってやろうじゃないの。 お姉さん、この宿で一番高い料理をドンドン持って来て、支払いはさっきの女が払うわ!! 食べきれない程作って良いわよ、通行人にも御馳走するって言ってたし、あと今日泊ってる人の分もお金払うって言ってたわよ!!」


「リーゼちゃん、彼奴らが乗り込んで来ても知らないよ? まああれと戦うよりは良い手だけれど、随分とセコイ方法だねぇ。」


「いいのよ、どうせ戦っても勝ち目がないんなら、懐を寒くしてやるわ。 私達の事を甘く見た事を後悔させてやるから!!」


「俺、後悔のさせ方が間違ってる気がするけど・・・・・」


「リーゼのやりたい様にさせてやれ、それで気がすむのならそれで良いさ。」


 自分の部屋へと案内されると、そこには大量の料理が運ばれてきている。 ここのシェフ達も張り切ってる様だ。 リーゼは皿の一つを手に取り、指でソースを舐め、味見している。


「あ、これ美味しい、流石は高級料理ね。」


「こ、これはあああああああああ!! 私の腹の中にドンドン入って行きますよ!! もう美味くて止まりません!! はっ、まさかサタニアは私達の腹を破裂させる為に此処に泊まらせたのでは?!」


 マッドが口の中へと食べ物をドンドン放り込んでいる。


「自分の手を止めればいいだろ。 動けなくなるから、腹八分ぐらいで止めておきなよ?」


「うあ、俺こんな物食った事ないよ。 マッドじゃないけど、美味しくて食べ過ぎそうだよ。」


「サタニアにダメージを与えられて、美味しいなんて一石二鳥だわ。」


 バタンッ!!


 大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。 現れたのはサタニアとラムだったが、他の護衛の姿は見えない。


「貴方達、よくもこんな子供の様な事を、こんな程度の事をして面白いのですか?」


「ルキ様、この人達貧乏人なんですよ、こんな美味しい料理食べた事が無いから仕方ないでしょう。 ここは寛大な心で許してあげましょうよ。 あんな風に貪る貧乏人なんですし。」


 サタニアが見ているのは、未だに食べ続けているマッドの姿。 サタニアが現れても一心不乱に食べ続けている。


「私達が貧乏人ですって、モグモグ。 このぐらいの料理なんて何時も食べてるんですよ!! アグ、ング、プハァ!! リーゼさんの料理に比べれば、バクリ、ゴクン。 大した事などありませんよ!! ゲフゥ。」


「・・・・・そうですね、あんな変な格好までして、これは確かに貧乏人の様ですわ。 今回は許してあげますから、御存分にお食べなさいな。」


「貴方に言われなくても、もう存分に食べてますよ!! 私の胃袋が、貴方の懐にダメージを与えているのですよ、フハハハハ!!」


「・・・・・どうやらお忙しい様なので、お暇させていただきます。 それではご機嫌用。」


 サタニアは踵を返し、部屋をでようとしている。


「ま、待ちなさい、あの人は特別よ!! 私達をあんなのと一緒にしないで!! というか何で私達を此処に泊まらせたのよ、何か目的があるんじゃないの!!」


「あら、そうでしたわ。 貴方達、これ程の持て成しをしてあげたのですから、わたくしの手伝いをしなさい。 勿論断ってもいいのですよ。 その場合はわたくしの付き人として永久にこき使ってあげますわ。」 


 断ったなら、腕ずくでリーゼ達を従わせる気なのだろう、サタニアにはそれぐらいの力は十分にある。


「何それッ、どうやっても私達に断れないじゃないッ!! 私達に何をさせようって言うのよ!!」


「何も危険な事ではありません、ほんの少しこの国の事を知りたいだけですわ。 わたくし達が城に行ってる間に、この国を調べなさい。 それとも、また無様に逃げ続けますか?」


「くっ、分かったわよ、やれば良いんでしょ!! その代わり、あの魔族の事を教えなさい、知ってるんでしょ、あの風を操る魔族の事をッ!!」


「・・・・・良いでしょう、それで契約成立です。 ではすぐに行動なさい、それともまだ食べ足りないのですか?」 


「行けば良いんでしょ行けば!! マッドさんも何時までも食べてないで行きますよ!!」


「ちょ、まだ肉があああああ!! 私の肉がああああ!!」


「アンタどれだけ食べるんだい。 もう諦めるんだね、それとも一人で此処に残りたいのかい? あそこに居たら如何なるか分からないよ?」






 マッドはリサに後襟を掴まれ引きずられて行く。 余りにも傍若なサタニアの頼みを引き受けるしか無かった。



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