一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 女王探索

 イバスとガーブル殿は、ブリガンテ町の門へと到着した。 この国の首都ブリガンテの町、此処が今回の目的地なのだが、今は女王様達が居ないので、目的を達したとは言えない。


 この国には遠征をすると伝えてあったが、たった二人でこの場所に居るとなると、怪しさ萬斎だろうか? 


「む、止まれ止まれ!! お前達、その鎧からすると王国の兵士の様だが、お前達二人だけか? 他の者達は如何した? まさかお前達二人だけで来た訳ではあるまい、それとも何かトラブルか? ブリガンテは友好国だ、何かあったのなら言うが良い、手助けをするぞ。」


 門番は親切にも俺達を助けてくれるようだ。 ・・・・・本当に親切だけなら良いのだけれど、残念ながらそれ程優しい国はこの世界には無い。


 大きな国だからこそ、情報を求めている。 王国の情報を集め、それが使えるものなら使い、外交に使用される。 もしそれが王国が亡びる様なものならば、友好などではなく、属国として永久に傅かなければならない。


「うむ、実はな、此処に女王・・・・」


「ガーブル殿、此処は僕が説明しましょう。 あまり変な事を言ったら後で怒られますからね?」


 ガーブル殿が話し出しそうになるのを僕は止めた。 今二人がどんな状態なのか分からないし、他国の兵士にそんな事を教える必要はない。


「む、そうか? お主の言う事だ、此処は任せるとしようか。 では直ぐにお二人の居場所を聞き出してくれ。」


 お二人とか言っちゃったら、もうバレたも同然なんだけど? 何とか修正して立て直さなければ。 僕は、有りそうな事を並べて、門番と交渉する。


「あの、実はですね、此処に女と子供を連れた二人が来たでしょ? 実はあの人、女王様の影武者なんですが、ちょっとした事故で混乱しているようで、居場所を知っているのなら教えて欲しいのですが。 あ・・・・・これ上の人には言わないでくださいね。 影武者が遠征に来たなんて知られたら不味いですから。」


 誤魔化せたか? まあどうせ門番達は上へと報告をするだろう。 それが務めだし、そういう事を命じられている。 影武者だと知ったら、最悪命を狙われるなんて事は無いと思う。


「ふむ、確かに来たぞ、あの女は影武者だったか、道理で似ているはずだな。 確かに別の名を名乗っていたな。 確かミーシャとか言ったか? 魔物が闊歩するこんな情勢だ、影武者を使うのは仕方ないかもしれないな。」


「おお、ミーシャと名乗られたか!! 間違いない、お二人は此処へ来ているぞ!! イバス急いで聞き出すのだ!!」


 ガーブル殿、もうちょっと黙ってて。 ここでおかしな事を言ったら怪しまれるじゃないですか。


「え~っと、それで二人は何処に?」


「この町の病院に向かったぞ、場所は・・・・・」


 門番から病院の場所を聞き、僕達はその場所へと向かった。 病院という施設は王国には無い、大体の事は魔法で治してしまえるから、小さな療養所があるだけだ。 医学については、この国には到底及ばないだろう。


 そしてこの施設、パッと見ただけでかなりの大きさと分かる。 城並とはいかないが、それなりの領主の館ぐらいはあるかもしれない。 これだけの大きい施設を作るとなると、それだけこの国が、医療に力を入れている証拠だろう。 その施設に入り、受付に聞くと女王様の居る場所が分かる。 僕達は急ぎその部屋へと駆けつけた。


「イモータル様あああ、ご無事でございますかああああああ!!」


 ガーブル殿が大声を上げて部屋へと入って行く。 こんな大声を出したら、他の人にとても迷惑だろうに。 部屋の中には探していた二人の姿が見えた。 二人共元気そうだ。


「あ、ガーブルだ。」


「あらガーブル、良くここが分かりましたね? 私達は無事ですよ、他の人に迷惑になるので、あまり大きな声を出さないでくださいね。 合流出来たのは良かったですが、私は途轍もないミスを犯してしまいました。 治療の為とはいえ、私達の血肉を渡したのは痛いです。 もし、その事で王国が不利になってしまったら・・・・・」


「いいえイモータル様、それも含め我等のミスでございます。 私達が直ぐに発見出来ていればこんな事にはッ!! いや、そもそもイブレーテ様に誰も付けていなかったのがそもそものミス!! どうぞこの場で私達の首を切り、溜飲を下げてくださいませ!!」


「えっ?」


 思わず僕は声を上げてしまった。 駄目だこの人、忠誠心がありすぎて怖い。 せっかく二人を見つけたのに死ねだなんて、もう頭がおかしいんじゃないか? こんな事になるのならあの三人と居た方がましだった。 イブレーテ様も何だか怯えていらっしゃる。


「何をしているイバス、女王様が斬り安い様に頭を下げんか!!」


「いや、そんな事しても何も解決しませんって。 ガーブル殿、過ぎた事は仕方がないじゃないですか、そんな馬鹿な事しないで、次の手を考えましょうよ!!」


「ガーブル、ここは他国の地ですよ、こんな場所でそんな事を出来る訳がないでしょう? それにこれは私のミスでもあるのです、私の所為で仲間を殺すなど出来ませんよ。 さあ頭を上げてください。」


「おお、お許しが出たぞイバス、お優しいイモータル様に感謝する事だ。」


「あ、はい、アリガトウゴザイマシタ。」


 僕は女王様にお礼を言った。 僕達が助けに来たのに、何で僕がお礼を言うのだろう? 全くよく分からない。 分からないにしろ、言わなければガーブルに怒られる。 これは物凄く理不尽だ。


「そんな事は良いですから、代わりの服を持って来ては貰えませんか? 流石にこの病院服ではブリガンテの城へ出向けませんから。」


「はッ!! 直ちにお持ちいたします!!」


 ガーブルが走り部屋を飛び出して行った。 余りの速さで飛び出したガーブルに、ついて行くタイミングを逃し、僕はその場で立ちつくした。 ハッと気が付きその部屋を出ようとしたが、女王様に呼び止められた。


「ああ、イバスさんでしたわね? 貴方の噂は聞いていますよ。 地下洞窟で軍を指揮したそうではないですか。 まだ兵士に成ったばかりだというのに、物凄い活躍ですね。」


「いえ、出来る事をしただけです。 兵の皆が頑張ってくれたから出来ただけで、大した事は出来ませんでした。 それに僕の指揮で何人も死人が出て、僕にはあの仕事は向いていないと思います。」


「そう卑下ひげする事もありませんよ、私も聞いただけですが、物凄い相手だったそうじゃありませんか。 貴方が居たからこそ、あれだけの人数が生き残これたのです。 さあ顔を上げて、これからも王国の為に頑張ってくださいね。」


 ニッコリと優しい笑顔を向ける女王様。 優しく、綺麗で、あの三人とは比べ物にならない。 責任だとか結婚だとか言わなそうだし、王様の妻でさえなければ、女王様が良かったです。 こんな事考えてるとしられたらガーブルに殺されそうだ、なるべく考えない様にしよう。


「はい、女王様、有り難うございます!!」


「そうだわイバスさん、この子の面倒を見ていてくれませんか? 本来、この子の為の遠征でしたが、そうも言ってられなくなりました。 如何でしょうか、頼めませんか?」


「はい、勿論お引き受けいたします!! では兵士イバス、王女イブレーテ様を護衛いたします!!」


「ええ、イバスさんお任せします。 イブ、ちゃんとイバスさんの言う事を聞くのですよ。 勝手に何処かへ行ったりしたら駄目ですからね。」


「分かりましたお母さん、私、ちゃんと大人しくしているね。」






 僕はイブレーテ様の護衛に就く。 そして、今後は出来る限りガーブルに関わるのは止めようと思った。 



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