一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

44 王道を行く者達59

 リーゼ達は馬車から降り、レイスという門番に案内してもらっていた。 レイスと呼ばれた門番の男、鎧に身を包み、あまりよく分からないが、しっかりとした体つきに温厚そうな顔付きをしている。 案内だと言われたが、見張りの意味も兼ねているのだろうか?


「侵入できたけど、如何するんだ? あの人が付いていたら動き回れないぜ?」


 ラフィールがリーゼに耳打ちしている。


「案内してくれるならその方が早いわよ、ついでに商店の場所も案内してもらいましょうか。」


「あ、皆さん、宿は此処ですよ。 支払いは要りませんので、どうぞゆっくりとごくつろぎください。」


 レイスの案内した宿はとても立派で、普段リーゼ達が泊っている宿とはあまりにも違っていた。 此処に泊まっていれば、後から来るという王国の使者と鉢合わせしてしまう。 ボロが出ない内に、急いで脱出した方が良いだろう。


「レイスさん、また外に出るのは面倒だから、今の内に買い出しを済ませておきたいわ。 何処かいいお店はあるかしら? 出来ればあまり高くない所がいいのだけれど。」


「あ、はい。 私が案内いたしますよ。 付いて来てください、どうぞ此方です。」


 ブリガンテの町は平和だった、町を行く人達は明るく、魔物の襲撃に怯えている様には見えない。 町に魔族が歩いているという訳でもなく、賑やかな普通の町だ。 変わった所と言えば、こんなヒヨコ?が歩いていても、特に気にしない所だろうか。 それを見る限り、本当に魔族と交流があるのかもしれない。


「さあどうぞ、この通り全てが商店になっています。 王国からの品もちゃんと並べられていますので、安心してください。 それなりに高くは売らせてもらっていますけどね。」


 宿から近い場所にあった商店街、そこには様々な物が売られている。 食べ物から武器まで、様々な店が並んでいた。 値段の高い店も見かけられたが、殆どが良心的な価格になっている。


「じゃあラルは食料を探してきて、サリーは道具をお願いね。 私達は他に良い物がないか見回ってるわ。 もし迷ったら宿に来てね。」


 ラルとサリーは偽名として決めておいたものだった。 殆ど変わっていないが、ラフィールとリサの事だ。


「じゃあちょっと探してくるよ。」


「私は道具だね、直ぐに行って来るよ。」


 レイスは慌てる様子もない。 見張っている訳ではない様だ。 他に誰かが見張って居るのだろうか? 他国の使者、それも魔族ならば、それなりに警戒しても良いはずだが。 


 暫くして二人が戻って来ていた。 食料や道具を馬車へと詰め込み、何時でも逃げられる準備は出来た様だ。 そのまま宿へ行き、レイスによりチェックインが行われた。


「それでは、私は明日の朝来ますので、今日はこれで失礼しますね。」


「ええ、でも私達もうすぐこの国を出るのよ。 明日には居ないと思うわよ?」


「そうですか、それならそれで良いですよ。 それまではどうぞこの宿でお寛ぎください。 では私はこれで失礼します。」


 一人一部屋があてがわれたが、リーゼはそれを拒否し、一つの部屋を取った。 そして今その部屋に五人が集まっている。


「道具も買ったし、今回はこれで国を出ましょうか。 色々気になる事はあるけど、魔族と鉢合わせても厄介だしね。」


「リーゼちゃんなら、戦うかと思ったよ。 逃げるならそれで良いよ、こんな町中で戦える相手じゃないからねぇ。」


「それなりの人数が来るんでしょ? そんな奴等と戦っていられないわ。 それに私は魔族を倒したい訳じゃないからね。 私が倒したいのはたった二体だけよ!!」


「それじゃあ俺達は、馬車に荷物を積み込んでくるよ。 直ぐに出るつもりなんだろ?」


「そうね、調べたい事は有ったんだけど、しょうがないわ。 魔族が到着する前に退散しましょう。 マッドさん、あの鳥で脱出するわ、お願いできるわよね?」 


「はい、何時でも行けますよ!! それと鳥ではなくキーちゃんです。 ちゃんと名前で呼んでください、キーちゃんだってもう仲間なんですから!!」


「マッド、あんなものの餌代は払えないと言っただろう。 手持ちもそれほど無いんだ、脱出したら野にはなしてやれ。」


「大丈夫です、私にはヘソクリがありますので!! 餌代は全て私が支払います、ですのでキーちゃんを一緒に連れていてください!!」


「それなら別に構わないが、お前そんな金を持っているのか? お前の金が無くなっても俺達は出せる様な金はないぞ。」


「ふふふ、心配しないでください、さあこの輝きを見なさい!! これがあればどれ程の餌代だろうが払う事が出来ます!! ふっふっふ、凄いでしょう、私は結構お金持ちなんですよ!!」 


 マッドが懐から取り出した宝石は、赤く輝く大きなルビー・・・・・ではない。 赤く輝くダイヤモンドだった。 15センチはありそうなそれは、綺麗にカットされ、美し輝きを放っている。


「そういえば教会から盗んできたと言っていたわね。 ・・・・・でもこんな物売ったら足が付くわよ? きっと掴まって首をはねられるでしょうね。 マッドさん、それを使ったら死ぬわよ。」


「えええええええええ、それは困ります!! じゃあキーちゃんの餌代は如何すれば!! こうなったら私の熟れた肉体でも売って稼ぐしか!! ああ、神様、禁忌に反する事をお許しください、これもキーちゃんの為なんです。 さあ、リーゼさん、私の体を好きにしていいですので、餌代を、餌代をおおおおおお!!」


 マッドが来ている服を脱ぎ始め、ベットに横になっている。


「そんなもの絶対要りません!! 凄く勿体ないけど、それを細かく砕いて売っちゃうしかないでしょうね。 じゃあ貸してください、この剣なら斬れると思いますんで。」


「ふぁい!!」


 マッドがリーゼに投げ渡すと、それをリーゼが空中で二つに断ち切った。 十、二十と繰り返し、それが細かな破片になっていった。 しかしその細かな破片ですら、とんでもない額になる。 レッドダイヤモンドとはそれ程の価値があるものだ。 リーゼはほんの一欠けらを手に取り、それを餌代に使う事でキーの存在を許した。


「よし、脱出するぞ。 他の魔族が来る前に急ぐぞ!!」


「ええ、急ぎましょう!!」


 リーゼ達が馬車に乗り込み、門の前まで急ぐと、門の外からやって来る馬車が見えた。 空を飛ぶ護衛達、地上を行く屈強な兵士。 そして、馬車の中には四人が乗り込んでいる。 その中には知っている顔が見えた。 門の手前、その馬車とすれ違うと、乗っている人物と目が合った。 逃げて行くリーゼを笑い、町の奥へと進んで行った。


「サタニアッ、こんな所で会うなんて!! 逃げるのは中止よ、何をするのか確かめてやるわ!!」






 リーゼはマッドに指示を出し、来た道を引き返して行った。



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