一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

42 相容れない二人

 地下空洞の入り口は塞がれ、もうその先の様子は見えない。


「ッ・・・ハッ・・・・・ギリギリだったぜ。 もしかしてイバス軍師がやってくれたのか? 中々やるじゃねぇか。 土竜の事も気になるが・・・・・此処からじゃ分からねぇか。 まずは地上へ出ねぇとな、急いで上に向かうとするか。」


 掘り起こされた道を進み、拠点として使った広場を上がる。 朽ちた教会を抜け、大空へと飛び上がった。


「さぁて、穴は何処だ?」


 右へと振り向くと、直ぐにそれが見えた。 大きな穴が開き、その周りに兵士が集まっている。 そしてその穴の上空に三人女性の姿が見えた。 見知った顔だ、あそこに居るという事は、天井を崩落させたのはあの三人かもしれないな。


「ああ、あいつ等か、一応助かったし、礼でも言っとくか? いや、それは後で良いか、それより土竜はどうなった? あんな物をくらったら、いくらあの大きさだとしても無事だとは思えねぇが。」


 大穴へと近づき、その中を覗く。 そこには、立ったままで動かなくなってる土竜の姿があった。まだピクピクと腕が動いて、まだ息がある様だ。


「あらあら、どうやらあの程度では死ななかったようですね。 流石にしぶといですわね、ちゃんと殺すには熱湯でも掛けるべきでしょうか。」


「お姉様、やっぱりこれを殺すには直接手をくだすしかない様ですね!! 今この場でやってやりましょうか!!」


「おい!! せっかく礼でも言おうと思ったいたのに、お前等ちょっと教育でもしてやろうか!!」


「礼? あら、そうですわね。 わたくしが命を救ってやったのです、命の恩人たる わたくしに跪きなさい。 気が向いたなら椅子にでもしてあげますわよ?」


「誰が椅子なんかに!! ・・・・・ッ!! おい!! 奴が動き出したぞ、次の作戦は如何なっている、火矢を放つんじゃなかったのか!!」


「ふん、慌てずとも作戦は進行中です、貴方が心配する事じゃありませんわ。 ほら、来ましたわよ、あれこそ勝利の鍵ですわよ。」


 レアスが見た先を見ると、地下で一緒だったもう一つの部隊が何かを持って来ている。 四角い入れ物を吊るしながら、此方へとやって来た。


「何か持って来た様だが、何だありゃ? あれを使うのか?」


「見ていれば分かりますわ、貴方は邪魔だから消えてもらえませんか? それとも、わたくしの美しさにでも目を奪われまして?」


「誰がそんな事になるか!! チッ、まあお前等に任せるさ、俺は降りとくから、精々上手くやるんだな。」


 レアスが此方を見ずに、邪魔者を払うように手を振り、俺を追い払う。 俺は地上に降り、あの三人に任せる事にした。 




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 レアス達のの元へ、四角い入れ物が運ばれた。 その中にはなみなみと油が注がれていて、これからそれを投げ掛ける様だ。


「お持ちしました、ではお願いします。」


「・・・・・うん。」


 エルの手でそれに火を付け、燃える油が土竜の上空から降り注ぐ。 気絶していた巨大土竜に油が付着し、その皮膚が燃え上がった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 熱さに耐えかね、気絶から目を覚ますと、体をねじらせ呻いている。 その体の体毛が焼け落ち、まだらに地肌が見え始めた。


「さあ皆さん、ここからが本番ですわよ、あの大きな物体を、焼き殺してあげなさい!!」


「「「「「オオオオオオオオオ!!」」」」」


 レアスの号令で一斉に矢が放たれた。 三百六十度からの攻撃に、土竜は避ける事も出来ず、ただ腕を振り回している。 兵士達が矢を撃ち尽くし、その体には無数の矢が突き刺さっている。 しかしそれでもこの巨大な土竜には、小さな針が刺さって痛いぐらいにしか感じられていないだろう。 これを倒すにはまだまだ足りていない。


「随分と頑丈ですこと、やはり直接叩き潰すのが一番ですわね!! お二人共、行きますわよ!!」


「はいお姉様!! 直ぐに叩き潰してみせます!!」


「・・・・・行くよ!!」


 三人がバラバラに旋回し、土竜へと攻撃を仕掛けた。 黒き魔法、炎による斬撃、大槌による強打。 そしてそれを合図とし、他の兵士達も魔法による攻撃を仕掛け始めた。 炎、水、風、そして土、様々な魔法が飛び交い、土竜へと飛んで行く。


 遠距離の攻撃だけではない、空を飛べる者達が、一斉に土竜へと飛び掛かり、攻撃を仕掛けて行く。 その中でも一番最初に攻撃を仕掛ける者は、黒き弾丸の如きべノムだった。


 べノムによる最速の一撃が巨大土竜の胸へと突き刺さった。 ザシュッと土竜の体を斬り裂き、土竜の血が流れ落ちる。


「攻撃が効くのなら、おもうテメェに勝ち目はねぇぜえええええええええッ!!」


 ザシュッ、ザザザザザザザシュン!!


 土竜の腹に右手を振って一撃。 その腕を斬り戻し一撃。 その反動での左の一撃。 体を回転させて縦の一撃。 更に回ってもう一撃。 そのまま地面まで滑り、地面を蹴って上昇する一撃。 首元への両腕を使った連撃の二撃。 計八もの攻撃が、巨大土竜の体を斬り刻む。


「あいつ、わたくし達より目立って!! さあもっと派手に行きますわ!!」


・・・・・黒鉄よ・・・彼の者に・・・力を・・・与え・・・たまえ・・・・・


「ダーク・ストレングス。」


 ルルムムの大槌に黒色の力が宿る。 強度の上がった槌の一撃は、土竜の頭にぶつかると、轟音を立て、土竜の頭を凹ませる。 エルの炎は土竜の傷を更に焼き上げ、その痛みで土竜を暴れさせている。


「さあ、わたくしの番ですわ。 深淵の闇の一撃を与えましょう。」


・・・・・熱き血よ・・・燃える血潮よ・・・全て纏めて・・・吸い尽くせ・・・


「ブラッディアス・アッシュ!!」


 レアスの全魔力を込めた魔法が放たれる。 土竜の半分程もある球体が現れた。 重力を持つ様に土竜を引き寄せようとしているが、土竜は体を踏ん張らせ、耐えている。 だが傷ついた体から、血液を吸い上げ、球体がドンドンと大きくなり、土竜の体を包み込む。


「ギュロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 レアスの魔法が終わるが、まだ土竜は生きていた。 力を使い、疲れ果てたレアスへ、巨大な腕が振り回された。


「ッ躱せない!! こんな所でわたくしがッ!! いやあああああああああ!!」


 レアスに迫る大きな腕が、その体を捉える前に、黒き弾丸がレアスの体を掴んだ。


「一応助けられたからな、これで貸し借り無しだぜ。」


「余計な事をッ!! こんな男に助けられるとは、わたくしのプライドが許しませんわ!! フンッ!!」


 レアスの拳がべノムの腹へと突き刺さる。


「うごあッ!! 助けられて殴るのかよ!! コノヤ・・・・・・?!」


 レアスが、べノムの腕を引き寄せ、その口に唇を重ねた。


「????!!なな、何のつもりだこりゃ、気でも狂ったのかよ!!」


「勘違いするなゴミクズが、貴様に唇を捧げたのは、わたくしにとって、それ程重大な事だったというだけの話、これで命の借りは返しました。 ですので、貴様を遠慮なく殺し尽くせますわ!!」


「い、今は戦闘中だ、後にしろ後に!! いや、やっぱり後も止めてくれ、出来ればもう俺に近寄るな、兎に角今は土竜をやれよ、土竜をよぉ!! うおおおおおお!!」


 悔し涙を流しながら、レアスはべノムに襲い掛かる。


 その背後から、ドゴーンという音と共に、大きな土竜が地面に崩れた。 ルルムムによって凹まされた頭に、エルの剣が突き刺さっている。


「さあ、邪魔者も居なくなりました、殺し合いを再開しようじゃありませんか!!」


「泣いてる女の相手なんてしていられるか!! 俺は逃げるぞおおおおおおおおお!!」






 大土竜の死と共に、べノムはレアスから逃げ出した。



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