一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

33 出陣前

 べノム率いる空軍、第一部隊、ルルムム、エル、そしてレアスという四人で戦う事となる。
 べノムは別の隊を早々に組まされてしまい、しかたなく組まざるをえなかった。
 だがその実力は相当なものになり、四人は出陣の合図を待っている。


「あら、また貴方がいらっしゃるの? わたくし達三人で十分ですので、もう消えて貰っても結構ですよ? 目障りですので、早く見えない所へ行ってくださらない?」


「うるせぇ、決まったものは仕方が無いだろうが! 黙って合図を待ってろよ! お前はあれか? 口を開くと文句しか出ねぇのか? もうその口縫い付けてやろうか!」


「レアスお姉様、礼儀のなっていない黒いのなんて私がぶん殴ってあげましょうか。こんなに口の悪い人が隊長なんて認められません。やっぱりお姉さまが隊を仕切るべきです!」


「ルル、ぶん殴るだなんて、言い方が悪いですわ。ゴキブリは叩き潰すのがよろしいのよ?」


「はい! 叩き潰してあげます!」


「…………まっ……さつ?」


 三人がべノムを見つめている。
 その瞳は獲物を見つめる様だ。


「おいコラ、こっちに剣を向けるな! ああ此処には俺の敵しか居ねぇのかよ! あ~、早く合図をくれよ、もうこんな奴等相手にしてられるか!」 


 横にいたもう一つの部隊。


「良かったな、あの隊に入らなくて。そうそうに隊を組んで正解だったな」


「ああ、あそこは隊長しか無理だ。俺達は仲良くやって行こうぜ」


「私達四人は何時も一緒なんだから、これからだって一緒よ」


「隊長の所になんて負けないわよ! さあ私達四人の力を見せてあげましょう!」


 べノムは羨ましそうに、その隊を見ていた。


「これから戦いが始まるんだぞ、あそこまでしろとは言わんが、もうちょっと仲良くやろうぜ。まあ俺も、ほんの少し悪い所があったかもしれんから謝る。だから今回だけは仲良くしようぜ」


「何を言ってるんです? わたくし達三人はとっても仲良しなんですから、貴方が合わせれば良いんじゃなくって? そうですねぇ、まあそこまで言うのなら、お情けで仲良くしようじゃありませんか。では肩でも揉んで……ああ、やっぱり要りませんわ。貴方に肩なんて触られたくありませんから」


「こいつ、こんな時じゃなければ、ぶん殴ってやれたものを! 早く合図を寄越せ、早く!」


 べノムが合図を待っていると、伝令兵が駆け足でやって来た。


「伝令! イバス軍師殿より伝令! 直ちに戦闘を開始し、前戦力を殲滅しろとの事です。以上で伝令終わります!」


「いよっしゃあああああああああああ! やっと戦闘だぜ! 行くぞお前等、遅れるんじゃねぇぞ! 数が少ないからって、地上の部隊に負けるなよ!」


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」




 嬉しそうにべノムが先頭に立ち、飛び立って行く。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 地上部隊出撃前。
 歩兵六十八人が遺跡の広場で合図を待っている。
 その部隊には番号が振り分けられ、一番隊から順に出撃し、戦闘を開始したら二部隊が辺りの探索をする予定だ。
 アツシとストリーは四番隊に振り分けられ、他に居たのはダルタリオンと、グルーという男だった。
 ダルタリオンは五十を超えそうな歳の男。
 髭は綺麗に剃られ、年期の入った、鎧兜を装着している。
 今持っている剣は、盾と見間違える程の広い幅の剣である。
 実際盾としても使うのかもしれない。


 もう一人、グルーという男、あまり強そうには見えず、剣と盾を持ち、ぱっと見で兵士という様な恰好をしている。


「何だか見た事がある奴だな。何処かで会った気がするぞ」


「アツシ、帝国に行った時に一緒に護衛しただろう? 顔ぐらい覚えていろよ」


「あのなストリー、あの時は自分の身を護る事に必死だったから、周りの事なんて見えて無かったんだよ! 近くにおっさんが居たとしても、直ぐ記憶から削除しているわ!」


「分かった分かった。兎に角挨拶しろ。あの方は昔、この国の軍団長をしていた事もある猛者だぞ」


「昔だろ? まあそこそこ迫力はあるけど、今は落ちぶれて、ただの兵隊じゃないか。まあ精々死なない様にフォローしてやるさ」 


「おいこら小僧、今何か聞き捨てならない事を言ったな? わしにフォローしてもらうの間違いじゃないのか。何なら、今試してやってもいいんだぞ?」


 ギラリと光る眼力に押されるアツシ。
 その圧力に負け、普通に謝った。


「わ、悪かったよ。ちょっと調子に乗ってただけだって……ご、ごめんなさい!」


「ダルタリオン殿、アツシを許してあげてください。大規模な戦場に緊張していただけなのです。私の顔に免じて、どうぞお許しを」


「ガハハハハ、謝られたならまあ良いわ! この程度の事で、何時までも怒る事もないわい。まあよろしく頼むぞ。おいグルー、ほれ、お前も挨拶せんかい!」


「先輩、よ、宜しくお願いします。今日が初めての実践なんですが、ちょっと緊張してしまって。足を引っ張らない様に努力します」


「おっ、お前は初めてなのか? 大丈夫だ、俺に任せておけばフォローしてやる。安心してついて来い!」


「おいアツシ、幼気な新兵に変な事を吹き込むなよ? おかしな事になったら、お前に責任を取ってもらうからな?」


「待ってくれ。俺が何時おかしな事を言った? 俺みたいな普通の男に関わっても、害なんて一つもないぞ」


「ほう? お前が今まで何もしなかったと?」


「…………そう大した事は……シテナイトオモウヨ」


「お前が今まで…………!」


「聞け皆の者、伝令だ! イバス軍師より伝令だ! 直ちに戦闘を開始し、敵戦力を殲滅しろとの事だ。見えるもの、隠れているもの、全て殲滅しろ。以上だ!」


 先頭に立つ女が大声で指示を出す。


「行くわよ皆、私に続きなさい。上の部隊なんかに負けるんじゃないわよー、さあ出陣よ!」


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」


 番号が振られた部隊の順に、敵の巣へと進軍して行く。
 あの声を発した女は、先頭を走り、一番巨大な敵へと向かって行った。
 第二部隊、第三部隊と続き、いよいよアツシ達の番。


「今まで結構な修羅場を切り抜けて来た俺の力を見せてやるぜ! 人数も多いし、こんだけ居れば楽勝だぜ。さあ行くぜ!」


「アツシ、余り先行するなよ? 踏み潰されたら、蘇生なんて出来ないからな」


 第四部隊、アツシの居る隊が動き出し、敵の巣への入り口の手前。
 アツシの目の前で、いきなり第三部隊の二人が踏みつぶされ、グチャグチャになった死体が散乱している。


「…………か、帰りたい」


「今更無理だ。諦めて死中に活を見いだせい。ほれ、敵の攻撃が止んだぞ。今じゃ、進めい!」


「観念しろアツシ、此処からが本番だぞ!」


「嫌だああああ、帰るうううううううううう!」






 アツシはストリーに無理やり引きずられ、戦場に立った。
 戦闘は始まっていて、第一、第二が戦っている。
 アツシ達はそれに参戦して戦いを始めるのだった。



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