一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 土竜との戦い

 大きな土竜もぐらは埋まっているが、その体を捻って、埋まっている体を自由に動かし、素早く腕を振り回している。
 穴を掘る為の爪も大きく、その攻撃範囲はかなり広い。
 三人の攻撃も当たってはいるが、分厚い脂肪に弾かれ、余りダメージは与えられていない。


「アクア・スライサー!」


 アスメライの魔法は土竜もぐらに当たるが、ぶつかると、傷を付ける事もなく弾け散る。
 斬撃に耐性でもあるんだろうか?


 僕達が使えるのは殆どが剣で、アスメライの魔法が効かないとなると、レーレさんの針が頼りだ。 だが、あんな素早い攻撃の中で、針の一撃を注入するのは難しいだろう。


「やっぱり駄目ね、魔法は効果が薄いのかしら? 良し、他の魔法を試してみるか……というかあんた達、早く行きなさいよ。さっき行くぞとか言ってたじゃないのよ!」


「うん、行こうとは思ったんだ。実際途中までは走って行ったし。でもあんなにブンブン腕を振り回されたら、俺達の実力じゃ行けないだろ。あんな中に行ったら、一発で死ぬぞ!」


「そうだよ、無駄に死にたくないもん。行った瞬間あの爪に引き裂かれて死んでしまうよ! そんな無駄死にするぐらいなら後に下がっていた方が良いじゃないか! ・・・・・いや、待ってくれアツシ、僕達にもまだできる事があったぞ。此処で二人を応援しよう、きっと僕達の声が二人の力になるはずだ!」


「そうだな、俺達が出来るのはその位しかないからな。頑張れレエリメス! 良しそこだ、やってやれレーレ!」


「あんた達ッ……もういいから一回死んで来なさい!」


 僕達は背中を蹴られ、前へと押し出された。


「おうわッ、あッぶぬをああ!」


「ぬぐあ、だが蹴られても、あんな所行けるかよ!」


「分かってるわよ、うるさいし、邪魔だったから蹴っただけよ。何も出来ないのなら黙ってみていなさい!」


 さてと、本当に如何するか……この戦闘で僕の出番はない。
 今僕に出来る事は、頭を使って考える事だけだ。


 この洞窟はそこそこ広いとは言え、土竜の腕は、その広さ全てをカバーしてしまっている。
 僕にはあの連撃の中を戦えるスキルはない。
 あの土竜もぐらも、あの速度で腕を振って、息が切れないとは恐ろしい。


 相手の体力が切れるのを待てれば良いのだが、それはエリメスさん達も同じだ、先に疲れが来たなら、攻撃を貰ってしまう。
 あの一撃を貰えば、九割方死ぬ。
 せめてこんな場所じゃなければやり様はあるのだけれど…………兎に角観察を続けよう。


 二人の攻撃も何度か当たっているが、弱点らしいものは見られず、魔法まで効果がないとすると、倒せる方法はないかもしれない。
 此処は一度戻って、仲間を募るべきか?
 一応この土竜との戦闘は救いがある。
 相手は動けない為、逃げるのは簡単に出来るのだ。


 ん? そういえば、あの埋まってる下は如何なっているんだろう?
 もしかして何か弱点があるから隠しているのか?
 可能性はある…………か?


「アスメライ、ちょっと頼みがあるんだ。手を貸してくれないか?」


「何よ、変な事じゃないでしょうね? まず何をさせたいのか言ってみなさい。くだらない事だったらぶん殴るからね」


「土竜の土に隠れた下半身を攻撃してみて欲しいんだ。魔法で何か出来ないかな? もしかしたら弱点だから隠しているんじゃないかと思うんだけど」


「やっと真面な事を考えたのね。たぶん出来るわ、ただ私は土の魔法は余り得意じゃないの、威力はそこまで出ないわよ。それでいいの?」


「うん、それで良いよ。今の所他に思いつく事はないし、駄目ならまた何か考える」


「分かったわ、じゃあそこで私の活躍を見ていなさい。じゃあやるわよッ」


 アスメライは一つ息を吐き、集中して魔法を唱え始めた。


 …………大地よ……流動し……猛り狂え……そして……その力を解放しろッ!


「アース・スタンプ!」


 土竜が埋まっていた地面が、強制的に盛り上がる。
 そしてそのまま体を持ち上げ、空へと打ち上げた。
 しかし此処にあるのは洞窟の天井で、土竜はそのまま天井にぶつかり、頭を打ち付けた。
 穴の開いていた地面は平らに固定され、土竜の体の全体が見える。


 その体に釣り合わない足、足首から先しか無い様なそんな足だった。
 あれでは走る事も出来ないだろう。
 弱点といえば弱点だが、それは今までと変わらない。
 変わった所といえば、土竜の頭が先ほどより高くなったぐらいだろう。


 ん? いやそれだけじゃない様だ。
 相変わらずダメージは与えられないが、土竜の手は洞窟の天井や壁に当たり、少しだけ動きを鈍らせている。
 だがそれも長くは続かないだろう。
 土竜がこの洞窟を掘ったのだから、その分洞窟が広がって行くだけだ。
 今の内なら……僕も前に行けるか?
 だけど攻撃が当たっても、ダメージが与えられないんじゃ如何にも…………


「アツシ、僕にはどうやったって傷を付けられないんだ。またその剣を貸してくれよ」


 昨日は疲れすぎて、剣を渡すのをすっかり忘れていた。
 それでも今になってみれば丁度良い。
 …………それともエリメスさんが持っていたら、もう土竜は倒していたり?


「行くのかイバス? ほら、剣を受け取れよ。 …………はぁ、お前が行くのなら俺も行かないとな。一応俺達相棒だもんな。 …………おし、覚悟を決めた! 今度こそ行ってやるぜ!」


「「突撃だああああああああああああああ!」」


 上から来る攻撃を左右に躱し、僕達は土竜の元へとたどり着いた。


 良し、今なら何とか躱す事が出来る。
 僕は腕の付け根に剣を振り付けた。
 ギャンッっと鋼鉄の様な手ごたえと共に、剣を握る手に痺れが残る。


 ぐぅ、この剣でも駄目となると、アツシの方も似た様なものか…………
 目や鼻もガードが固く、狙えそうもない。
 これは本格的に無理そうだ。


 …………でも、無敵の生物なんて居ないんだ、今は情報を集めないと。
 まずは頭に攻撃を仕掛ける。
 その攻撃は弾かれた。
 有るのか無いのか分からない首。
 此方も同じ。
 腕、も駄目。
 体、は問題外。


 何で弾かれるんだ?
 あの体毛が駄目なのか? 水の魔法は効かなかった。
 土はよく分からない。
 風は斬撃系統で、アスメライが使っていた水が効かないのなら同じだろう。
 いっそ燃やしてみるか?
 …………だが炎の魔法は使えない。


 いや、魔法なんて使わなくても、道具は持っているじゃないか。
 遠出には必須の火打石に、火付け用の油も少し手持ちにある。
 後は、何か松明の様な。
 チラリとアスメライの持っている物を見る。
 あれが丁度良い、あの杖を使えば松明の代わりに出来る。
 他には何も無いしそれで行こう。


「アツシ、僕は一度下がる。少しだけ待っていてくれないか!」


「お前! 逃げる気……じゃない様だな。一分で戻って来い、俺はそんなに持たないぞ!」


「ああ、頼んだ、待っていてくれ」


 タイミングを見計らい、アスメライの元へと逃げ帰る。
 そこで僕は道具から火打石と小さな毛玉、そして油を取り出し、アスメライの杖を貸してくれる様に頼んだ。


「アスメライ、悪いけどその杖貸してくれ。頼む」


「何に使うのよ? 私の魔法は効かないし、良いけど。 …………ほら、持って行きなさい」 


「ありがとう」


 僕は杖の先端に油を付け、火打石で毛玉に火を付けると、それを杖に移し替えた。


「ああああああああ、私の杖に何てことするのよ! 新しい杖買って貰うからね!」 


「ごめん、文句は後で聞くよ!」


 剣を鞘に収め、僕は杖の松明と油を持って前線に向かった。
 残りの油はカップに二杯程度だが、それだけあれば十分だ。


 敵の攻撃を躱し、その体へと油を投げ付ける。
 バシャっと油が土竜に掛かり、僕はそこに松明を押し付けた。
 掛けた油に炎が燃え移り、土竜の毛を焼いて行く。


「ビャアアアアアアアアアアア!」


 土竜の腹の毛が燃え落ち、白っぽい肌が見える。
 僕は杖を投げ捨て、鞘から剣を抜いてそのまま腹へと斬り付けた!!


 ザシュッ!!


 剣は土竜の腹を斬り裂き、その血が空中に舞う。


「弱点はッ、此処だ!」








 僕の攻撃、二発目は届かなかったが、エリメスさん、レーレさん、そしてアツシの攻撃が土竜の腹を抉り、土竜は、グラりと崩れる様に、倒れ落ちた。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く