一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

24 王道を行く者達54

 パン屋をしている店の親父ダイギン、レストランを営むバイセー、農家の奥さんフィアンヌ。
 他にも何人か、剣や斧、果てにはくわを持ち、出発の準備をしている。
 リーゼ達を入れて十二人、これだけ居ても足りないとなると、相当数が多いのだろう。


「ねぇ、大丈夫なの? おじさん達本当に戦えるのよね? 烏合の衆だったら邪魔になるだけよ」


「安心しろ、全員それなりに強いぞ。魔物が出て来てから戦い続けて来た猛者達だ。俺がこの村に来てから、戦い方を教えてやったんだが、リーゼ、お前より強い奴も居るだろうな」


「ええ、そんなに強いの? ちっとも気付かなかったわ。でもあんなくわで本当に戦えるのかしら。何だかちょっと心配だわ」


「農作業をしている時にでも戦える様にって事らしいが、あれでも村での対人戦は勝ち越しているらしいぞ。俺も何度か戦ったが、負けた事もある」


「えっ、ハガン負けたの? はぁ鍬って強いのかしら? あんまり持って戦いたいとは思わないけれど。一本持っておいた方が良いのかしらね?」


「止めて置け、彼奴も何年も掛かって戦える様になったんだ、一夕一朝いっせきいっちょうで使える物じゃないぞ」


「そうよね、あんまり恰好付かないし、この剣で十分よね。あっと、動き始めたわよ」


「はい、皆さん此方ですよ、迷わない様に付いて来てくださいね」


 剣を持つパン屋ダイギンが先頭を進みだした。


「何だか遠足の様なノリだねぇ、こんなので本当に良いのかい? 強いと言われてもちょっと心配だねぇ」


「う~ん、私も信じられないわ。今までの印象が強くて、実際に戦ってる所を見ないと駄目ね。言葉だけじゃ信じられないもの」


「おっと、見てください。あれなんじゃないですか? 小さな人の様な…………武器の様な物まで持っていますよ」


 マッドが発見した魔物は、人の腰のサイズの小人だが、小人と言う程可愛らしくない。
 体は完全に球体で、そこに腕や足が生えている。
 口には牙が付き出ていて、頭どころか、全身には全く毛が無く、手には石で作られた武器を持っていた。
 そしてその数は、百を超えそうな程確認出来た。


「さあ皆さん頑張りましょう。今回はハガンさん達も手伝ってくれるので、全滅させる事も出来るでしょう。張り切って戦いましょう!」


 村の大人達が武器を構え、毎日の日課をこなすように軽いノリで、無雑作に敵の群れの中へと突っ込んでいく。
 一人一人の動きは洗練されていて、敵の攻撃を躱しながら攻撃を仕掛ける等という事も、軽くこなしている。


 くわを使って戦っているフィアンヌを見ると、鍬の間で武器を受け止め、それを捻り、敵の武器を奪ったり、鋭く研いだその先で突き刺したり、無駄に強かった。


「うわ~、此処の村の人達って強いんだね。俺達も頑張らないと、敵が居なくなるんじゃないのかな?」


「そうね、私達も行きましょうか。このまま何もしない訳には行かないし」


「弱いからと油断するなよ? 囲まれたら避けきれないぞ。リーゼ、久しぶりに組んで見るか?」


「良いわよ、皆に私達のコンビネーションを見て貰いましょう!」


「私は遠くで応援していますね~~~~」


 リーゼとハガンは敵の群れへと突っ込んでいく。
 マッドは遠くへと避難し、安全な所で戦いを見守っている。 


「じゃあ私はラフィールとだね。まあ今回は我慢しとくかね。リーゼちゃんと組めなくて、残念だったねラフィール」


「五月蠅いな! ほら、敵が来てるぞ。言い合いは後にしよう…………ぜッ!」


 ラフィールは迫り来る魔物を斬り裂いた。


「敵軍、右側から攻めるぞ!」


「任せといて!」


 リーゼの剣は、前方の小人三匹を同時に斬り倒し、もう一本の剣で更に一匹を倒した。
 だが周りの敵は多く、自分の周りを囲まれる。
 リーゼの後ろにはハガンがフォローに入った。
 敵の攻撃を足で受け止め、一匹、二匹と蹴り飛ばす。
 そのまま敵の中を進み、その中心に陣取ると、襲い来る魔物を一匹、二匹と倒して行った。


 一匹、二匹、三匹。 五匹、十匹、ニ十匹。三十を超える頃には、殆どが倒された。


「また逃げて行くぞ、今日は絶対逃がすな! 今度こそ倒し尽くすんだ!」


 ダイギンの声が聞こえる。
 今まで何度か取り逃がしていたのだろう。
 全員が追いかけて行くが、何匹かはその追撃を逃れ、追い付けない距離に逃げていた。


「今日も逃げられたか……仕方ない、明日また頑張るしかないか」


「おじさん、また明日って、この魔物そんなに何度も来ているの?」


「おおっと、リーゼちゃん久しぶりだね、無事に帰って来たお祝いでもしないとなぁ。ふむ、これからパーティーでもどうだろう」


「いや、それやらなくて良いから、あの魔物の事を教えてよ」


「そうかい? 残念だなぁ。美味しいお菓子もあるんだけどなぁ。そうだなぁ、あの魔物が出てきたのは五日ぐらい前からだったかな? 最初は五匹ぐらいだったんだけど、その二匹を逃がしてしまってねぇ、次の日には十匹に増えていて、その次はまた倍になって、その次の日には五十を超えるぐらいになってたかなぁ。それから日が経って今の団体になってしまったんだよね」


「ちょっと、それって明日になったらもっと増えるって事? 今からでも追い駆けた方が良いんじゃないの。その内村が無くなっちゃうわよ!」


「いや、追い駆けては見たのだがねぇ、どうやら強い魔物の巣の近くに隠れているらしいんだ。何人かでその魔物を倒したいんだがね、そうすると村の警備が手薄になってしまうんだ。戦えるといっても、そんなに人数は居ないからね」


「じゃあ、その魔物さえ倒せれば殲滅出来るのね? それなら私達が行くわ、ついでにさっきの魔物も全部倒してきてあげるわね!」


「いや、しかしねぇ、リーゼちゃんに任せるのは…………う~む」


「ダイギン、場所を教えてくれないか? これは明日までに倒さないと不味いだろ。大丈夫だ、これでも俺達は危険な旅を乗り越えて来ているんだ。このまま俺達に任せてくれないか?」


「…………そうですね、先ほどの戦いも手慣れた物でしたし、皆さんに任せるとしましょうか」


「ええ、任せて、自分の村ぐらい護ってみせるわよ!」


「あの魔物の住処は、この村から西にある岩場です。皆さん、お気をつけて」






 リーゼ達は西の岩場を目指した。 



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