一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

21 大団円だと思ったんだけど

「げほっ……イバス……ありがとう、助かったわ」


「アスメライさんが素直にお礼を言うなんて、明日の天気は雨だったりして」


「あんた、私の事馬鹿にしてるんんじゃないでしょうね! 私だって助けられたらお礼ぐらい言うわよ! ほんの少し恰好良かったのに、全くもう!」


 その顔は怒ってはいるが、声には余り怒りを感じない。
 ずっと閉じ込められていたんだ、多少弱気にもなるのかな。 


「…………イバスさん、私、ますます貴方のことが好きになってしまいました。あの、今夜二人でお食事でも…………」


「えっと、今日は疲れているのでちょっと…………お二人も随分疲れているでしょう、今日は帰って、ゆっくりと休んでください」


「お姉ちゃん、そうしましょうよ。ちょっと体も洗いたいし、何か美味しい物も食べたいわ」


「う~ん、そうよねぇ……ちゃんと綺麗にしてからの方が良いものね。じゃあまた明日にでも…………」


「アツシ、報告もあるし、急いで戻ろう! 僕とアツシは歩いて行きますから、皆さんは馬を使ってください。さあアツシ、また変な敵が出て来ない内に、急いで戻るぞ!」


「お、おう、まあ仕方ねぇよな。馬は二頭しかいないし、流石に女の子を歩かせる訳にも行かないか。 ……っておい、まだ喋ってるだろ。置いて行くなこら!」


 僕は直ぐに村の入り口へと走り出した。
 エリメスさんに好意を向けられるのは悪い気はしないのだが、友達以上になる気はないと何度も言っているし、そろそろ諦めて欲しい。


 道中敵に出会う事なく、俺達は無事に王国にたどり着く。
 女性三人と別れ、僕とアツシはマルケシウス先輩へと報告しに向かうのだった。


「そうか、無事に救出出来たのだな。それは良い知らせなのだが、キメラに追われたと言っていたな? 先日お前達が見つけたトカゲもそうだが、他にも色々と報告が上がっている。もしかしたら何処かに抜け道でもあるのかもしれないな。そこでだ、お前達にはその調査をしてもらう。速やかに原因を調査し、その原因を排除、又は破壊しろ」


「いやあの、俺達今戻って来たばかりなんだが、もう今日は休ませてくれよ。もう大分疲れてるんだぞ」


「別に今日全てやれと言ってる訳じゃない、原因究明するまでは、お前達はそれに専念すると良い。さあ行け、さっさと任務を遂行しろ!」


 今日中にとか言われたら如何しようかと思ったが、時間を掛けて良いのなら、ある程度調査して、家で眠る事も出来るな。
 もうそろそろ夜になる。
 今日は少し聞きこみをして、帰って休むか。


「了解しました、速やかに任務を遂行します!」


「よし、行って来るぜ! …………っていっても、何すればいいんだ?」


「キメラに出会った事のある人に聞き込み、かな。僕達が出会った場所は分かっているし、エリメスさん達が襲われた場所も分かっている。って事は、今聞くべきは目の前のマルケシウス先輩だな。他にも報告が上がっているって言っていたからね。それで如何なんですか先輩、隠さないで教えてくださいよ」


「いや、隠す積りはなかったんだがな。お前達は毎朝王国近辺から、探索班が段々と捜索範囲を広げているのは知っているな? キメラが出現したと報告が上がっているのは、全てその内側からだ。この報告もマルファーが治める町からの定期便からだった」


 朝から探索の範囲が増えて行って、僕達がトカゲと戦ったのは昼ぐらいだったっけ?
 じゃあ探索班が昼前に行ける範囲内で、もうキメラは何処からか出て来た事になるのかな?
 あの青色のキメラもそこからやって来たとなると…………何処かに大きな穴でもありそうだけど、まだ誰も発見していないとなると…………森の中とか、人が余り見ない様な所に隠れているのか?


 南東の方角、この間虎を倒した近くに有った森。
 此処は少し遠い。
 昼前までに、王国近くまで来る事は出来ないと思う。 


 さてと、何処だろう?
 王国の近くの森と言えば、南にもう一つ。
 此方は余り大きくなくて、森というより林に近い。
 その森は、前に遺跡が発見されたと聞いた事が有る。
 だがその中は、調査隊が入っていた。
 もう既に調査は終わり、今は放置されているのだ。


 もしかしたらそこからか?
 …………いや、まだ決めるのは早いか。
 他にも何処か候補があるかもしれない。 


 他……他は、帝国へと続く岩場に、旅人達が休息を取る広場。
 此処は少し遠いか。
 それに何かあるならもう発見されててもおかしくない。


 北にある山脈はかなり遠いし、そんな所から来ているのなら探索班が発見しているだろう。
 やっぱり南にある遺跡が一番怪しいか?


「先輩、今日はこれで失礼します。まあ何かあったらまた来ますね」


「俺も行くぜ、じゃあまたな」


「おう、お疲れさん」


 僕達は先輩の部屋を後にし、今日はそこで解散した。
 僕は家に帰ると、その部屋の扉の前には一人の女性が立って居る。
 猫の様なその姿は、レーレさんだった。
 他の二人は居ないみたいだ。


「あれ、レーレさん、何か僕に用事ですか?  こんな所じゃ何ですから、どうぞ入ってください」


「い、いえ、男の人の部屋に入るのはちょっと…………少しお礼がしたかっただけですので。本当に今日は有り難う御座いました。貴方のおかげで、お二人を無事助ける事ができました。 …………そ、それで、その…………し、尻尾を、す、少しだけなら、触っても大丈夫ですよ…………」 


「えっ、良いんですか! でも僕が触りたいって如何して分かったんですか?」


「私、耳は凄く良いので、貴方達の話は全部聞こえていました。貴方の鼓動も、好意も凄く感じられて、べ、別に告白している訳じゃないんですよ! ただのお礼ですので、勘違いしないでくださいね!」


 本人が良いと言うんだ、これは触らなければ損だ!
 僕は躊躇わずに頭を触り、ゆっくりと手を下ろして行く。
 その手は背中を伝わり、尻尾の付け根へと到着した。


 トントントントントントントントントントントン


「う あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ!」


 尻尾の付け根をトントンと叩く毎に、レーレさんは声を上げ、そのお尻が上がって行く。
 そう、僕はこれがやりたかった!
 少しだけエッチだけど、まあこのぐらいなら良い…………かな?


 レーレさんは床に崩れ落ち、それでも僕はその手を緩めない。
 レーレさんの瞳は潤み、お尻だけが上がっている。


「優しく……してくださいね…………」


「ザワザワザワ」


 何だか辺りが騒がしく…………
 ハっと周りの状況に気が付いた。
 僕達の周りには、この状況を見守る人の壁が!


「いやいやいや、違います、違いますよ! そういう事じゃないですから! 本当にトントンしたかっただけですから!」


 僕は必至に言い訳して、レーレさんには帰ってもらった。






 こんな所でやるんじゃなかった。



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