一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 彼奴の実力を見誤るな

 時刻はもう夜。
 イバス達は見回り任務を続け、ついに入り口である正門を見つけた。


「おっと正門が見えて来たぞ。これで任務は終了だな」


「そうですね。まさかアツシさんがあんなのだとは思いませんでしたが、無事に終わる事が出来て良かったです」


「それは言うなって、まさかあんなのが出て来るとは思わなかったが、キメラを初めて自分で倒す事が出来て俺達は少し成長したんだぜ! それとなイバス、兵士として俺の相棒になってくれないか? 同レベルのお前となら一緒に成長出来ると思うんだ。どうだ、一緒にやらないか?」


「ええっと僕と同レベルって、本気で言ってるんですか? 剣の扱いもまだまだだし、それはないでしょ。武器に頼ってばかりだと、何時か死ぬにますよ。あとはそうだなぁ、僕と組むよりストリーさんの方が強いじゃないですか。なんで僕と組もうって?」


「確かにストリーは強い。だがそのレベルで訓練されても俺には無理! あんな訓練……いや拷問を何時までも続けていたら俺の体が持たないんだ! いきなり剣を握らされて、斬って来いって言われても、そんなの無理だっての! 俺にはもう少しゆっくりじっくりとだな…………」


「そんなんで良いんです? 敵は自分のレベルには合わせてくれないですよ? アツシさんが弱いからって、敵まで弱いのが出て来るゲームじゃないんだから。僕と組んで後悔しても知りませんからね」


「ああ、後悔はしないぜ、これで地獄から解放されるんだからな!」


「そうですか、じゃあ同等って事で接するから宜しく。一応上司に言っておくけど、却下されても知らないからな。それとストリーさんの方は自分で何とかしてくれよ」


「おう、ちゃんと説明しとくぜ! イバス、これから宜しくな!」


「ああ、宜しく」


 僕達はがっしりと握手をして、見回り任務が完了した。
 予定より時間が掛かったが、怪我もなく、五体満足で終えられて良かった。


「じゃあ僕は上司に報告して来るから、今日は此処で別れるとしよう。交渉がうまく行ったのならチームとして頑張って行こうよ」


「おう、また会えると良いな。じゃあ俺も帰るとするぜ。イバス、またな」


 去って行くアツシに手を振り、僕はマルケシウス先輩の元へ報告へ向かった。
 結構時間が掛かったからもう上司は居ないかもしれない。
 予想の通り、扉には鍵が掛けられ、ノックをしても反応がない。
 もう帰った後なんだろう。
 仕方ない今日は帰って寝よう。


 次の日の朝。
 僕はマルケシウスに報告をしに来ていた。


「その状態だと無事に終わったらしいな。少し遅かったから心配していたんだぞ」


「はい、見回りの途中にトカゲの様なキメラと遭遇し、戦闘の末なんとか撃退する事に成功しました。あまり強くはなかったですけど、尻尾が槍の様になっているタイプでした」


「何だと、それは重大な事だぞ! 何で昨日の内に報告しないんだ! 見張りの隙間を抜けて来たというのなら、捜索範囲の見直しと、他に仲間が居ないのかを調べなければ」


 昨日は鍵が掛かってもう帰ってたじゃないですか。
 そう言いたくても言えない雰囲気だ。


「俺は上に報告を入れて来る。お前は此処で待っていろ。後で色々と事情を聞かせて貰うぞ」


「は、はい」


 マルケシウスが報告に走り、聞き取りの為に三人が付いて来た。
 僕は昨日の状況を伝え、取り調べは終わる。
 特に罰せられる事もなく、僕はちょっとホッとしたのだった。


 そうだ、アツシの事も伝えなければ。
 こういう事は早い方が良い。


「あっ、先輩、アツシさんが僕とコンビを組みたいって言ってました。ストリーさんの許可が出たら組もうと思ってるんですけど、大丈夫ですか?」


「向うが組みたいと言うのなら問題ないだろう。精鋭のアツシさんに特別待遇を受けるとは、お前も随分と気に入られたようだな」


 そうか、先輩はアツシのことを知らないのか。
 このままアツシを精鋭と勘違いされると、物凄く面倒な事になりそうだ。
 ここはちゃんと伝えとかないと。


「先輩、実はですね…………」


 僕はアツシがどれ程の腕だったのか事細かに先輩に伝えた。
 でも先輩はそれを…………


「何? アツシさんがとてつもなく弱かっただと? 何の冗談なんだそれは、そんな事は誰も信じないと思うが、あまり変な噂を流すとお前の為にもならんぞ。これから気を付ける様に!」


 うわ! 信じて貰えない!
 どうしよう、噂が先行して本当の事が伝わららない!
 このまま行くと、アツシが凄い人って事で、任務のランクを上げられてしまいそうだ。
 そんなものを受けたら、僕達二人共死んでしまうじゃないか!


「いや、本当なんですよ。僕が指示を出して二人でキメラを倒したんですから、信じて貰えないと物凄く困ります!」


「くどいぞ! もうこの話は聞かん、もう二度と言うんじゃない! イバス返事は?!」


「はい、了解しました」


 不味いぞこれは、本当に不味い。
 今更コンビ解消とか無理だろうし、本当に凶悪な所に行かされたらどうしよう。


 僕が悩んでいる時、コンコンコンっと扉がノックされた。
 入って来たのはアツシだった。


「よう、昨日ストリーを説得するのは大変だったけど、ちゃんと許可を取って来たぜ。これでコンビが組めるな」


「おお、アツシさん、良く来てくれました。イバスから話は聞いていますよ、此奴とコンビを組むそうですね。こいつが妙な事を言うから、ちょっと叱っていた所なんですよ。アツシさんが弱いなんて出鱈目を言うんですよ。そんなはずないでしょうに。大丈夫です、きつく叱っておきました。此奴も反省しているので許してやってください」


「い、いや…………俺本当に弱いですから。本当に強くないんですよ」


「ハッハッハ、謙遜しなくても大丈夫ですって。そうだ、アツシさんに丁度良い任務があるんですよ。ほらこれです。じゃあ俺は別の用があるから、此処を離れます。じゃあアツシさん、宜しくお願いしますよ。ではまた」


「先輩、ちょっと待って! もう少し話を!」


「悪いなイバス、ちょっと急ぐんだ。また後で聞いてやろう」


 先輩は丸められた任務書をアツシに手渡すと、部屋を出て行ってしまった。
 その書類を見るのが怖い。
 きっととんでもなく難しいものかもしれない。


「アツシ、その中にはなんて書いてあるんだ…………」


「え~と、何々? 期限は二日、王国から南東にある洞窟。その中に住み着いたキメラを退治せよ…………キメラの大きさは二メートル程……えっ、何これ……これ俺達がやるのか?」


「うわああああああああ、思った通りになってしまったあああああ! 如何しよう、こんなの行ったら死んじゃうよ!」


「おい、今から別のものに変えて貰おうぜ。こんなの俺達二人じゃ絶対無理だ」


「書類を渡された時点で、もう任務受けた事になってるんだ。期限も近いし、今更取り消しなんて出来ないよ! もし先輩が見つからなくて、このまま放置していたら、任務放棄とみなされて罰を受ける事になりそうだし、もしかしたら最悪牢獄行きなんて事にも!」


「いや、でもこれ行って死ぬよりましだし、やっぱり止めとこうぜ」


「アツシ、新婚みたいだけど、牢屋に入れられたらきっとヤラレマスヨ」


「や、やられるって何だよ? 殺されるって言うのかよ」


「違うよ、男が男と、性的な事をするんだよ。性のはけ口なんてないから、新しく入って来た奴なんて直ぐ餌食になってしまいますよ」


「うあああああああ、何だそれ! 逃げ場が無いじゃないか! そんな事になるぐらいだったら死んだ方が…………いや、まだ死にたくない。どうするこれ!」


「もう行くしかないかも……でも二人じゃ無理だから、誰か強い人を護衛に付けよう! それが良い。そうしよう!」


「くっ、行くしかないのかよ。急いで仲間を差が無ければ、俺達の貞操が危うい! さあ急ごうぜ!」






 そして僕達は急いで仲間を探す事にした。



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