一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
5 初めてのキメラとの戦い
王国外周には何も無く、平和な風景が広がっている。
「そろそろ魔物でも出てきて欲しいぜ。俺の剣で斬り伏せてやる」
「アツシさん、頼もしいです。流石女王様の護衛まで勤め上げた人ですね。じゃあ敵が出たら任せますね。僕まだキメラと戦ったことないんですよね」
「おう、任せとけ! でも残念ながら、此処に敵は来ないんだよな。俺の実力を見せるのは、また次の機会になるだろうぜ。ふう、全く残念でならないな!」
「そうですね、此処にはキメラとか出ませんもんね。アツシさんの実力も見てみたかったですが、仕方ありません。この任務は早く終わらせてしまいましょう」
僕達は外壁の角を曲がり、王国の南の外壁沿いに到着すると、そこに居るはずのないものが、僕達の行くてを阻んでいた。
それは子犬位のサイズのトカゲで、背骨にヒレが生えていて、殆どただのトカゲだ。
その尻尾の先は長く鋭く、槍の様に尖っていて、それが此方に向いている。
目線が合っていて、完全に敵として見られている。
「あああああアツシさん、出番です! 僕離れて見ていますから、頼みましたよ! 敵は弱そうですよ、さあ行っちゃってください!」
僕はアツシさんの背中に周り、背中を押す。
「おおおお俺が出るまでもないって! 此処はイバスに任せるよ! 大丈夫、敵は弱そうだ。お前一人でもきっと倒せるぞ!」
さっきまで調子が良かったのに、何故か震えて俺の後ろに回り込んだ。
「ま、待ってください! 先ほど任せろと言ったじゃありませんか! いきなり僕に振られても困りますって。まさかアツシさん、こんなのにビビってるんじゃ…………」
「ち、違うよ! 全然違うよ! 倒せる敵なら、新人に譲るのは当然だろ。大丈夫、自身を持って行ってくれ。ちゃんと俺は見守っていてやるから!」
「えええ、僕一人だとちょっと怖いから、アツシさんも手伝ってください。お願いします!」
「う……わ、分かった。じゃあ一緒に戦おうか…………」
随分話と違っている。
アツシさんは本当に歴戦の勇士なんだろうか?
そこはかとなく駄目な匂いがして来る。
これが気のせいだったら良いのだけど…………
「おし、じゃあ行くぞ!」
「は、はい!」
僕達は剣を抜き、蜥蜴に剣を向けた。
小さいとはいえキメラはキメラだ。
そして小さいからと言って、それが弱いなんて保障もない。
聞いた話だと、石ころサイズのキメラが、体の中に侵入したなんて話も聞く。
このサイズだったとしても死ねるレベルだ。
「い、行かないのか?」
「アツシさんこそ…………」
アツシさんが動いてくれれば僕も勇気が出せるんだけど、アツシさんは動いてくれない。
「「…………」」
「じゃあ、せーので行くぞ。準備は良いな!」
「はい!」
「「せーの!」」
「…………」
僕も動かなかったのだけど、アツシさんは動く気配がなかった。
何かアツシさんが動かない気がしたので、僕は足を動かさなかったのだ。
もちろんアツシさんが動いたら行く気ではいたんですよ。
嘘じゃ無いです。
「アツシさん、何で行かないんですか!」
「お、お前が言ったら行くよ! ほら早く行けって! 大丈夫だ、後ろは任せてくれれば良い!」
この人本当に強いんだろうか?
「もしかして……アツシさんって実は弱いんじゃ…………」
「う……あ、ああそうさ! 俺はまともに戦ったことがないんだよ! 女王様の護衛の時だって、ストリーに付いて行っただけだし、俺そんな強くないんだよ!」
「うああああああ、じゃあどうするんですか! こんな小さくっても放って置いたら町に被害が出ますよ!」
僕達が騒いでいると、蜥蜴が威嚇の声を上げた。
「シギャアアアアアアアアアアアアア!」
「「ぎゃああああああああああああああああああああ!」」
この人が幾ら弱いと言っても、一人で戦うよりはましだろう。
僕一人だったら大怪我しそうだし、これを見逃せば僕達の責任だ。
大丈夫、このぐらいならやれると思う。
学校でも訓練していたんだし。
「…………ううう、もう覚悟決めます! アツシさんも手伝ってくださいよ。ここには僕達しかいないんですからね! …………もし逃げたらストリーさんに言いつけますよ」
「ヤメロ、それは止めろ。俺がとても不味い事になる。何方かというと、このキメラよりあっちの方が怖いんだ。 …………分かったよ。俺も戦うけど、お前もちゃんと戦うんだぞ!」
ちょっと落ち着こう。
キメラとの戦い、学校で習ったじゃないか。
まずは相手を観察して、弱点とか探って行くんだ。
相手の攻撃手段は牙、爪、そして尻尾。
特に注意するべきはあの尻尾だろう。
動きはそれ程速くない、十分注意すれば大丈夫。
「アツシさん、まずは落ち着きましょう。相手はたかだか子犬程度でしかありません。冷静に戦えば負ける事はないはずです。左右に分かれて攻撃しますよ。僕は右、アツシさんは左をお願いします」
「お、おう。なるべくこっちを向くなよ…………」
トカゲは僕達が移動すると、その顔を僕へと向けた。
アツシさんより僕の方が強そうに見えたのかな?
「アツシさん、蜥蜴がぼくに攻撃を仕掛けた時がチャンスです。躊躇わずに斬り倒してください!」
「よし、それぐらいなら出来る。やってやろうじゃないか! イバス、何時でも良いぜ!」
尻尾はアツシさんの方に揺らめいて警戒している。
僕はトカゲに向けて行動を起こした。
トカゲの攻撃を誘う様に剣を振るが、トカゲはそれに反応しない。
当てる積りがないのがバレているのだろうか?
もう少し足を踏み込み、今度はその顔目掛けて剣を振り下ろす。
しかしそれはヒョイっと避けられ、トカゲは僕の懐に!
その爪が足を狙い振りかざされた。
「うああああ、危ない!」
とっさに後に避けたが、トカゲは二撃目、三撃目と両手を振り回している。
「このやろおおおおおおおおおおお!」
アツシさんの放った攻撃は、トカゲの尻尾により受け止められた。
だが受け止められた剣は、ギャリギャリと音を立てながらその尻尾を両断していく。
あの人が持っているのが勿体ない程の切れ味だった。
尻尾は斬り飛ばされ、後はただのトカゲでしかない。
「ピギャアアアアアアアア!」
トカゲが痛みで悲鳴を上げている。
此処からは此方の番だ!
「研究所に貰っただけの事はあるな。尻尾も無くなったし、これなら行けるぜ!」
アツシさんの剣の腕前はそれ程では無かったが、その武器の性能がその欠点をカバーしている。
トカゲも必死に躱し続けるが、僕達二人の攻撃は次第に当たる様になり、トカゲはぐったりと倒れ落ちた。
トカゲにはまだ息があるようだ。
僕達は二人でその止めを刺すと、成長させてくれたトカゲに少し感謝をし、見回りの任務を続行した。
「やっぱり自分の手で命を奪うと、なんかこう、変な気分になるな。この世界じゃこれが普通なんだろうけど、俺はちょっと慣れそうもないな」
「アツシさん肉や魚を食ってるでしょ? それなのに良く言えますね。その肉も魚も誰かが殺してくれた物なんですよ。アツシさんは食べてるだけの積りでしょうけど、食べてる時点で殺してるのと一緒なんですからね。自分の手が今まで汚れてないなんて思わない方が良いですよ」
「分かってるって。死に近いこんな世界じゃ、俺の様な馬鹿だって気付くさ。今まで何も気づかなかった方がおかしいんだろうな。 …………でもあの世界じゃ、殆どの人が気づいていないんだろうけどな」
アツシさんの言ったあの世界が、どの世界なのか分からないけど、そんなことに何も気付もしない世界なんて、物凄く幸せで、同時に凄く可哀想なのかもしれないなぁ。
「そろそろ魔物でも出てきて欲しいぜ。俺の剣で斬り伏せてやる」
「アツシさん、頼もしいです。流石女王様の護衛まで勤め上げた人ですね。じゃあ敵が出たら任せますね。僕まだキメラと戦ったことないんですよね」
「おう、任せとけ! でも残念ながら、此処に敵は来ないんだよな。俺の実力を見せるのは、また次の機会になるだろうぜ。ふう、全く残念でならないな!」
「そうですね、此処にはキメラとか出ませんもんね。アツシさんの実力も見てみたかったですが、仕方ありません。この任務は早く終わらせてしまいましょう」
僕達は外壁の角を曲がり、王国の南の外壁沿いに到着すると、そこに居るはずのないものが、僕達の行くてを阻んでいた。
それは子犬位のサイズのトカゲで、背骨にヒレが生えていて、殆どただのトカゲだ。
その尻尾の先は長く鋭く、槍の様に尖っていて、それが此方に向いている。
目線が合っていて、完全に敵として見られている。
「あああああアツシさん、出番です! 僕離れて見ていますから、頼みましたよ! 敵は弱そうですよ、さあ行っちゃってください!」
僕はアツシさんの背中に周り、背中を押す。
「おおおお俺が出るまでもないって! 此処はイバスに任せるよ! 大丈夫、敵は弱そうだ。お前一人でもきっと倒せるぞ!」
さっきまで調子が良かったのに、何故か震えて俺の後ろに回り込んだ。
「ま、待ってください! 先ほど任せろと言ったじゃありませんか! いきなり僕に振られても困りますって。まさかアツシさん、こんなのにビビってるんじゃ…………」
「ち、違うよ! 全然違うよ! 倒せる敵なら、新人に譲るのは当然だろ。大丈夫、自身を持って行ってくれ。ちゃんと俺は見守っていてやるから!」
「えええ、僕一人だとちょっと怖いから、アツシさんも手伝ってください。お願いします!」
「う……わ、分かった。じゃあ一緒に戦おうか…………」
随分話と違っている。
アツシさんは本当に歴戦の勇士なんだろうか?
そこはかとなく駄目な匂いがして来る。
これが気のせいだったら良いのだけど…………
「おし、じゃあ行くぞ!」
「は、はい!」
僕達は剣を抜き、蜥蜴に剣を向けた。
小さいとはいえキメラはキメラだ。
そして小さいからと言って、それが弱いなんて保障もない。
聞いた話だと、石ころサイズのキメラが、体の中に侵入したなんて話も聞く。
このサイズだったとしても死ねるレベルだ。
「い、行かないのか?」
「アツシさんこそ…………」
アツシさんが動いてくれれば僕も勇気が出せるんだけど、アツシさんは動いてくれない。
「「…………」」
「じゃあ、せーので行くぞ。準備は良いな!」
「はい!」
「「せーの!」」
「…………」
僕も動かなかったのだけど、アツシさんは動く気配がなかった。
何かアツシさんが動かない気がしたので、僕は足を動かさなかったのだ。
もちろんアツシさんが動いたら行く気ではいたんですよ。
嘘じゃ無いです。
「アツシさん、何で行かないんですか!」
「お、お前が言ったら行くよ! ほら早く行けって! 大丈夫だ、後ろは任せてくれれば良い!」
この人本当に強いんだろうか?
「もしかして……アツシさんって実は弱いんじゃ…………」
「う……あ、ああそうさ! 俺はまともに戦ったことがないんだよ! 女王様の護衛の時だって、ストリーに付いて行っただけだし、俺そんな強くないんだよ!」
「うああああああ、じゃあどうするんですか! こんな小さくっても放って置いたら町に被害が出ますよ!」
僕達が騒いでいると、蜥蜴が威嚇の声を上げた。
「シギャアアアアアアアアアアアアア!」
「「ぎゃああああああああああああああああああああ!」」
この人が幾ら弱いと言っても、一人で戦うよりはましだろう。
僕一人だったら大怪我しそうだし、これを見逃せば僕達の責任だ。
大丈夫、このぐらいならやれると思う。
学校でも訓練していたんだし。
「…………ううう、もう覚悟決めます! アツシさんも手伝ってくださいよ。ここには僕達しかいないんですからね! …………もし逃げたらストリーさんに言いつけますよ」
「ヤメロ、それは止めろ。俺がとても不味い事になる。何方かというと、このキメラよりあっちの方が怖いんだ。 …………分かったよ。俺も戦うけど、お前もちゃんと戦うんだぞ!」
ちょっと落ち着こう。
キメラとの戦い、学校で習ったじゃないか。
まずは相手を観察して、弱点とか探って行くんだ。
相手の攻撃手段は牙、爪、そして尻尾。
特に注意するべきはあの尻尾だろう。
動きはそれ程速くない、十分注意すれば大丈夫。
「アツシさん、まずは落ち着きましょう。相手はたかだか子犬程度でしかありません。冷静に戦えば負ける事はないはずです。左右に分かれて攻撃しますよ。僕は右、アツシさんは左をお願いします」
「お、おう。なるべくこっちを向くなよ…………」
トカゲは僕達が移動すると、その顔を僕へと向けた。
アツシさんより僕の方が強そうに見えたのかな?
「アツシさん、蜥蜴がぼくに攻撃を仕掛けた時がチャンスです。躊躇わずに斬り倒してください!」
「よし、それぐらいなら出来る。やってやろうじゃないか! イバス、何時でも良いぜ!」
尻尾はアツシさんの方に揺らめいて警戒している。
僕はトカゲに向けて行動を起こした。
トカゲの攻撃を誘う様に剣を振るが、トカゲはそれに反応しない。
当てる積りがないのがバレているのだろうか?
もう少し足を踏み込み、今度はその顔目掛けて剣を振り下ろす。
しかしそれはヒョイっと避けられ、トカゲは僕の懐に!
その爪が足を狙い振りかざされた。
「うああああ、危ない!」
とっさに後に避けたが、トカゲは二撃目、三撃目と両手を振り回している。
「このやろおおおおおおおおおおお!」
アツシさんの放った攻撃は、トカゲの尻尾により受け止められた。
だが受け止められた剣は、ギャリギャリと音を立てながらその尻尾を両断していく。
あの人が持っているのが勿体ない程の切れ味だった。
尻尾は斬り飛ばされ、後はただのトカゲでしかない。
「ピギャアアアアアアアア!」
トカゲが痛みで悲鳴を上げている。
此処からは此方の番だ!
「研究所に貰っただけの事はあるな。尻尾も無くなったし、これなら行けるぜ!」
アツシさんの剣の腕前はそれ程では無かったが、その武器の性能がその欠点をカバーしている。
トカゲも必死に躱し続けるが、僕達二人の攻撃は次第に当たる様になり、トカゲはぐったりと倒れ落ちた。
トカゲにはまだ息があるようだ。
僕達は二人でその止めを刺すと、成長させてくれたトカゲに少し感謝をし、見回りの任務を続行した。
「やっぱり自分の手で命を奪うと、なんかこう、変な気分になるな。この世界じゃこれが普通なんだろうけど、俺はちょっと慣れそうもないな」
「アツシさん肉や魚を食ってるでしょ? それなのに良く言えますね。その肉も魚も誰かが殺してくれた物なんですよ。アツシさんは食べてるだけの積りでしょうけど、食べてる時点で殺してるのと一緒なんですからね。自分の手が今まで汚れてないなんて思わない方が良いですよ」
「分かってるって。死に近いこんな世界じゃ、俺の様な馬鹿だって気付くさ。今まで何も気づかなかった方がおかしいんだろうな。 …………でもあの世界じゃ、殆どの人が気づいていないんだろうけどな」
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