一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 戦いの後 (青色の門番編END)

 倒れたグラビトンが運ばれて行く。
 そうだ、アツシはどうなったんでしょうか!
 俺は直ぐにアツシの元へと向かい、その様子をうかがった。
 アツシの意識は戻っていないが、二人の治療のおかげで命は取り留めたみたいですね。
 取り合えずは良かったです。


「あっ、バールさん、良くやってくれました! これで時間が稼げます。じゃあ二週間後にまた来てくださいね。次はもうちょっと薬の量を増やさないと駄目ですが、ちょっと大変になりますけど、バールさんなら何とかなりますよね?」


「…………ん?」


「ああ、先ほども言ったと思いますが、薬が出来るまでは時間が掛かります。その間はまた戦って貰わないと、グラビトンさんの体が持ちません。だから頑張ってください!」


「………………」


 俺は無言で逃げ出した。
 こんな事に何時までも付き合っていられないです!
 薬が出来るまでって後何回戦えって言うんですか!
 もう無理、やってられない!
 命が幾つあっても足りないですって!
 あんな化け物と何回も戦うよりは、今までの仕事している方が幾分かましです。
 俺は全力で仕事に励んだ、、サボていた分を取り戻す程に。(今日の分のみ)


「おい兄貴、イモータル様が呼んでるってさ。直ぐに来いって言ってたぜ。」


 弟のブールに言われ、イモータル様の元へはせ参じた。
 今日の俺は一味違う。
 仕事もサボってないし、体調も万全だ。
 特に怒られる事はしていないはず。


「バール、良く来てくれました。グラビトンの捕獲ご苦労様でした。今日も研究所のお手伝いをしたそうですね」


 いつも通り女王様の隣にはガーブルが立ち、その身を護っている。
 これは怒られる雰囲気ではないですね。
 …………もしして褒められるのでしょうか?
 まあ最近は大変な事ばかりしてきましたからね。
 もしかしたら特別に報奨金をくれるとか!


「やはり貴方もグラビトンの様子が気になるのですね。分かりましたバール、グラビトンの事は全面的に貴方に任せましょう。これからは思う存分戦ってください。私は応援していますよ」 


 不味い!
 このままでは永久に、あのデカイのと戦い続けなければならない!
 このまま戦い続けたら何時か死んでしまいます!
 いっそ本音を言ってしまおうか。


 大丈夫です。
 俺は結構王国には貢献して来た。
 いきなり殺されるなんて事はないはずです。
 よ、良し言ってしまおう。
 お優しいイモータル様なら、きっと許してくれるはずです!


「ち、違うんですイモータル様。本当に偶々偶然アツシ達付き合っただけで、グラビトンの事は一切どうでも良かったんです。あんなのと何度も戦うぐらいなら、減給して貰った方が幾らかましです。お願いですから、誰か別の人と交代させてください!」


 シュラーンと剣を抜く音がした。
 ガーブルが剣を抜いて此方に向かって来た。


「言いたい事はそれだけか? イモータル様に意見するとは、どうやら死にたい様だな」


「ちょっと待ってください! ちょっと誰かと代わってと言っただけじゃないですか! 俺、結構王国に貢献してますよ。ちょっとぐらい許してくれたって良いじゃないですか!」


「そういう事は、あの世でほざくんだな! フンッ!」


 俺は容赦なく振り下ろされる剣を必死で躱したのだ。


「危ないですね。全く何するんですか! 当たったら死んじゃいますって!」


「当たり前だ。殺す気で振ってるんだからな! 不届きものは成敗してくれる!」


「ガーブル待ちなさい! 此処を血で汚す気ですか!」


「はッ、申し訳ありません! 直ぐひっ捕らえて、処刑場に連れて行きます!」


 イモータル様の仲裁が入った。
 しかし処刑場とかマジですか。
 こうなったら王国を捨てるしか…………


「ガーブル、今回は許してあげましょう。しかし困りましたね、他に良い人材は居ないのですよね。バールのような有能な方が抜けてしまうのは、ちょっと困ってしまいます。ああ何処かに良い人材は居ないかしら。バール、代わりの人が見つかるまでで良いの、もうちょっとだけ頑張ってくれないかしら。ちゃんと賞与も与えますので」


 これが俺を乗らせようとしてるのだという事は、分かってるんです。
 だって次まで二週間も時間があるんですから。
 分かってるんです。
 分かってるんですが、ここまで頼まれては、受けざるを得ません。


「うっ、もう一回だけなら…………」


「まあ、ありがとうございます。私はとっても嬉しいですよ」


 ニッコリと笑いかけられ、もう俺の逃げ道は塞がってしまった様だ。
 二週間後、また俺はグラビトンと戦っていた。
 結局代わりは見つからなかったらしい。
 …………本当に探してるのでしょうか。


「あああああああ、後何本打ち込めば良いんですか! もう十本目ですよ!」


 壁にはズラリと薬入りの槍が並べられている。
 幾らでも打ち込めるのだが、フォローをしてくれる仲間は居ない。
 もう三人共ぶん殴られてノックアウト済みだった。


「もう少しですバールさん。あとたった五本だけですよ! 薬は十分足りています、さあ、倒してしまいましょう!」


 ラグリウスの励ましの声が聞こえる。
 後五本…………俺が死にそうだ。
 俺は必死になってグラビトンと戦い倒した。


「やりましたねバールさん! これでまた時間が稼げますよ! たぶんあと三回ぐらいやれば薬が出来ると思います。また再来週おねがいしますね!」


「さ、最後は一体、どのぐらい打ち込めばいいのですか…………」


「え~とですね……次が三十回で、その次が六十回だから……たぶん百回も打ち込めば大丈夫ですよ」


「百回も無理ですって!」


 そのまた二週間後、俺は身を隠していた。
 あんなものに付き合っていられません。
 だがそれも…………


「バールが居たぞ! 捕まえるんだ!」


「逃すな追え、追え!」


 俺は直ぐに捕まって、結局また戦わされた。
 俺は生き残り、逃げない様に拘束され、最後まで戦わされてしまった。
 最後には俺一人で挑まされ、もう死ぬかと思いましたよ。


 どうなったかと言うと、今俺が喋ってるんだから分かりますよね?
 ああ、もう大変でした…………ガクツ…………


 研究所の治療により、グラビトンは少しずつ回復に向かっている。
 リハビリしながら復帰をめざしているが、まだ少し時間が掛かりそうだ。
 もう二度と暴走しないで欲しい、俺の安全の為にも…………




             END



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