一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

15 グラビトンの様子を見に行こうか

 三人は食事を終え、研究所のグラビトンの様子を見に行く。


「いよし、じゃあグラビトンの所へ行ってみますか。あんまり変わってないと思いますが、もしかしたら何か進展があったかもしれませんしね」


「なあ、俺良く分からないんだが、あのグラビトン? ってのが、何であんな事になってるんだ? 何かの病気なのか?」


 そういえばアツシが来たのは、確か町が破壊されてからでしたね。
 と言っても、俺も詳しい訳ではないのですが、情報を扱う俺が知らないとなると、この情報は相当重要な物なのでしょう。


「俺も詳しい事は分かりません。たぶん何かの病気なのでしょう。でもアツシ、この事はあまり口外しないでくださいね。変な噂が流れたら厄介な事になりますから」


「ああ、分かったぜ。妙な事には巻き込まれたくないからな」


 アツシにはああ言ったが、大体の予想は付いている。
 キメラ化した事で何かおかしな状態になったとしか考えられない。
 住民達が気づいてないという事はないだろうが、家族や友人にもキメラ化した人は多いのだろう。 もしかしたら、皆は気付かない振りをしているのかもしれませんね。


 そして俺達は研究所別館へと向かった。
 ラグリウスを訪ねると、大分雰囲気が変わたのに二人が驚いている。
 俺の手助けにより、今やそこそこのイケメンとして爆誕したラグリウス。


「あ、お茶が! うわわわわ、服に零れた!」


 まあ中身は一切変わってないんですけどね。
 ラグリウスはハンカチで濡れた部分を処理すると、此方に気づいた。


「あ、バールさん、良く来てくれました。さあ座ってください。あ、お茶をお持ちいたしましょうか」


 この様子だと、サミーナとはうまくやっている様だ。


「お茶は大丈夫ですよ。今日はグラビトンを見に来ました。ちょっと見学させて貰えませんか?」


「他ならぬバールさんの頼みなら、もちろん大丈夫です。さあ此方です。案内しましょう!」


「なあバール、なんか凄く懐かれてる様だけど、何かあったのか?」


「大した事はしていません。ちょっと女の人を紹介しただけですよ」


「な、何だと! そんな奴が居るのなら、俺に紹介してくれよ! もう少しこう、優しく接してくれる女の子とか居ると、凄く助かるんだけど!」


「アツシ、私が優しくないとでも言いたそうだな? お前が戦いで死なない様に、必死で訓練してると言うのに。ちょっと話し合いが必要なようだな」


 ストリーはそう言うと、アツシの額を掴み、指に力を入れて行く。
 優しさの種類は色々ありますが、まあ優しいのでしょうね。
 優しくなければ、死なせなたくないとは思わないはずですから。


「ぐおおおおおおおおおおお! これは話し合いじゃない! ストリー、言葉でじっくり話し合おう! まずはその手を放してくれ!」


「そんな所で遊んでないで、グラビトンの所に行きますよ。話し合いたいと言うのなら良いですけど、此処に置いて行きますからね」 


「い、行くから! ス、ストリー、行かないと置いて行かれるぞ。この手を放してくれ!」


 仕方なくストリーはその手を放し、二人はラグリウスの後ろへと付いて来た。
 ラグリウスが向かっているのは、この研究所の地下の様だ。
 地下には物凄く広い空間がつくられている。 


 まるで何かと戦わせる様な、ただ広い空間だった。
 その中心には台が設置され、グラビトンが体を縛られ寝かされている。
 あの大きな剣は外されているみたいだが。


「広いですね。此処でなら暴れられても被害は少ないでしょうけど、それでグラビトンの状態はどうなんですか?」


「見ての通り薬の影響で、まだ目覚めていません。しかしこのままでは不味いのです。薬が効き、人の部分が強くなれば、今まで何も食べていなかった反動が出ます。このまま行けば相当の衰弱が彼を襲うはずです。だからバールさん、彼と何度も戦った貴方に頼みがあります。彼を助ける為に、もう一度彼と戦ってくれませんか」


 またか…………また戦うのか。
 でも人助けだと言われたら断れないじゃないですか。


「分かりましたよ。戦えば良いんでしょ、戦えば。具体的には何をするんですか? このまま寝ているグラビトンを殴り倒せば良いんでしょうか?」


「いえ、彼には薬の解除薬を投入します。一時的に体を魔に近づけ、空腹や疲労を紛らわせてしまおうと思っているんですよ。もちろん薬に耐性が出来るので、そう何度も使えませんが、時間が稼ぐことが出来たなら、新しい薬も作れるはずです。さあ、用意が出来たなら解除薬を打ちますので、合図をお願いします」


「これは腕がなるじゃないか。アツシ、特訓の成果を見せる時だぞ。私達も戦いに参加しようじゃないか!」


「いや、無理無理無理! 俺の剣じゃ、一切ダメージ与えられなかったんだよ。邪魔にしかならないって!」


「大丈夫だ、私がフォローしてやる。アツシ、またとない実戦の機会だぞ。相手には武器もない、これほど楽な戦いは滅多にないぞ」


「うっ、確かにあの馬鹿デカイ剣はないし、逃げ回れば何とかなるかもしれない……か?」


 二人も戦ってくれるみたいですが、アツシのあの剣では傷も付けられない。
 良い武器があれば良いのだけど。


「そうだ。どうせ戦うなら、此処で武器を貸して貰ったらどうですか? 此処の武器は結構強かったんですよ。たぶん、槍以外にも色々あるんじゃないですか?」


「あ、はい。此処ではキメラに有用な武器の研究も進められていますので、あの装甲にもダメージを与える武器は用意出来ます。もし気に入ったのなら、差し上げても良いですよ」


「ストリー、強い武器だってよ! それ使わせて貰おうぜ!」 


「ふむ」


 スタスタと、グラビトンの元へと寄って行くストリー。
 愛用の剣を引き抜き、寝ているグラビトンの腕に剣を振り下ろした。


 ガギィィィィィィィン


 ストリーは相当思い切って剣を振ったが、グラビトンのその体には、傷一つ付いていない。
 寧ろ持っている剣の方が、刃こぼれをしていた。


「良し、武器を変えよう。此処に有る剣は全部持ってきてくれよ。手に馴染む物じゃないと使えないからな」


「分かりました、直ぐに用意いたしますね」






 ラグリウスが持って来た剣と槍がズラリと並んでいる。
 俺達はそれぞれ一本の武器を選び、戦いの準備を行なった。



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