一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達45

 リーゼ達は船の階段を駆け上がると、そこに有ったのは船を軋ませる巨大な触手だった。
 ピンクに染まったそれは、たことも烏賊いかとも何方でもとれる。
 水面には巨大な口の様な物が見え、その全貌は分からない。


「ちょっと皆さん、なんか物凄いのが出て来ましたよ! あんなのに勝てるんでしょうか」


「あれは…………クラーケンか? わざわざ俺達が乗ってる時に出ないでもいいものを。マッド、お前は船を脱出する準備をしろ。最悪船が沈むかもしれん! 他はあの触手をどうにかするぞ、放っておいたら船事潰されかねないからな! 一応ガジール達にも伝えてくれ」


 マッドは逃げる準備をする為、船内に入って行った。
 リーゼ達の荷物は少なく、直ぐに準備は出来るだろう。
 しかし船はギシギシと、大きな音を立て始めている。
 急がないと船が粉々になってしまうだろう。


「手分けして触手を潰して行きましょう。私は近くのアレをやるわ!」


 リーゼは船首に絡みついた、触手の一本をターゲットにした。


「よし、俺は帆に絡みつきそうな奴をやる」 


「なら俺は右の奴だね」


「私は左だね」


「リーゼ、海には落ちるなよ。あの口の中に流されたら助けようがないからな」


 海には大穴が開いている。
 刺の様な物がビッシリと生え、そこへ海水が流れ込んでいた。
 海に落ちたら飲み込まれてしまうだろう。
 これがクラーケンの口なのかもしれない。


「分かってるって。じゃあ皆、行くわよ!」


「応ッ!」「あいよ」 「任せとけ!」


 四人は一斉に散開した。
 リーゼは船首にへばり付いた一本に剣を横に滑らせた。
 剣は巨大な触手を簡単に斬り裂いたが、真っ二つにするには剣の長さが足りない。


「斬るには斬れるけど、これは少し大変だわね!」


 触手は船体にくっ付き動かない。
 このまま船を締め付ける気なのだろうか。 


「ちまちまやってても仕方ないか。根本を一気に斬り崩す!」


 船の先端。
 手の届くギリギリの位置、そこでリーゼは剣を振り下ろした。


 ザシュ!! 


 剣は触手を斬り裂くが、向う側にはまだ遠い。


「もう一度!」


 先の剣線に合わせ、V字に切れ込みを入れると、その部分がゴトリと切れ落ちた。
 リーゼはその部分に手を入れ込み、更に剣は向うへと進んで行く。
 何度も繰り返すと、一本の触手が完全に斬り離される。
 切断されていない部分は、まだ船に張り付いているが、此処からでは剣も届かない。
 根本から切断したい所だが、海の中でそんなことをしていたら、あっと言う間に飲み込まれてしまうだろう。


「次に行くしかないわね。他の皆は?」


 他の皆は船員と共に戦っている様だ。
 リーゼはそれを見ると船尾へと駆け抜けて行く。


「う、これは…………」


 船尾の方が触手の数は多く、その力により、船尾の一部は崩れつつあった。
 諦めて脱出するべきだろうか?
 だが小さなボートではあの大きな口に落ちてしまうだろう。


「何か……何かないかしら、あの穴を塞ぐ方法は…………!」


「リーゼさん、脱出の準備が整いました! 急いで脱出しましょう!」


 マッドが荷物を持ち、逃げる準備は完了したらしい。
 だが今ボートに乗り込んでも死にに行くだけだ。


「まだ無理よ! 絶対何かあはずよ、考えなきゃ………… ッマッドさん、今から言うことをして! 大砲があるのなら火薬が有るはずだわ。 それを小型ボートに乗せれるだけ乗せて、あの口の中に放り込むのよ。上手くすれば逃げて行くかもしれないわ」


「うっ、失敗したら逃げられませんよ。人数分のボートしかないですからね」


「今ボートで逃げても、あの口の中に吸い込まれるだけよ。良いから早くしなさい!」


「分かりました、急ぎます!」


 マッドが船の中へと入って行った。


「間に合えば良いのだけど、仲間を手伝って、船員の手も借りるしかないわね」


 そしてリーゼはハガンの元へ駆けつけた。


「ハガン、船尾はもう無理だわ! 船員の皆! 今マッドさんにお願いして、火薬をボートに乗せて貰っているわ。直ぐに手伝いに行ってください! ハガンも他の二人に伝言をお願い、此処は私が引き受けるわ!」


「よし、分かった。行くぞお前達!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 リーダーと思われる船員が、他の船員をまとめ上げ、船の中へと入って行った。
 ハガンもラフィールの元へ走って行く。
 六人は行っただろうか、これなら直ぐに準備は終わる。 


 リーゼは目の前の触手に止めを刺し、ハガンが行かなかったリサの元へと向かった。


「これで! 止めだよッ!」


 丁度リサは止めを刺している所だった。
 触手は両断され、船員達は次の触手へと向かおうとしていた。


「皆止まって! 船尾はもうダメよ! それより、ボートに火薬を積むのを手伝ってちょうだい。あの口の中で爆発させるわ!」


「分かったぜ、俺達に任せてくれよ! さあ行くぞ、てめぇら! 自分達の船は自分達で護るんだ!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 船員達は船の中へ向かって行った。


「リサさん、私達はボートが直ぐに出せる様にしましょう」


「ああ、急がないとやばそうだね」


「リーゼさん、火薬を持ってきましたよ! さあ皆さん、火薬をボートに乗せましょう!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 船員達の手伝いもあり、ボートに火薬をいっぱいに積み込んだ。
 なるべく濡れないように工夫をし、海にボートを降ろそうとしている。


「よし、積み終わったわ。じゃあ、あの口の中で爆発させるわよ。さあボートを下ろして!」


 船員の手により、ボートは海に降ろされ、水の流れにより巨大な口の中へと流れて行く。


「おめぇら、火矢の準備をしろ! 俺達の見せ場だ、絶対に外すんじゃねぇぞ!」


 船員リーダーの号令で、船員達は矢に炎を灯した。


「お頭、準備出来ました!」


「いよぉし、弓を構えろ!!」


 火の付いた弓を一斉にボートへと向けた。
 そしてボートは口の中へと飲み込まれて行く。


「今だ、放てえええええええええ!」


 炎の矢が火薬へと突き刺さる。
 その火が火薬に引火し、膨大な音を立て、火薬が弾け跳んだ。


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 巨大な口は海の中へと沈んで行く。


「やったぞ、おめぇら!  俺達の勝ちだぜ!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 船員達は喜んでいるが、まだクラーケンが死んだかどうか分からない。


「待って、気絶してるだけかもしれないわ。今の内に皆を呼んで、この船から脱出しましょう」


 だがリーダーは、リーゼの言う事を聞いてはくれなかった。


「考え過ぎだぜ、あんだけやったんだ、あの化け物だって一撃さ。さあ酒でも飲んで祝おうじゃないか!」


「もしクラーケンが死んでなかったら、次は命は無いわよ。悪いけど、私達は降ろさせて貰うわ。お金は置いて行ってあげるから、船の修理にでも回してちょうだい。マッドさん、直ぐにガジールさんとライルさんを呼んで来て!」


「はい、直ぐに呼んできます!」


 リーゼ達の緊迫した雰囲気を見ても、船員達は慌てようとしない。
 説得を続けている時間はないだろう。


「分かったぜ、勝手にしなよ。多少でも金が貰えるなら文句はねぇさ。まあ、直ぐに追いつくと思うけどな。うはははは!」


「皆さん、ガジールさん達を連れて来ましたよ! 早く行きましょう!」


「ええ、じゃあ、お金は置いて行くわ。それじゃあバイバイ、楽しかったわ」


 リーゼ達は船を捨て、大陸へと向かって進んで行った。
 リーゼは後を見ると、乗って来た船が、海から現れた新たな触手に船を包まれ。


 バゴオオオオオオオオオオオオオオン!


 船は粉々に砕け散り、海に投げ出された船員達は、大きな穴へと吸い込まれて行った。


「逃げればよかったのに…………」


「リーゼちゃん、仕方がないよ。彼等にとって船は大事な物だったんだよ。誰だって大事な物に対しては、楽観的に考えちゃう物なのさ。明日起こる大地震の事なんて、誰も信じやしないからね」


「そういう物なのかしら。 …………あ、陸が見えて来たわよ。さあ皆、頑張って漕ぎましょう!」






 リーゼ達はボートを漕ぎながら進み、ようやく大陸へと到着した。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く