一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 あの日の夢は何処へ? (婿探し編END)

 私はどんどんと改革を進めて行った。
 クラスの垣根を無くし、男女の出会いの場を無理やり作った。 


「校長先生、批判的な意見が大量に届いていますよ。なにかデモまで予定されてるみたいです。このままでは不味いんじゃないでしょうか?」


 私の補佐のルクレチアさんが心配している。
 変えてくれと言ったから変えてやったのに、全く勝手な奴等だわね。
 まあ戻す気なんて更々ないのだけど。


「さてと、今日は野外学習でもさせてみましょうか」


「何処か行く場所でもあるのですか? 大人数をいきなり受け入れてくれる所は有りません。それに食事は如何するんですか?」


「パンを三つぐらい持たせればいいんじゃない? 後は自分の手で持ち運び出来る干し肉とか? 兎に角、私は出かけて来るから、用意しといてね」


 私は学校を出ると、女王様の元へとやって来た。
 もしかしたら会ってくれないとも思ったけど、ちゃんと会ってくれたわ。 


「リアさん今日は如何しました? 校長を辞めたくなりましたか?」


「いいえ女王様、今日はちょっとしたお願いに来ました。今から国の外へ出ようと思うのですが、ちょっと兵士を貸して欲しいのです。皆に外の世界を見せてあげようかと思いまして」 


「あら、結構楽しんでるんですね。でもちょっと危険なのでは? 子供達を危険に晒すのはちょっと不味いですよ」


「そうでしょうか女王様。旅をしてきた私だから分かるのですが、町が滅びた等と言う話も聞いた事があります。子供だからと何も知らずに居るよりは、多少なりとも触れておくべきでしょう。それに、この国だって何時何が起こるか分かりませんよ。現に何度も、危険な目に遭ってますよね?」


「それはそうですが。親達が何と言うか…………」


「そんなものは放って置けばいいのです。例え子供だって、強さを持たなければ、この世界じゃ生きて行けませんからね。私、今後は戦闘訓練とかも追加しようと思っていますよ」


「…………分かりました、兵の中から選抜して何人か出しましょう。でも今回だけですからね。今後はちゃんと予定を組んでからお願いしますよ」


「もちろんですわ、女王様。ありがとうございましたー!」


 私はそのまま手を振って学校に帰った。
 女王様は…………


「ちょっと人選を間違えたかしら? まあ仕方無いわね。一年間は任せてみましょうか」


 等と言っていたが、私には聞こえていなかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 私は出発の号令を出した。


「さあ出発するわよ!」


「わ~い、外だ! 俺初めて行くよ」


「僕も、楽しみだね~!」


「え~、でも外って危ないんでしょう? 怖いお化けが出るって聞いてるよ?」


 子供達が思い思いの事を喋って、生徒と教師全員が私に続き歩き出す。
 外門に到着すると、そこにはズラリと兵士達が並び、私達を出迎えてくれていた。
 ぱっと見四、五十人は居そうだわ。


「あんたよくこんな事を思いつきますね? もし誰か死んだらどうするんです?」


 ああ、バールも居たのね。
 あれ、なんか忘れてるような気がするわ?
 何だったかしら?


「大丈夫よ、これだけ兵士が居るんだから。それに貴方達全員で倒せない敵なんていたら、この国はそれで終了でしょ?」


「此処に居る兵士だけじゃないから、そんな事にはならないと思いますが?」


「それでもよ。そんなに優秀な兵士が居なくなったら、またこの国は酷い事になるわよ? ただでさえ兵士は少なくなってるんだから、戦える人は幾らいても足りないわよ。この子達の何人かが兵士になるか知らないけれど、なるべく強い子に育てないといけないのよ。例え兵士にならなくたって、自分の家族位は守れる強さにならないと駄目なのよ」


「あれ? 結構色々考えてるんですね? 嫌々やってると思ったんですけど。まあそんなことはどうでも良いです。ほら、例のブツを早く!」


 バールが手を広げて待っている。
 例の物って何だろう、私何かしたかしら?


「何をやってるのか知らないけど、早く行くわよ。子供達を待たせちゃ悪いでしょ」


「え~と、俺無理やりにでもしてやるって言いましたよね? もう今してやりますよ!」


 バールは私の身体をガシっと掴み、この唇にキスをしやがったわ!
 あまつさえ舌までも!


「何するのッ、このケダモノが! 一回死んで来い!」


「はごああ! や、約束が……違……うッ…………」


 私はバールの顔面をぶん殴り、外門の外へと出た。
 子供達がはやし立てている。
 しかし私はいきなりキスをして来る様な奴は全く興味が…………ん? キス?
 そういえばするって言ってたっけ?
 あ~うんそうそう、そうだったわ。
 …………まあ許してあげましょうか。 


「うわ~、校長先生とキスしたわ~。うわ~、恋人なのかしら」


「なんか殴られてたから違うんじゃない? たぶん変態だよ」


「え~、変態こわ~い。変な事されないかな?」


「きっと大丈夫だよ。校長先生の方が強そうだったし。変なことしそうになったら護ってくれるって」


 妙な噂が立ってるわね。
 バールが変態なのは間違いないけど、私はそんなに強くないわよ。
 バールはトボトボと歩いているわね、後で慰めてあげようかしら。


「敵が出たぞー! 戦闘準備しろ!」


 大きな声を上げ先頭の兵士が叫んだ。
 見ると黒い犬。
 …………いや、狼だ。
 見えるだけで八匹。
 猛烈な勢いで走って来ている。


「よ~し、お前達、陣形を組め。子供達には絶対に護れよ!」


 この隊の隊長と思われる人物、確かハウケスとか言ったかしら、その人が命令を出し、兵隊の皆が子供達の周りを固めている。
 私も一応剣を引き抜き、もしもに備えた。


 狼は散開して、力の弱い子供達を狙う様だ。
 しかし此方もそんな事ぐらい把握している。


「結界班、用意しろ!」


「「「「「 応! 」」」」」


「上を飛び越えさせるな! 頭の上に魔法を放て! 相手の動きを制限するんだ!」


 完全に動きを制限された狼達は、盾を持った兵士に直進して行く。


 ガッッキーン!
 と盾にぶつかるものや、防御結界に弾かれるもの、その一瞬を狙い大量の魔法が叩きこまれた。
 残りは五匹。


 一旦引いた狼達は、次は集団になって襲い掛かる。
 正面から五匹。 


「前方から来るぞ! 鶴翼に構えろ!」


「「「「「 応! 」」」」」


 ハウケスの号令で、隊がV時に展開していく。
 狼達はVの真ん中に突っ込み、そのVが段々と閉じていっている。
 殲滅は時間の問題だろう。
 二匹、三匹と敵が仕留められ、そして…………


「不味い、一匹抜けられた! そっちへ行ったぞ!」


 正面の私、いや、狙いは後の子供達だろう。
 一応私だって勇者と名乗ったことが有る者の一人だ。
 この程度なら。


「敵じゃないのよねッ!」


 私の横を抜けようとした狼。
 その時、私はもう剣を振り抜いていた。
 狼の頭が顎の上から分断され、その血液が子供達へと降り注ぐ。


 泣き出す子供、興奮している子供、反応は様々だったが、これがこの世界の現実だ。


 この魔物達も此処まで増えたら、もう全滅させるのは不可能だろう。
 この子達が大人になっても、お爺さんになっても、きっとそれは終わらない。


 ここまでは ただのプロローグ。
 この日からなんやかんや、色々あって、私は伝説の校長等と呼ばれる事になる。
 私は宣言するわ、この子達を立派な戦士に育て上げて見せることを!






 …………あれ?
 私って男を探してたはずなのに、何で校長なんてやってるんだろ?
 まさかこのまま独身まっしぐらなんて無いわよね?



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